バロン

2012年07月30日 月曜日

ドイツ民話の「ほら吹き男爵の冒険」をテリー・ギリアムが監督・脚本で映画化した「バロン(The Adventures of Baron Munchausen)」。

ほら吹き男爵ことミュンヒハウゼン男爵の何処までが本当なのか分からないほら話を、映像化した、非常に楽しいファンタジー映画。

ブラザーズ・グリム」の時も思ったけれど、テリー・ギリアムは虚実の境を曖昧にする上手さが良い。この話も劇から回想に入ったり、ミュンヒハウゼン男爵と行動を共にするのはまだ幼い少女と、単なる夢想なのか、現実に起こった話なのか、どっちにも行けるし、その間で楽しむ様な曖昧感がたまらなく良い。
それにこの映画の世界観もたまらなく良い。ずっとテリー・ギリアム節満開。始まりの劇からして巨大な魚がパックリや、月の書き割りの町なんて、まさにモンティ・パイソンのアニメーション。セットと言い、衣装と言い、テリー・ギリアムの頭の中のお伽話を実写化した、趣味性が強い映像で楽しい。
展開も何が起こるか、何処へ行くのか分からず、「不思議の国のアリス」的な不可思議、シュールな事物の連続で、子供の時にあった「何だろう?」な好奇心でジィ~っと見ている様なワクワク感が一杯。
演出としてはお伽話という事もあるのか、結構分かり易い、子供向けな笑いの演出が多かったりするので、ちょっと覚める所はあるけれど、一方で少々悪趣味な笑いや下ネタもありで、ここでも子供向けと大人向けの間を行ったり来たり。
ただ、どうしても「空飛ぶモンティ・パイソン」のあのキビキビとして、早い程の展開を知っていると、どうも展開がもっちゃりした感じがしてしまう。特に導入からトルコの回想までが、いまいちおもしろくない。その後は畳み掛ける様なお伽話は非常に楽しい分、勿体無い。

この映画を見ていて思ったのは、たぶん「空飛ぶモンティ・パイソン」を見ていたり、その中のテリー・ギリアムが担当していたシュール過ぎるアニメーションでゲラゲラ笑い、その手法に成程と思わないと、この映画がいまいち分かり難いかもしれない。ただ「空飛ぶモンティ・パイソン」からすると、至って王道なファンタジーで、ファンタジーとしておもしろいけれどそれ程突飛でもないし、笑いが少ないのでちょっとそこの期待とは違う事になるはずだけれど。

やっぱり良いのは、CGに頼る事無く、全てを作ってミニュチュアや合成で見せる事。セットも含め美術が良く出来ていて、この世界観を作り出す美術の詰めの凄さ。ミュンヒハウゼン男爵とヴィーナスの噴水が溢れる部屋の中での、空中ダンスの場面はゾクゾクする美しさ。CGだと何でも出来てしまい、逆に軽さを感じる事が多いのに対して、この実物の重さ、安さの重さの方がどれだけ現実感があり、見ていても白けさせない。

ミュンヒハウゼン男爵役のジョン・ネヴィルは、胡散臭いけれど威厳のある男爵がぴったり。初め出て来た時は「何だこのおじいさんは?」と怪訝になるけれど、見終わればカッコ良過ぎなおじいさんになる。このジョン・ネヴィルって、「Xファイル」のマニキュアード・マンだったのか。
ミュンヒハウゼン男爵が「バートホールド!」と禿げ頭のエリック・アイドルを呼びかけると、とぼけた顔で「はい?」と答えたり、やっぱりエリック・アイドルはちゃんと笑いを担当している。
この他の男爵の部下も、始めは全然目立たなかったのに、終わりにはもう一人の主人公でもある少女サリーと同じ位目立つに至る。

「空飛ぶモンティ・パイソン」で見せたテリー・ギリアムの「何だこの笑い!?」という笑いに特化したシュールさを、お伽話に特化させ、それをきっちり実写化させている。現代と言っても、この映画製作が1989年なので20年以上も前だけれど、現代に新たな方向性を見せたお伽話。このお伽話をしっかり実写で出来、魅せる凄さ。

☆☆☆☆★

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