ハンニバル

2014年12月02日 火曜日

リドリー・スコット監督、アンソニー・ホプキンス主演の2001年の映画「ハンニバル(Hannibal)」。
映画「羊たちの沈黙」の続編で、トマス・ハリスの小説「ハンニバル」が原作。

「羊たちの沈黙」から10年後。クラリス・スターリングにハンニバル・レクターの情報があると呼び出したのは、かつてハンニバル・レクターに顔の皮を自ら剥がされた復讐を目論むメイスン・ヴァージャーだった。やがて、クラリス・スターリングはハンニバル・レクターがイタリアにいる事を掴んだ。

「羊たちの沈黙」が非常に出来が良く、おもしろ過ぎる映画だったので、その期待が乗っかった分、思った以上につまらない続編だった。
前作映画「羊たちの沈黙」はハンニバル・レクター・シリーズの一作目「レッド・ドラゴン」の続編ではあったけれど、「羊たちの沈黙」の一作品だけでも戸惑わずに見れ、しかも素晴らしい程の緊張感を持ったサスペンスであり、サイコスリラーであり、犯人を追って行く展開と言い、クラリスとレクターの複雑な関係性も見せていて、一本の映画として非常におもしろく完結していたのに、この「ハンニバル」は「羊たちの沈黙」を見ていないと分からない続編なので、「羊たちの沈黙」の様なサスペンスやサイコスリラーを期待して見るのだけれど、あの犯罪捜査と取り込まれる様なハンニバル・レクターへの質問であった溢れる緊迫感が無く、頭のおかしいストーカーのおじいちゃんを描いただけにしか思えなかった位方向性が曲がりくねってしまった。
「羊たちの沈黙」は、あれ程「どうなるの?」と見入る展開の連続で、本筋であるバッファロー・ビルの事件に絡んで来るクラリスとレクターの会話劇を織り交ぜた二重構造の非常に上手い展開だったのが、この「ハンニバル」は前半はハンニバル・レクターに賭けられた報奨金目当てのイタリアの刑事の顛末。中盤以降はメイスン・ヴァージャーの復讐。終盤で爆発してしまうハンニバル・レクターのクラリスへの異常な愛と、章毎にバラバラな長編小説を何とか一本にまとめ上げた様な、それぞれが一気に流れていかない構成なので盛り上がりに欠け、畳み掛ける様な緊迫感は無い。しかも、前作ではレクターのクラリスに対する微妙な思いが何とも言われぬ心地悪さを作り上げてたのに、今回はレクターヤバいストーカーに落ちてしまっていて、レクターのあの紙一重の境界線にいた恐ろしさが無く、殺人鬼のアイコン化し過ぎな部分が興を削いだ。
何より酷いのが、「羊たちの沈黙」の直接の続編なのにクラリス・スターリングを演じるのはジョディ・フォスターではなく、ジュリアン・ムーアである事。続編なのに、重要人物が別人って、もう訳が分かんない。ジョディ・フォスターのクラリス・スターリングだからの名作になったのに。ジュリアン・ムーアが「私はFBI捜査官クラリス・スターリング」と言った所で「♪お前誰だよ~!レッツゴー!」でしかないし。「羊たちの沈黙」ではジョディ・フォスターが序盤の新人FBI捜査官の若々しい印象から、徐々にしっかり成長して行く姿を上手く演じていたのに対し、ジュリアン・ムーアは常に印象の薄いまま。「羊たちの沈黙」でハンニバル・レクターがクラリスに惚れ込んで行くのは説得力があったのに、「ハンニバル」では「何でこんな女性に、『羊たちの沈黙』以上に入れあげているの?」と疑問と違和感しか抱かせなかった。
一方のアンソニー・ホプキンスは流石で、他の映画だと普通の人なのに、この映画では表情が物凄く邪悪。しかも、ハンニバル・レクターを楽しんで演じている感じも受け、話以上にアンソニー・ホプキンスが一人だけ疾走している感じばかり。

上映時間は二時間十分だけれど、それでも小説の総集編的になっているんだろうなぁ…と思わせる所は多かった。何か魔法や催眠術の様にレクターの言う事を聞いてしまう人々や、突然理由も分からずメイスン・ヴァージャーを車椅子ごと突き落としてしまう主治医とか、展開にしろこのすっ飛ばした理由の無さとか、多分原作小説で描かれた事を映画にした時に省いて省いて作ったから「何のこっちゃ?」になってしまっているのだと思われる。緊迫した場面で「ん?何?何?」と思わせてしまったら、それは失敗なんだろうけれど。

それに必要以上にグロイのもつまらなくしていた。「羊たちの沈黙」ではバッファロー・ビルの猟奇さを押し出し、ハンニバル・レクターは連続殺人鬼ではあるけれど、それを直接見せず、表面的に紳士的に見せる事でハンニバル・レクターは真実を言っているのか、それとも本当に邪悪な人間なのかが曖昧に描かれ、それでクラリスとの微妙な関係性が成り立っていたのに、今作はただの人殺しであり、直接的にグロさを見せるので猟奇的な怪物でしかなく、こう描いた所でクラリスとの微妙な関係にもならず、そりゃクラリスは拒絶するし、レクターが追い駆ければ単なる痛いストーカーにしか見えないだろうしで、これでハンニバル・レクターをどう見せたかったのがいまいち分からない。それに、どうみてもおじいちゃんのハンニバル・レクターよりも強そうな相手なのに、ハンニバル・レクターが一声かけてからも簡単に倒してしまう位ハンニバル・レクターが無敵の超人になっており、このモンスター映画的キャラクタライズは安っぽさしか感じなかった。

後から知ったけれど、メイスン・ヴァージャーってゲイリー・オールドマンが演じていたのか。ゲイリー・オールドマンってやたらと変な役、見た目が全然違う役をやりたがるよなぁ。

この映画、題名通りで、ハンニバル・レクターの連続殺人を見せ、ハンニバル・レクターの活躍を見せる為の映画。「羊たちの沈黙」の構成や展開、レクターとクラリスの関係性がおもしろかった人、「羊たちの沈黙」を完成された一本の映画として思っている人には、つまらない蛇足的な続編にしか思えないはず。「ハンニバル」なのでハンニバル・レクターを見る映画としても、「羊たちの沈黙」の様な訳の分からぬ不気味さ、真実はあるのか無いのか、彼は何を求めているのか等の暗い穴の淵を覗いて見る様な吸い込まれる様な魅力が無く、人物としては安っぽいサイコパスになってしまって「人肉好き~!クラリスも好き~!」が爆発したおじいちゃんを見せられた所でなぁ…としかならなかった。

☆★★★★
 
 
関連:羊たちの沈黙
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