ディパーテッド

2014年12月03日 水曜日

マーティン・スコセッシ製作・監督、レオナルド・ディカプリオマット・デイモン共演の2006年の映画「ディパーテッド(The Departed)」。
香港映画の「インファナル・アフェア」のアメリカでのリメイク映画。

家族や親戚が犯罪者ばかりで、そんな境遇から抜け出そうと警官となったビリー・コスティガンは、上司の命令で身分を偽り町のギャングの手下として潜入捜査を命じられる。
一方のコリン・サリバンは子供の時からギャングのボスに面倒を見てもらい、やがて警官となり、警察の内部情報をギャングのボスへと流す協力者となっていた。
警察はギャングのボスの逮捕の為の捜査を続ける中で警察に潜む裏切り者の存在に気付き、捜査を始め、その責任者にコリン・サリバンが命じられた。

「インファナル・アフェア」を見たのだけれど、「確か見たよな…」という位印象に残っていなかったので、中々見入って見られた。ただ、「インファナル・アフェア」を見終わった自分の感想を見たら、この映画と同じ物足りなさを感じていた事に気が付いた。それは主役二人の背景や行動の理由となる描写が足りない気がした事。
レオナルド・ディカプリオは抜け出そうとした世界に深く入る事になりドンドン追い詰められて行くのは見せる所なんだけれど、人殺しを見続け、それを放任している葛藤の中で、何故任務としてやり続けられる理由になっているのかが出て来ないので、その行動原理がどうにも解せない。根本的に良い人以外の理由が見えなかった気がする。
一方のマット・デイモンは、その行動の理由は子供の時からの恩義なんだろうけれど、犯罪者の人生から必死に抜け出そうとする感じは見えず、結局何がしたいのかがはっきりしないままで、マット・デイモン自体のボヤッとした感じもあって、単に全ては流れに身を任せてその場を取り繕いながら、あっちゃこっちゃに良い顔したいだけの様に思えてしまい、レオナルド・ディカプリオに比べると物凄く印象が薄くなってしまっている様に思えて仕方なかった。必死に生きようとするレオナルド・ディカプリオに共感性は出るだろうし、最後まで曖昧なまま終わるマット・デイモンだと、対立するはずの二人の均衡が無く、レオナルド・ディカプリオの主役感ばかり残った。

展開は常に緊迫したまま進んで行き、一気に見せ切るので集中力は切れないまま、息を切らせず見せて良いのだけれど、確か「インファナル・アフェア」でもあったと思うのだけれど、最後に「実は潜入者はもう一人いた」って所で一気にどっちらけになってしまう。これって途中で何かを匂わせる場面があればいいのに、それまでで何の振りも無く急に出してしまい、単に最後にもう一つ劇的な場面を作り出す為だけの展開でしかなくて、物凄い取って付けた感しかないのがどうにも駄目。最後の一番盛り上がる場面で「何じゃそりゃ…。」になってしまうのが痛い。
それに、ヴェラ・ファーミガ演じる精神科医のどっちつかずも、何かいまいち。レオナルド・ディカプリオは正義の人だし、マット・デイモンは曖昧だけれど、それ以上にどっち付かづの人物で、自分の患者にすぐホイホイ付いて行く様な「それで精神科医ダイジョブなの?」と思ってしまう軽さだし、わざわざ主人公二人と関係があるのだから、この彼女を巡って二人が繋がり揉めるのかと思ったら全く二人は会う事無く、最後の仕掛けの為だけに登場させた感じばかりで、この役で何を見せたかったのかもいまいち分からなかった。

「良い者と悪者が入れ替えっ子」という話自体は星新一のショートショートで似た様な話があるし、「インファナル・アフェア」も見たのでそれ程新鮮味が無かったけれど、非常に小気味良く短く切ったり、間に別のカットを挟んだりする編集で、二時間半もある長尺なのに一気に見れた。ここら辺はマーティン・スコセッシの腕の見せ所だろうし、それに何より役者陣の濃さと存在感でも持っていた。
レオナルド・ディカプリオって、アイドル俳優的な時は全然引っ掛からなかったけれど、徐々に歳を取って来ると熟成したおっさん感があって中々良い感じになっていると思っていたけれど、この映画での若さのある感じの役でも表情で語る演技は素晴らしいじゃない。本来役柄的にもレオナルド・ディカプリオを喰う位じゃないといけないマット・デイモンが何時もの感じとそれ程変わらずだったのもあるのかもしれないけれど。やっぱり、この役はマット・デイモンだと優し過ぎる感じや押しの弱さを感じてしまって、マット・デイモンじゃない人の方が良い様に思えた。
ジャック・ニコルソンは犯罪者を演じさせたら流石。顔での有無を言わせない感が半端無く、良い意味での顔芸の天才。ただ、その迫力が凄い分、靴でボコボコ殴る場面は「たかが靴なのに…」と思えて、滑稽に見えてしまったけれど。
珍しく嫌な奴を演じていたマーク・ウォルバーグも中々良い役所に付いていた。ただ、役自体は単に口の悪い嫌な奴なんだろうけれど、マーク・ウォルバーグが演じると奮起させようと煽っているのかとも思えてしまい、中途半端な役にも思えたのだけれど。それに、見終わると「あれ?この映画、『ザ・シューター/極大射程』のスワガー・サーガじゃん」と思ってしまう役と言うか、おいしい役所だった。
マーティン・シーンの警察の上司役も、彼の人の良い感じがマーク・ウォルバーグの悪態付く役の対比となって、静かだけれど味がある。
アレック・ボールドウィンも上司役で出ているけれど、アレック・ボールドウィンってどうしてもコメディの印象が強くて、暴れたりはしゃいだりすると、コメディ見ているかの様な気がして仕方無かった。

あと気になったのは、やたらと「Fuck!Fuck!」言う事。犯罪者やガラが悪いという記号としては分かるんだけれど、やたらと連呼されても段々と馬鹿っぽくしか聞こえて来ず、お互いに潜入という題材なのに、どいつもこいつも頭が悪いアホ共にしか見えなくなってしまうので逆効果だし、制作側の悪乗りにしか思えなかった。

この映画、香港映画のリメイクをアメリカ映画でやったら当然違う物になるけれど、渇いた雰囲気で暑苦しい人々を描くという部分では中々良いし、演出も見せるし、各役者を見るのも楽しい映画だと思う。話自体は嫌~な感じしかしなけれど。それでも最後の最後がアメリカ映画の制作段階からのマーケティングの重要性が見て取れる終わりになっていて、嫌~な感じに救いを求めるのもおもしろい所。

☆☆☆★★
 
 
関連:インファナル・アフェア

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