シンドバッド七回目の冒険

2014年08月31日 日曜日

レイ・ハリーハウゼン製作・特撮、ネイザン・ジュラン監督、カーウィン・マシューズ主演の1958年のファンタジー映画「シンドバッド七回目の冒険(The Seventh Voyage of Sinbad)」。

バグダッドの王子シンドバッドはチャンドラ国の姫と結婚する為にバグダッドへ向けての航海中、島を見つけ上陸する。島の洞窟から逃げ出て来た魔術師ソクラはサイクロプスに追われていた。シンドバッドはソクラを助けるが、彼の持っていた魔法のランプはサイクロプスに取られたまま出発。バグダッドに到着し、ランプを取り戻したいソクラはシンドバッドや太守に船を出して欲しいと頼むが断られ、姫に魔法をかけて小さくしてしまう。ソクラは「元に戻す為にはロック鳥の卵の殻が必要」と言い、シンドバッドに船を出させる。

アラビアンナイトから色んな要素を使って、当時の感覚で作ったファンタジー映画。ただ、バグダッドの王子のシンドバッドが見た目もヨーロッパ人で英語を喋っているからイギリス人?で、他の人も英語で喋っている欧米人なので、全然アラビアンナイトの感じがして来ない。
やっぱり見所はレイ・ハリーハウゼンのストップモーション・アニメーション。サイクロプス、怪鳥ロック、骸骨、ドラゴン等が登場し、これらが滑らかに動く事に驚嘆。特に怪鳥ロックと骸骨の動きは素晴らしい。CGアニメーションでグニャグニャ動かしまくって、まったく不自然な感じになっている最近の映画よりもおもしろいかもしれない。
ただ、合成はこの時代なので甘くて浮いてしまっている。怪物や怪鳥と戦う場面が多いのに、たぶん奥のスクリーンに先に撮った人間の映像を出して、その手前でストップモーション・アニメーションを撮影しているので、互いに触れている場面でも触れていないし、奥の映像がぼやけてしまうのが痛い。シンドバッドと骸骨との戦いは非常に良く出来ているけれど、他の場面はもっと効果音付けたりも出来るはずなのに。だけれど、姫が徐々に小さくなって行く所の合成は非常に良く出来ていて、今のCGよりも見ていてゾクゾクする興奮がある。
魔法のランプからジニーが出て来る時、「まさか全身青く塗ったおっさんが出て来るんじゃ…」と思ったら、子供が出て来て一安心と、こっちの方で正解と思った。このジニーの感じは良いのに、よく見かけるジニーが青いおっさんなのは何でだろう?この子供のジニーの受けはそれ程でもなかったから、後年のジニーに影響がないんだろうか?

話は小さくなった姫を元に戻す事が目的だし、敵は魔法のランプを取り戻す事が目的なので、非常に小ぢんまりした印象。その代わり、シンドバッドと姫がどうして出会って熱々なのか?とか、ソクラは何であんな狂暴なサイクロプスがうろつく島の奥深くで何をして暮らしているのか?とか、ランプの精ジニーは何で子供でランプに入っているのか?等、映画以上に想像させる部分があって話は膨れる。

設定や映像的には中々おもしろいけれど、主人公の魅力の無さったらない。ソクラが戦争を予言し、その次の朝、姫が小さくなっていたら、どう考えても「魔法を使うソクラがやりやがったな!」と思うはずなのに、一向に疑いもせずソクラに助けを求めるシンドバッドや、誰も島に行きたくないので囚人を使って船を動かすけれど、周りは自由な囚人ばかりなので当然反乱が起きて船を乗っ取られたシンドバッドや、イラッとしたら直ぐ相手の首を締めにかかるシンドバッドとか、主人公のアホさ加減といったら無い。もう少し格好良いヒーローにしてもよかったんじゃないの?と思うのだけれど。
あと、この時代の映画ではよくそうだけれど、格闘場面が酷い出来。皆ふざけてじゃれ合っている様なグダグダした感じだし、カーウィン・マシューズは格闘になると硬直して全身が固まったかの様な動きで相手を撫でる様に殴るしで、見せ場なのに中々酷い。

知らなかったけれど、シンドバッドって、アルファベット表記や英語発音だと「Sinbad」なんだ。でもしかし、アラビア語のラテン文字化では「Sindibaad」だから「シンディバード」なはずなのに。以前「100分 de 名著」のアラビアンナイトの回で知った、「アラビアンナイトは原本が無く、色々な写本や翻訳本があり、それでは内容が異なったり、新たに足された話まである」という事の中で、ヨーロッパに伝わり、翻訳されて行った時に発音的に弱かった「di」が抜け落ちて行ったのかとも思い、アラブ世界に近いヨーロッパでの発音よりも、アラブ世界から遠い東の端の日本の方が微妙にまだ近い感じがするのもおもしろい。

しかし、何故題名が「七回目の冒険」なんだろうか?特にこれまでの冒険に言及する事も無かったし。

この映画、アラブ世界の話なはずなのに、そんな雰囲気も無い配役と映像で、王子様の主人公がお姫様を救うという非常に王道、ベタ過ぎる1950年代のヒーロー・ファンタジー映画。その部分はどうでもいい感じで、やっぱりレイ・ハリーハウゼンのストップモーション・アニメーションを見る映画かな。

☆☆☆★★
 
 
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