U・ボート[劇場公開版]

2015年08月02日 日曜日

ウォルフガング・ペーターゼン監督・脚本、ユルゲン・プロホノフ主演の1981年のドイツ映画「U・ボート[劇場公開版](Das Boot)」。
ロータル=ギュンター・ブーフハイムの小説「Uボート(Das Boot)」を原作としたテレビシリーズとして製作されたが、映画として公開。その後、50分6話のテレビシリーズとしても放送された。

第二次世界大戦期、ナチス・ドイツの占領下のフランスの港から連合軍の護送船団攻撃の為、一隻のUボートが出港した。護送船を攻撃出来たが、今度はイギリス軍が封鎖しているジブラルタル海峡を抜けてイタリアに向かえという指令が出された。

戦争下の潜水艦モノではあるけれど、描いているのは潜水艦に乗った人々の日常や恐怖で、戦争モノであるけれど戦闘よりも人間ドラマをじっくりと見せる、非常に重厚で素晴らしい映画。

潜水艦に初めて乗る広報部のヴェルナー少尉という狂言回しを配置し、新参者である彼目線で潜水艦内での生活の紹介から始まり、狭い空間に押し詰められてはいるけれど戦闘の無い何も無い退屈な日々を描き、そこから敵船団への攻撃と回避へと一気に緊張を見せ、その恐怖から抜け出したと思ったら、今度は更に無茶な作戦と沈没という展開は緊張と緩和の付け方が抜群に上手く、その中で乗組員の気持ちを言葉少なく表情で描き、戦争モノや潜水艦モノよりも人間ドラマとして抜群におもしろい。
艦長は常に冷静だけれど乗組員を気遣う優しさもあり、支援が真面に無い中で続けられる無茶な作戦を忠実に行ないながらも司令部に対して批判的という、単なる荒くれ者で戦争好きな国粋主義者という訳ではない現場で生きている軍人を描いているし、下士官達も戦争に引っ張って来られた普通の人々で普段は騒ぐし、戦闘になれば必死に自分達の仕事をし、中には恐怖からおかしくなってしまうが後から自分の態度を反省したり、一方で国のやり方を妄信している人物もいたりと、これだけ限定された中で人数的にも多くない人々をちゃんと一人の人間として描く上手さは素晴らしい。

それに緊張と緩和の演出も、艦内が狭いのであちらこちらに食料が置いてあったり吊るされていたりと、それが最初は微笑ましい日常だったのが、戦闘になれば食料が床に散らばり誰も見向きもしないという日常からの変化や、吊るしてある食料さえ邪魔になったりと、小道具も一つの表現手段として用いており、細かい所での演出も行き届いている。

戦闘場面も第二次世界大戦なので潜水艦にレーダーが無く、外から聞こえるソナーの音と推進音だけで敵を示し、その見えない敵の恐怖や、自分達からの攻撃も逃げる事さえも出来ないジリジリとした緊張感は見ていても力が入りっ放しになる演出。
最後の沈没からの脱出も、大慌ての修理から皆が呼吸が苦しくもなりながら静かにただまっているという場面も、見ているこちらが疲れる程の緊張感。
また実際のUボートがこの映画内のセットと同じだったのか分からないけれど、艦内の中央に一直線に通路がある為、カメラをその通路をずっと移動しながら撮影したり、その狭い通路を乗組員が走り回ったりする映像も緊張感を高めるし、見ている方がまるで潜水艦の中に本当にいるのかの様な効果も生み出し、この映像も緊迫感を非常に上手く作り出している。

そして、他の潜水艦モノでは船長や乗組員内での意見の対立が徐々に大きくなり致命的な所まで行く事があるけれど、この映画が他の潜水艦モノとは少し違うのがそれがほぼ無い事。ここのサスペンスで描く訳ではなく、あくまで普通の人間を描く事を重視している事が分かる部分。
それに、一番の見せ場が戦闘ではなく、戦闘後の行動というのもおもしろい部分。護送船団攻撃後の敵をどうやって静かにやり過ごすか?だったり、攻撃を受けて沈没した中から修理を行って抜け出せるか?が見せ場になっているのもおもしろい。単なる派手さを重視した戦闘モノとは一線を画す所だと思う。

そして、ずっと乗組員の人間模様と回避や修理を描いて来た分、最後の最後の展開は戦争というモノを突き付ける為に非常に効果的になっている。この積み上げて、積み上げてからの壊しは本当に上手いし、これによって見事に映画が締められる。

非常に上手く、おもしろい映画ではあるけれど問題と言うか、当時の状況や地理を分かっていないと分かり難い部分もあり、このUボートが何処の何を攻撃しに行っているのかがいまいち分からずモヤモヤしたまま進んでしまったし、次の指令であるジブラルタル海峡を抜けるのも、「確かフランスから出向したのに、ジブラルタル海峡を抜けるのって、西からずっと回って来たの?結局同じ港に戻ったのはジブラルタル海峡抜けたの?抜けていないの?」と、何処に向かっているのかがよく分かっていないのでモヤモヤ。
それよりも一番の問題は画質の酷さ。この映画はムービープラスで見たのだけれど、画質がビデオテープを何度もダビングして何度も見た後に今のテレビに映したかの様な粗さとぼやけっぷり。これって、現存するフィルムが全部こんなに画質が悪いんだろうか?だとしたら勿体無い。

この映画、潜水艦モノとしては人間ドラマを描き、緊張と緩和の演出や展開の上手さと言い、非常に素晴らしい映画。これだけの見入る映画を作ったウォルフガング・ペーターゼンは素晴らしい。このドラマ版はこの映画以上に人々を詳しく描いているだろうから是非見てみたい。
ただ、「ウォルフガング・ペーターゼンは素晴らしい」と褒めたけれど、これだけの映画を撮ったのだから当然の様にハリウッドで大作を監督する様になったけれど、ハリウッドでの彼の監督作では「ザ・シークレット・サービス」は平均点位の出来で、この映画からしたら凡庸な出来だったし、「エアフォース・ワン」はつまらなかったし、その後の映画も批判が多かったり、この映画の様な切れた演出や展開は何処に行ってしまったのだろうか…?と思ってしまったりもする。

☆☆☆☆★

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