王様のレストラン
2012年12月15日 土曜日最近、BSフジで平日毎日「王様のレストラン」を放送していて、運良く放送初日に放送に気付いたので全話録画して見た。
かつては繁盛していた一流レストラン「ベル・エキップ」のオーナーシェフが亡くなり、残された息子が経営するけれど、最早かつての面影も無い程廃れてしまった。そこにオーナーシェフの遺言でオーナーになる事になった腹違いの息子が、かつてその店で働いていたギャルソンを連れて現れ、この「ベル・エキップ」を再び一流レストランへと立て直して行くお話。
ドラマの文言じゃあないけれど、やっぱり「奇跡のドラマ」。
俳優陣は今なら映画や舞台で主役で顔になる人ばかりだし、脇役も脇役と言えない目立ちっぷり。何より、役とその俳優の個性が合致して素晴らしい程に役が立って、画面に出て来る度にワクワクする。ここら辺は、役者の個性を見抜き、それに合わせて脚本を書いていた三谷幸喜の上手さか。多分、TVドラマとしては三谷幸喜一番の会心作で、わたしが見た中での日本TVドラマの中でも最もおもしろい。笑えて、ほっこりして、終われば泣けるのではない、清々しい感動で物凄い爽快感。
話は一話完結方式だけれど、全11話を通しての全体としての構成も上手い。改めて見ると、その回の話で起こった出来事や人間関係がきっちり後に続く話の振りになっていたり、その段々と変化して行く人間関係が最後に向かって動いているという、全体を通しての流れも全ての事が初めから計算されて配置されていたのだなと非常に感心。始めは各人が自身も無く、やる気も無いけれど、そこを伝説のギャルソン千石さんが本人にそれとなく導く形で自信を与えると成長して行くという流れだけれど、後半になって来るとむしろ千石さんが先走り、温かく見守るという事が出来なくなり、従業員同士で解決出来る様になり、話も千石さんの出番も減って来て、千石さんは去ってしまうけれど、最終話が第一話に戻る様な構成が見事。
それに主題歌「Precious Junk」を歌うのは、まだ今程有名ではなかった頃の平井堅。更にこのドラマの音楽は今でもバラエティ番組等で使われる事も多く、このドラマ以降でも耳馴染みになっている。それだけ服部隆之の音楽がこのドラマにピッタリと合い、音楽自体が素晴らしいという事。
おもしろいのは筒井道隆と松本幸四郎の関係性。松本幸四郎は筒井道隆の父親のオーナー・シェフと一緒に修行し、この店を引っ張って来た親友の様な仲で、筒井道隆にとっては頼るしかない先輩だけれど、松本幸四郎の中に父親を見ていると言う、親子でも友人でも指導者と弟子の関係でもなく、でもある不思議な関係。それに筒井道隆と西村雅彦の兄弟関係も不思議な感じ。腹違いの兄弟で全然似ていないけれど、兄の西村雅彦は急に出来た弟が可愛くて仕方ないけれど、筒井道隆の方は特に「兄ちゃん!」と寄って行く感じでもないし。
松本幸四郎は元々歌舞伎俳優だし、ミュージカル俳優なんだけれど、これでの演技見ていると全然そんな感じが無い。至って普通な人である、画面を通しての上手い演技をしていて、この人の演技の幅の広さに感服。ただ一つ気になるのは、目線。相手を見ているし、ちゃんとその人の目を見て演技しているはずなのに、微妙に目線がズレている様に見える。これって、単に彼の顔の作りなのだろうか?
この筒井道隆を見ていると、この人って本当にこんな感じの人なんだろうなぁと思ってしまう位、はまり役。
西村雅彦が顔作り過ぎたり、溜め過ぎたりして、ドンドン演技に癖出して来て自分でもほんのり笑ってしまっているのが可笑しい。
山口智子と鈴木京香は、チャキチャキな元気が前に出る山口智子、日陰の女鈴木京香と方向性の違う美人で、この二人も役にはまっている。
鈴木京香の「笑顔がわざとらしいでしょ?」と言う台詞なんて、非常にギリギリだし、演技の上手さでもか。
それに化石発掘したいとか、大相撲が大好きとか、一番普通に見えて、やっぱり全ての登場人物がちょっと変わっている。
小野武彦の軽い感じ、調子良過ぎるおっさんの感じが非常に良い。一番のコメディリリーフで、人の隙間を縫って後ろから顔を入れ込んで来る演技にも笑ってしまう。
役名梶原を「かじわらじゃなくて、かじはら」と千石が常に間違えるのって、名前を間違えるはずのない伝説のギャルソンなんだから、これってずっと嫌がらせという事なんだろうか?
伊藤俊人は一番顔芸の人。他の人は丸々一話使っての活躍があったけれど、この人が中心で何かを見直す活躍というのが無く、結構意外。
梶原善の卑屈な感じなのに可愛らしさもある演技が良い。小野武彦の「かじわらじゃなくて、かじはら」ネタってこの人の名字からなのか?
白井晃のソムリエ役って、わたしのソムリエ感の元。カッコ付けで嫌味っぽいけれど、悪い人じゃあないという。カッコ付けが似合っているし、それが笑いにもなると言う。
田口浩正って太っているからと言うのがあるけれど、ドランクドラゴンの塚地武雅の演技が似てる。
杉本隆吾とジャッケー・ローロンの二人も要所要所で顔を出して来て、出番は少ないけれど印象に残る。でも、もっと主役になる話が欲しかった。
この杉本隆吾という人は、現在は松高タケシとして舞台関係で色々しているみたい。
ジャッケー・ローロンはフランスで映画監督になったらしいけれど、どうんなだろう?
演出的にも、素早い場面転換のカット割りの編集とか、大きく演説ぶっている人は後頭部しか見えず、それを受けている人の顔を見せているとか、奥手前で全ての人の顔が見える様にとか、以前は舞台劇的だと思っていたけれど結構と言うか、当然TVドラマ的な画面作り。それでも、特に何も話さず、じっとしたままの顔の寄りで宣伝に行くのは流石に時代か。それと肩ががっしりと張った、ブカッとしたダブルのスーツってバブルの残り香。
一番初めに放送した時にも思ったのだけれど、「奇跡の夜」と言う題名で「オマール海老のびっくりムース」が完成したのに、次の回では赤い粉も、散らしたミントの葉っぱも無く、見た目が全然違う事にガックリ。改めて見直してもそこだけ凄い違和感。
改めて見て思ったのは、「王様のレストラン」ってグランドホテル形式だった事。わたしはこのグランドホテル形式が好きだと改めて気付いた。日本のTVドラマでは「王様のレストラン」。海外TVドラマで一番好きなのは、宇宙ステーションを舞台にしたグランドホテル形式の「スタートレック:ディープ・スペース・ナイン」。そして、今年見た映画で一番おもしろかったのは、まさにグランドホテル形式の命名元「グランド・ホテル」。この「決まった人物が徐々に関わり合い、微妙な関係性が築かれ、そして大きなうねりを作り出す」という構成が大好きなんだと気付いた。
そして、それが見事にはまり、各人物が際立ち、微笑ましい笑いと爽やかな感動に溢れる、この「王様のレストラン」って、本当に素晴らしい!