コンテイジョン

2015年08月06日 木曜日

スティーブン・ソダーバーグ監督、マリオン・コティヤールマット・デイモンローレンス・フィッシュバーンジュード・ロウグウィネス・パルトローケイト・ウィンスレット共演の2011年の映画「コンテイジョンContagion)」。

香港へ出張していたベス・エンホフはアメリカに戻って来ると風邪の様な症状が発生し倒れ、病院に運ばれるが死亡してしまった。ほぼ同時期には香港・日本・ロンドンでも同じ様な症状を見せて死亡した人々が現れた。
これを知ったアメリカ疾病予防管理センターや世界保健機関が調査に乗り出すが瞬く間に感染は世界中に広がり、感染源も分からず、治療法もないまま、死者が増えて行くばかりだった。

パンデミックを群像劇で描いた映画だけれど、これが変に奇をてらった分かり易い盛り上げやどんでん返しを入れてしまい、派手ではあるけれど非現実的なサスペンスにする訳ではなく、非常に現実的に「未知のパンデミックが起こったらどうなるのか」を、初期に感染して妻と子を亡くしたマット・デイモン。CDCで現地で調査しているケイト・ウィンスレット。軍や政府機関とも対応しているCDCの責任者ローレンス・フィッシュバーン。インターネットで政府やCDCは嘘を付いていると言うフリーランスの記者ジュード・ロウ等をそれぞれに描いていて、常に引き付けられたまま最後まで一気に見てしまった。

この手の映画って、変に危機感を煽ったり、とにかく人々が暴徒化した所を描いてパニック映画にしがちだけれど、主軸はCDCとWHOが世界中で実地検分をして周って感染源を見つけ出し、ウイルスを分析して治療薬を作り出す事なので、非常に地味ではあるけれど現実のパンデミックが起こった時もこうなるのだろうなと思わせるだけの説得力はあり、それをちゃんと娯楽映画として成り立たせている上手さがある。フィクションではあるけれど、実際のパンデミックに対処した時の実録を映画化した様な感じ。
この物語の主軸のパンデミックの対応だけでなく各人物もキッチリ描いており、それまで的確に対処、指示していたローレンス・フィッシュバーンが自分の妻には現状を明かしてしまい、それが外にも漏れた事で非難されると言う、心情的には分かるけれどその不注意さが大きな問題を引き起こしてしまう行動を描いていたり、ジェニファー・イーリー演じる医者は冷静に治療薬を開発したりとCDC内でも対照的な人物を描いたり、マット・デイモン親子で町の人々の反応を描き、WHOのマリオン・コティヤールの香港での調査から実力行使してでも助かろうとする人々を描いたりと、決して誰もが正義のヒーローではなく普通の人間として描き、様々な人々を台詞よりも行動や演技できっちりと描いていたりと人間ドラマとして非常におもしろかった。
ジュード・ロウ演じる記者は、「政府やCDCは製薬会社とつるんでいて、株価や利益を上げる為に情報や治療薬を隠している」という陰謀論をインターネットで流して一躍時の人となる訳だけれど、この様な似た陰謀論って多くの映画等でも使われ、その場合は大抵それが真実となるけれど、実際に人々を救おうと真面目に働いている人からしたら本当に迷惑な言いがかりで、この映画ではCDCやWHO等政府機関の人々がパンデミックを抑え込み、真面目に人々を救おうとしている所を描いている為、記者の発言や行動は初めは真実味や正当性があったのが徐々にボロを出し始め、結局はお金や注目の為にやっていた事が分かる展開は皮肉的で良い。ただ、記者がレンギョウを服用していたので感染症が治ったという件では、それが後で実は嘘でそもそも感染もしていなかった事も分かるけれど、見ている途中では「何でレンギョウで治るって知っているの?」とずっと疑問だった。後で調べてみたら、これってホメオパシーから来ているのが分かって納得。インターネットの自分が信じたい真実やホメオパシーや民間療法等が優先され、これまでの科学知識や情報を総動員して、多額のお金をかけて、多くの人々が携わって情報分析や対処を研究したりしているのが無視され被害が拡大するという、現実でもある事の批判として入れていた訳か。ここでも、真っ直ぐ人々を描く訳ではない感じがあって良い。

役者の使い方も上手い。一番初めにグウィネス・パルトローが出て来るので彼女が主役かと思いきや、あっさり退場してしまうし、マット・デイモンが抗体が出来て助かるので感染症に対する切り札として活躍するかと思いきや普通の父親で終わるし、あれだけ活躍していたケイト・ウィンスレットは中盤でいなくなるし、マリオン・コティヤールも活躍していたのに変な事件に巻き込まれるし、決して真っ直ぐ王道なパニック映画として描かないスカす感じは好き。
ただ、マリオン・コティヤールの監禁の話は結局どうなったのかの結末が描かれないので、前半の感染源の追求だけでも良かったのじゃないの?とは思った。ストックホルム症候群の部分を描くなら中途半端。
あと、わたしの中では「ローレンス・フィッシュバーンが出て来ると外れ」の偏見が強かったけれど、この映画は当たりだった。

この映画、パンデミックを真面目に扱い、その現実的な対処で十分サスペンスになっていたし、群像劇も各人が関わる様で関わらない程良い距離を取り、それを小気味の良い編集で見せ、劇的な展開は無くとも一気に見せてしまうだけの力強さがあった。こういうサスペンス、パニック映画もあるんだなぁと非常に感心した映画だった。

☆☆☆☆★

« | »

Trackback URL

Leave a Reply