アウトブレイク

2016年07月26日 火曜日

ウォルフガング・ペーターゼン監督、ダスティン・ホフマン主演の1995年のアメリカ映画「アウトブレイク(Outbreak)」。

アフリカのザイールで発生した出血熱を調査にアメリカ陸軍感染症医学研究所のサム・ダニエルズ大佐が現地へと赴く。その出血熱は空気感染は無かったが致死率は100%で、発症から数日で死亡するものだった。
その危険性を重く見たサム・ダニエルズは上司に警戒通達の発令を要請するが、上司達は過去に起こった同出血熱の隠蔽工作に関わっており、自分達の保身の為彼の要請を却下した。
そんな中、アメリカの小さな町でその出血熱と良く似た症状を見せる患者が次々と現れ、軍は町を封鎖。サム・ダニエルズは上司から止められていたのに独断で調査へと向かった。

ウォルフガング・ペーターゼンの映画って、ドイツ時代の「U・ボート」は見せ方も人物描写も上手く、非常に素晴らしい映画を撮っていたにも関わらず、その後のハリウッド行ってからの映画って、どれも大味で及第点以下の微妙な映画しか撮っていないという印象があるけれど、この映画も正にそんな映画の一つ。

序盤は出血熱の恐怖を見せ、それが到達しないであろうアメリカに簡単に入って来て、あっという間に拡大するという、ここら辺りまでの緊迫感はサスペンスと言うよりもホラーにも近い恐怖感で非常に見せ入るのに、その後の中盤辺りから段々と展開が雑、大味になって行ってしまっている。

一番の問題は、出血熱によるアウトブレイクを描いているのに、そこに過去の出血熱の隠蔽の話を出して、ドナルド・サザーランド演じるドナルド・マクリントック少将という分かりやす過ぎる悪役を出してしまった為、話が強引で安っぽくなってしまっている事。
ダスティン・ホフマンが何とか感染源を見つけ出そうとし、人々を救おうとしているのに、自分の保身で殺人も構わず邪魔をすると言う盛り上げ役としての悪役の存在を必要としてしまったのは分からなくもないものの、大統領が出血熱封じ込めの為に町を住民諸共焼き消すなんて判断はある訳ないじゃん。既に情報統制は取れておらず町が感染しているという報道はされてはいるけれど、救えるかもしれない自国民を大量殺害すれば国民から総スカンを喰らい政権は崩壊するだろうし、多分こんな強硬手段を取るのは共和党選出の大統領だと思うけれど、共和党も今後政権与党にはなれず、党自体も崩壊するはず。
過去の隠蔽には政府主導で行っていた訳ではなく、ドナルド・サザーランド等の少数だけが関わっている様なのに、そのドナルド・サザーランドが自身の保身の為に今回の作戦も進めたらしいけれど、大統領の政治生命だけでなく、閣僚や議会等の大勢の行く末さえも大きく変えるこんな作戦をどうやって納得させたのか?とかが一切描かれず仕舞いで、ただ展開に都合がいいだけ。
それにこんな作戦なら、大統領や閣僚達が「現地にCDCや陸軍感染症医学研究所が入って調査しているのだから、もしかして救う方法があるかもしれないから、ホワイトハウスに逐一情報を入れろ!」と言って来るはずが、それが一切無く、ドナルド・サザーランド一人が現場で独断で指揮しているだけという粗さ。話を大きくしているのに、少数の個人達だけが活躍しているという矮小さに落とし込むので、まあ現実味は全然無い。
しかも、最後は原因である猿を見付けて人々が助かるのは良いのだけれど、小さな猿から速攻で大量の血清が出来るなんて都合良過ぎ。

それ以外にも、研究に当たっている陸軍感染症医学研究所やCDCの人達は皆優秀そうに描いているにも関わらず、眠たいからとか、患者が暴れたからという理由で次々と出血熱に感染してしまう展開は非常に安っぽいし、皆間抜け過ぎ。
ちょっと空気の線を引っ張られたら破けちゃう防護服って、そもそも駄目なんじゃないの?
陸軍感染症医学研究所も各ラボの扉が常に開けっ放しだったり、二重扉にもなっていない密閉も出来ているのか分からない扉だったり、出血熱が空気感染すると分かっているのに大勢の軍人達が町を出入りし、しかも出る時に除染等をしている様子が一切無いという、何処も非常に緩々。

あと、貨物を調べに行った所の担当者のおばちゃんがたまたま沿岸警備隊の人と不倫していて探している船の位置が分かるとか都合が良過ぎるし、その船に降りたダスティン・ホフマンが結局どうやってヘリコプターに戻ったのが描かれないし、やたらとヘリコプターが飛んでいるけれど燃料は大丈夫なの?とか、後半になるとやたらと突っ込み所が増えたし。

映画の展開としても、中盤辺りまでは硬派なSFサスペンスだったのに、終盤になると分かり易く仲間が次々と感染して、安っぽいお涙頂戴方向に行ったり、ドナルド・サザーランドは自分が何が出来る訳でもないのにヘリコプターに乗って来、ダスティン・ホフマン達の乗ったヘリコプターとの追い駆け合いを始める分かり易い映像的見せ場になってしまい、折角のサスペンスをぶち壊すアクション場面とか、ドンドンと安っぽいB級アクション映画へと落ち込んでしまう。
映画を盛り上げる為とは言え、余りにお座なりな展開で、序盤のハードSF的アウトブレイクからの落ち込み様ったらない。

役者は如何にも1990年代と言える人達が大勢出演。
ダスティン・ホフマン、レネ・ルッソモーガン・フリーマンケヴィン・スペイシーキューバ・グッディング・Jr、ドナルド・サザーランド。
ドナルド・サザーランドが悪い権力者って、正にドナルド・サザーランドっぽい。
あと、ケヴィン・スペイシーが結構普通な人の役していたのが意外。この映画の年、「ユージュアル・サスペクツ」と「セブン」にも出ていたから尚更。

この映画、役者は揃えたし、題材もそれをキッチリ描こうとしている前半は下手なホラーよりも恐怖を感じる現実にもあったパンデミックを描いており、非常にワクワクして見入っていたのに、中盤辺りからの緩々とした展開や、悪い敵がいるというこの映画の本来の題材には全く必要の無い要素の方を主軸にした為非常に安っぽくなり、折角の題材をぶち壊す方向に行ってしまったので、ワクワクが尻すぼんだったらありゃしない。
ウォルフガング・ペーターゼンが監督してなければ、もっと現実に有り得る硬派なアウトブレイクを描いた映画になっただろうに。本当にウォルフガング・ペーターゼンって、ハリウッドに行ってからは凡作駄作の連続で、「U・ボート」の栄光ばかり語られてしまうよなぁ…。
同じ様なパンデミックに対処する人々を描いた映画なら「コンテイジョン」の方が遥かにおもしろい。

☆☆★★★

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