勝利への脱出
2012年09月11日 火曜日マイケル・ケイン、シルヴェスター・スタローン、そしてペレまで共演した映画「勝利への脱出(Escape to Victory)」。
第二次世界大戦中、捕虜収容所の連合軍の兵士達が、そこのドイツ兵との親善試合としてサッカーの試合をする事になったが話は大きくなり、ドイツ選抜チームと連合軍選抜チームとの親善試合をする事に。そこにチームの脱走計画も持ち上がって来る。
要は、映画「大脱走」から脱走部分を少し引き、そこにサッカーを入れた感じ。何よりシルヴェスター・スタローンが一人アメリカ兵で、一人で脱走し、再び戻って来るなんて、「大脱走」のスティーブ・マックイーンみたいだし。
脱走か、サッカーかで悩むのは、サッカーの魅力を伝えるのに十分。占領下のパリでの試合で、人々が熱狂するする姿は、サッカーが単なるスポーツだけではない大きな力を秘めている事を見せる。
しかし、見せ方は非常に散漫。収容所生活は他の映画と違い、快適とまでは行かないけれど、虐待の悲惨さや惨めさ等は全然描かれない。皆でサッカーの練習して、周りの皆がほのぼのと見守っているのだから、これが何の映画か分からなくなって来る。一方サッカーは、前半はそれ程描かれず、終盤はずっと試合なので、結局収容所生活もサッカーも非常に不均等な配分。そして何より、そこまで積み上げて来た戦争下のサッカーと兵士という題材を、悩みや葛藤もほぼ無く、最終的に何か結実する事も無く、ぶっ放しの放り投げで終えてしまうのは酷過ぎる。
演出も、押されている時は落ちる音楽、押している時は盛り上げと非常に分かり易い分、しょっぱさが見え隠れ。
マイケル・ケインはまだ48歳で、今の姿に慣れていると若い。序盤を見ていると、彼が主役かと思うのに、最後の方になると、あれ程前に出ていた彼も脇役の様になってしまう。
その後半の主役、シルヴェスター・スタローンは、始めはマイケル・ケインの脇で無茶する若者で脇役としては良かったのに、最終的にシルヴェスター・スタローンの映画みたいになってしまうのは少々残念。それと、彼の恋愛要素なんていらんだろうと思っていたら、最後の観客が押し寄せる中二人が抱き合うという、「ロッキー」のエイドリアンとの抱擁のパロディがしたかったからなのか。
ペレの見せ場もちゃんとあり、試合場面では綺麗なオーバーヘッドキックでのゴールを、何度もスローで見せる優遇。でも演技的な事からか、主役級でも、脇役で目立つ役でも無い。
脱走を描く映画にしては、そこでの悩みや葛藤、計画の仕掛けや実際の行動でのワクワク感は無い。収容所はほのぼのしているし、戦争下の緊迫した感も余り無い。サッカー映画としては、漫画みたいな試合経過と言い、素人のシルヴェスター・スタローンが代表選手と五分に渡り合えていたり、こちらもどうもいまいち。
結局脱走とサッカーという組み合わせにしてみたけれど、それが上手く噛み合わないままサッカーに寄り掛かり、どちらも中途半端のまま終わってしまっている。悲惨な、不遇な時代だからこそ、もっと戦争下の方を描き、その中でのサッカーを描くべきでは?と思ってしまう映画。
☆☆★★★