バックドラフト

2012年07月31日 火曜日

カート・ラッセルウィリアム・ボールドウィンロバート・デ・ニーロ共演の消防士映画「バックドラフト(Backdraft)」。

幼い時目の前の火事現場で父親を亡くした弟が、兄のいる消防隊に新たに入り、葛藤しながら進むべき道を探すお話。

この映画何が良いって、消防士がカッコ良い。消防士は皆粗野な男達で口は悪いし、冗談ばかり言って、直ぐ怒ったり、喧嘩っ早いけれど、仕事は常に本気で全力、自分の命を懸けて人を救い、消火し、仲間の為なら何でもという姿勢が、カッコ良過ぎて泣けて来る。この男臭さしかない人々は、見ていてとても気持ちが良い。
そして、何と言っても圧巻なのは火の描き方。今ならCGの多用で白ける所だけれど、実際に燃やし、爆発させ、役者にも火を付け、その迫る火の恐怖の現実感は半端無い。その上、地を這う炎や、渦を巻く炎、引いたと思ったら一気に爆発するバックドラフトなんて、見ていて鳥肌が立つゾクゾク感溢れ、綺麗でさえある特殊な炎もあり、この特殊効果は素晴らしい。この撮影、役者も炎の中で実際に演じているし、爆発や炎が直ぐ側だけでなく、直撃しているスタントマンにしろ、炎の特殊効果や、撮影班も相当な状況で撮っているだろうで、その凄さは画面を見ていると伝わって来る。この実際の撮影現場がどんなモノだったのかを、メイキングで見てみたい所。
それに物語の構成も良い。新人としてやって来た弟ウィリアム・ボールドウィンによって、見ている側に消防士がどういう者かの紹介になっている上に、出来ない若造の弟と、ベテランで現場を仕切る兄カート・ラッセルとの対比の話でもあるし、悩める弟の青春物語でもあるし、王道過ぎる設定だけれど非常に上手く機能している。その後の放火が中心となるサスペンスも釘付け。今の短い編集の映画からすると、もう少し小気味良くても良いかなとは思う所はあるけれど、特にダレる事も無く一気に見せる。
この映画の主軸は男兄弟の物語で、わたしは男兄弟がいないけれど、親戚の男二人兄弟を見ていると、こんなアメリカンなやり合いはないけれど、この映画の兄弟の様な、何とも言えない距離感の関係で、物凄い成程感がある。古今東西、男兄弟ってこんな不器用な感じなんだろうなぁ。また、この不器用感が何とも言えない切なさを生み出している。

役者陣も豪華。主役級のカート・ラッセルに、ウィリアム・ボールドウィン。脇役はロバート・デ・ニーロ、スコット・グレンドナルド・サザーランドJ・T・ウォルシュといった、濃い、男臭い人達ばかり。
でも一番目立ち、カッコ良いのはやっぱりカート・ラッセル。この男臭く、良い人なんだけれど、不器用なおっさんがピタッとはまる。一人で子供を助け出して来る所なんて、なんてカッコ良いのか。そして、ビール飲みながら8トラックで音楽聴くカート・ラッセルこそ、カート・ラッセル。このレトロフューチャーの中で生きる渋いおっさんヒーローこそがカート・ラッセルのカッコ良さ。それだからもあって、カート・ラッセルがスーツ姿で出て来る場面があるけれど、全然似合っていない。
始めに出て来た父親がカート・ラッセルと似ているなぁと思ったら、カート・ラッセル本人でちょっと驚き。兄の方のカート・ラッセルよりも年を取り、優しい穏やかな感じで、カート・ラッセルとは別人に見えた位。ロバート・デ・ニーロが出ている事もあるのか、意外とカート・ラッセルって見た目も変化を付ける役者だったのかと改めて思った。そう思うと、弟のウィリアム・ボールドウィンって全然父親と似てないじゃん。
そのウィリアム・ボールドウィンは、これだけ濃い面子に囲まれているので、どうしても薄くなってしまうけれど、その薄さが新人や、出来ない子らしくて意外とはまっている。常に眉毛がハの字で、泣き顔に見えるというのもあるだろうけれど。
始めに子供時代のマキャフリー兄弟が出て来るのだけれど、小さい子がカート・ラッセルと似ていると思ったら、そっちは弟のウィリアム・ボールドウィンの方だった。でも、ウィリアム・ボールドウィンが出て来ると彼とその子が似ていた事に気付くから不思議。
あと、ロバート・デ・ニーロは一応役柄的に良い所なのに、活躍もそこそこで、あんまり良い扱いでもない様な?
ドナルド・サザーランドはサイコな役で、意外な感じで楽しい。どうも「羊たちの沈黙」の
ハンニバル・レクターっぽさがあるけれど、映画は1991年の同時期なので、当時はこんな感じの役が流行っていたのか。

演出も良い。その人物がどういう人物なのか、その時どう思っているのかを説明台詞ではなく、小道具や表情できちんと見せる。消火後に煙草吸って一服とか、何度も喧嘩吹っかけに行くカート・ラッセルとか、ニタニタする楽しさもあるし。途中の場面では、後ろに歌を流してダイジェストでお送りする訓練や救助活動は、ベタな青春ドラマの演出で、違う意味でニタニタしてしまったけれど。

音楽もハンス・ジマーがきっちり仕事している。確かに今聞くと90年代っぽさ爆発なんだけれど。スィーム曲は、初め流れると「あっ、料理の鉄人だ。」と思い、違和感タップリなんだけれど、最後にこの曲が流れると泣きそうになる。
それと、途中の兄弟二人が自動車に乗っている場面で、エドウィン・スター(Edwin Starr)の「黒い戦争(War)」が流れるのだけれど、つい映画「ラッシュアワー」を思い出して、この気まずい二人が乗り乗りで踊り出すんじゃないかと思ってしまったり。

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)にこの「バックドラフト」の最後の火災現場を再現したアトラクションがあるけれど、この映画を見ていない人は「おー、凄い!」なんだろうけれど、見てはまった人は、実はこの場面って感動の場面でもあって、このアトラクション見たら泣きそうになるんじゃないかしら?この映画見ている、いないで反応が全く変わって来る様な気がする。

この映画、カート・ラッセルが出ているだけでわたしの評価はグンと上がり、その上ロバート・デ・ニーロに、ドナルド・サザーランド、スコット・グレンなんて渋い所に加え、まるで生き物の様な炎の動きを映像で見せ、不器用な男の和解と成長譚を男の匂いプンプンで見せるもんだから、たまらない。

☆☆☆☆★

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