モンスターズ/地球外生命体

2014年09月12日 金曜日

ギャレス・エドワーズ監督・脚本・撮影、スクート・マクネイリー主演の2010年のイギリス映画「モンスターズ/地球外生命体Monsters)」。

地球外生命体を太陽系内で見付けたNASAは、そのサンプルを探査機で採取し地球まで運ぶ途中、メキシコ上空で探査機が大破。その後謎の巨大生物がメキシコに現れ、アメリカとメキシコの間は危険地帯として隔離された。
メキシコで巨大生物の写真を撮ろうとしているアンドリュー・コールダーは、新聞社の社長から社長の娘がメキシコにいるのでアメリカまで連れ戻して来いと命令される。

題名が安っぽいし、宇宙からの巨大生物という時点でビデオスルーされる様なB級映画感があるのだけれど、これがどうして、発想・構成・演出さえ上手ければおもしろくなるという好例。題名から想像し、巨大怪獣が暴れる映画を期待する人には全くおもしろくないだろうけれど、この映画はちょっとしたモヤモヤを抱えた本来なら関係の無い男女二人のロードムービーとして描いていて、これが非常に良い。
怪物が暴れまくる訳でなく、町の破壊された様子やうち捨てられた車や船、街中を走る軍事車両を見せる事によって、この世界の危なさや異質さを垣間見せ、その演出で世界を作り上げている。直接的な被害が無く、危ないだろうけれどと思いながら進んで行く主人公二人の微妙な関係性で話を繰り広げて行く手腕は見事。元々が低予算映画で、大怪獣の大破壊が出来ないという事情はあるにせよ、下手に怪獣と戦ったり、政府がどうのこうと出て来ると途端に安くしかならならいのを、こういうじっくりと人を描く構成にしたのは上手い。
しかも、最後まで見て「ふう~。」とため息をついた瞬間、「あれっ?」と思って初めから見てみると、始めの場面が実はこの映画の導入としての状況説明でもあり、幕引きだった事が分かって、この構成に「うおー!」と興奮する。更に劇中で出て来た「怪物よりも怪物を倒そうとするアメリカ軍の爆撃や攻撃の方が犠牲者を多く出しているんじゃないか?」という疑問も振りとなっていて、結局怪物よりも人?という皮肉が効いているのにも興奮。

それに怪物の扱いも上手い。ギャレス・エドワーズがゴジラ好きだそうな事もあってか、第一作目の「ゴジラ」に通じる様な、怪物を自然災害として隠喩的に扱っていて、アメリカに入った時の町の被害を見ると怪物は竜巻やハリケーンの様。怪物はある時期になると急に現れ、急にいなくなり、何故現れるのか、何故町や人を襲うのかも不明。近くにいると危険極まりないけれど、遠くから見ていると綺麗と感じたり、畏敬の念を感じるって、まさに竜巻やハリケーンの様。テレビやインターネットの映像で見る、雷を放ちながら町を壊して行くアメリカの竜巻や、超巨大ハリケーンの衛星写真とかに感じてしまう感覚に似ている。
ただ、この怪物の造形が全く良くない。確かに、ヨーロッパの北の方では古くから蛸が悪魔的として嫌われて来た事や、それもあってなのかクトゥルフ神話のクトゥルフが蛸みたいだったり、H・G・ウェルズのSF小説「宇宙戦争」で火星人が蛸型に書かれて、それ以降蛸型が多くなったという伝統はあるにしろ、2010年に巨大な蛸が人を襲うって、流石に馬鹿馬鹿しい。人間の話が良いし、演出的にも見せる分、もっと怪物を何とかして欲しかった。

演出も非常に小気味良いし、一方で無言の間を結構取ったりと、アート系ロードムービー風でじっと見ていられる。ただ、この映画がPOV(所謂登場人物とカメラの目線が同じ演出。FPS。)で撮る予定だったらしく、その名残なのか手持ちカメラのぶれた映像で登場人物の動きを追ったり、少し離れた場所から映したりしていて、この演出だとどうしても主人公の二人以外の三番目の人物が側にいてカメラを回している感じしかしないので、見ていても変。普通に撮れば良かったのに…と思ってしまった。

それと問題は題名。邦題も酷いけれど、原題でも「Monsters」で、これじゃあ完全にC級低予算の出来の悪い怪獣映画にか思えない。この題名で喜んで見る様な人達の求める様な内容でもないだろうし、もっと上手い題名あったはずだと思うけれど…。

この映画はその年の英国インディペンデント映画賞で作品賞ノミネートされたり、監督賞取ったり、英国アカデミー賞でも新人賞でもノミネートされたりと、ちゃんと評価され、この映画で制作者のギャレス・エドワーズは2014年の「GODZILLA ゴジラ」の監督に抜擢されたのも頷ける。確かに、ゴジラに求める方向性ってこれなんだよなぁ。

怪獣映画となると、着ぐるみが町を壊して行き、現代兵器や怪獣同士で戦うなんて事は期待していなくて、この映画の様に普通の人の生活の中にある恐怖だったり、人生の一時を見たいし、それの方が絶対おもしろいと思っているわたしにはドンピシャの映画。発想と演出で見せる上手さを感じた映画。

☆☆☆☆★
 
 
関連:GODZILLA ゴジラ

« | »

Trackback URL

Leave a Reply