グランド・ホテル

2012年03月10日 土曜日

今でも、複数の登場人物が同じ時の中交差しながら物語が展開されて行く映画やドラマは「グランドホテル方式」と呼ばれているが、まさにその元となった映画「グランド・ホテル(Grand Hotel)」。

各人物の関係性、構成、展開と言い、非常に上手いし、良く出来た映画。
病気によって自分の死期を悟り、新たな人生を始めようとするライオネル・バリモア。男爵と言うけれど借金で困る、女垂らしのジョン・バリモア。こまったちゃんで人気が落ちたバレリーナのグレタ・ガルボ。会社の存亡を左右する合併会議に赴く社長のウォレス・ビアリー。その速記を引き受けたジョーン・クロフォード。これらの面々が中心となり、グランド・ホテルでの1・2日の出来事を描いている。
誰もが主人公で、各人が表向きと裏の想いを持ち、それぞれの障害をどう乗り切るのか、この人の人生はどうなるのか、何に向かって進んでいるのか分からないままの群像劇を見せ、片時も目を離させない。皆人間的な人の好さや欠陥を持ち、笑ったり悲しんだり、喜んだり絶望したり、そして各人物が登場とは別の姿を見せホテルを去って行く。最後の、朝になり、今までの登場人物達がホテルを去り、新しいお客がやって来、「人が来ては去って行く。ただそれだけ。」と言う台詞にはゾクゾクする。限られた場所の限られた時間の中の人々の人生模様を、さらっと見せるのにゾクゾクする。
それに1930年代のハイソな人々の社交場のグランド・ホテルの豪奢さに目が行く所だし、当時の服装、特に女性のお洒落な、と言うか今見ると奇抜な姿にも目が行く。ただ、時代は移り変わり、最早別世界の人々の気持ちや行動は昔も今も大して変わりはしないのにも目は行く。
この時代と言うか、グランド・ホテルってこんな凄い所なのかと、そこにも関心。宿泊施設と言うよりも、金持ちが集まり楽しむ所だし、階毎に受付があり何でもこなし、外に出る事も無く十分楽しめ、実際この映画にもほぼホテル外は出て来ない。
更に興味が行くのは出演している役者陣。当時のメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)のオールスター・キャスト映画だそう。しかし、この役者陣のこの後の人生が数奇で、映画が更に別の意味を持って来る。人気女優グレタ・ガルボは早くして引退。ジョン・バリモアは徐々に落ち目になり貧しくなり、ライオネル・バリモアは後年車椅子生活にと、この虚構である映画と現実が被って来る様な所が出て来たそうだ。それに後で知ったのは、仲が良くなった男爵と病気の老人を演じていた二人は実際の兄弟、バリモア兄弟だった事。更に「バリモアと言えば、ドリュー・バリモア。」と思っていたら、本当に彼女がこのジョン・バリモアの孫だった事に驚き。しかも、ジョン・バリモアは酒で身を持ち崩したそうだが、同じ役者の道に入ったドリュー・バリモアも持ち直しての今だけれど、10代以前から酒や薬物を使用、ジョンは4回の結婚、今までにドリューは2回結婚と、これは遺伝子のせいなのか、因縁を感じてしまうざるを得ない。

やっぱり、限られた場所での群像劇で、大声で押しつけがましい訳で無くさらっと描き、見終わるとまるで一瞬撫でたか位の様に思えるさっぱりとした映画というのは非常に好きだ。しかも1932年の映画でこれをやり切り、人生、それも劇中の役ではない俳優の実際の人生にも思いを馳せ、映画だけで終わらない深く思い至る所があり、今にも続く映画の手法がここにあると思うと、ゾワゾワして来る。

☆☆☆☆☆

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