ワルキューレ
2015年08月03日 月曜日ブライアン・シンガー製作・監督、トム・クルーズ製作総指揮・主演の2008年の映画「ワルキューレ(Valkyrie)」。
第二次世界大戦末期のドイツ。北アフリカで負傷しドイツに戻って来たクラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐の政権に対する批判的な考えから、反ヒトラー派の一味に加わる事となる。
反ヒトラー派ではヒトラーの暗殺を何度も企てていたが失敗。そこでシュタウフェンベルク大佐が考え出した、ヒトラーの暗殺とドイツ軍の中心であるベルリンを偽の指令によって掌握する「ワルキューレ作戦」を実行する事になる。
この映画は、1944年に実際に起こったクーデター「ヴァルキューレ作戦」を題材にしており、その事件の顛末を描いている。
映画としては、ほぼシュタウフェンベルク大佐を中心に描き、緊張感のあるサスペンスとはなっているけれど、どうにも物足りない。
わたしはこの時代のドイツの知識はそれ程は無く、「ヴァルキューレ作戦」も知らなかったけれど、「確かヒトラーって、暗殺されたんじゃなくて自殺だったはず…」と思うと結末は見えて来て、この歴史を知っていればこのクーデターがどうなるかのサスペンスでは引っ張れないから、各登場人物の人間模様で見せる方向に行くのかと思うけれど、それがいまいち弱い。
主人公のシュタウフェンベルク大佐は元々現状に不満を持っている人物ではあるものの、負傷した事によって更にクーデターへの思いを強くさせているのかははっきりしないし、家族を守る為にクーデターを起こしたとも少し違う様だし、国民や国の為とは言うけれど、それが具体的に描かれる事も無いので主人公の考えどうにも見え難い。
他の登場人物達もそうで、何故この人はクーデターを起こそうとしているのかがいまいち分かり難く、オルブリヒト大将は「実行力が無い」と政治家を追い出して実行したにも関わらず急に日和ってしまい副官のクイルンハイム大佐が強行するけれど、この二人の関係性が大して描かれないままなので掴み難いそれぞれの対応だし、シュタウフェンベルク大佐の副官ヴェルナー・フォン・ヘフテン中尉も始めは真面目なヒトラー派の風で登場したのに、特に何の躊躇も無く反ヒトラー派に速攻でなってしまい、主人公の常に側にいて重要な人物ななずなのに彼の人物像が全然描かれないままだし、狼の巣で通信担当だったエーリッヒ・フェルギーベルもあれだけ参加しない風だったのに、次に現れると賛同者になっていてその心変わりが全然描かれず、ヒトラー暗殺の報告も曖昧にしてしまうし、「何?何?」と結構見ている方を突き放して進んで行く部分がある。
それに一番の違和感は、やっぱり皆ドイツ人なのに英語を喋っている所。
始まって少しだけトム・クルーズがドイツ語で独白しているので、「お、ちゃんとドイツ語でするんだ…」と感心していたら、そのドイツ語も直ぐ終わり突然英語で喋り出してしまったので、結構肩透かしと言うか、ズッコケな間抜け感を感じてしまった。字幕見ているので気にならなくなって行くが、それでもドイツ人達が「連合軍がやって来て…」と英語で話している場面なんかは、「あんたら何処のどいつ…なんだ?」とダジャレも言ってしまいたくなってしまう。
文章はドイツ語なのに、それに関して喋っているのが英語だったり、ドイツでクーデターを狙う人々が英語で喋っていると連合軍のスパイじゃないの?とも思ってしまうし。
確かこの映画の予告や情報が出た時、トム・クルーズがヒトラー暗殺をする映画らしいと分かって、絶対イギリス軍の諜報員か何かが主人公だと思っていたし。
トム・クルーズ自体は何時もの感じとは少し違い、何か地味な目立たない感じを出していて、演じている役としてはアクションだけではない演技派を狙っての感じで中々良いけれど、やっぱり終始英語だとそれも台無し。
太平洋戦争期の日本人の軍人を、例えばジャッキー・チェンとか、イ・ビョンホンが演じ、終始中国語や韓国語で喋っていたらどんなに真面目な内容でも、日本人から見たら完全にコメディになってしまうのと同じで、ドイツ人から見たらトム・クルーズがドイツ軍人を演じて終始英語だと相当滑稽なんだろうなぁ。まだ昔のハリウッド映画ならまだしも、最近のアメリカ映画でこれやってしまうと流石に違和感しかないだろう。
この映画、人物描写も結構薄いし、どうしてそうなったのか?の展開に対する説明不足な部分もあるし、本来なら三時間位かけてそこら辺をもっと丁寧に描くべきだろう部分を端折ってしまい、二時間の枠内に収めた駆け足感は拭えない。もうちょっと丁寧に描いていたらもっと重厚な仕上がりになったろうに。
映画X-MENシリーズでは登場人物も多いのにそこら辺も上手く描き、ちゃんと娯楽映画に仕上げていたブライアン・シンガーだったのに、今回は製作も監督もしているのにブライアン・シンガー作としては及第点に届いていない感じ。
☆☆☆★★