ウォーリー

2012年08月01日 水曜日

ピクサー・アニメーション・スタジオの2008年の映画「ウォーリー(WALL-E)」。

始まりの10分程で、荒廃した地球の置かれた状況説明から、ウォーリーの性格説明まで、言葉少なくやってしまうのは流石。そこからイヴが登場してのウォーリーとの交流までは、映像は圧巻、話も本当に良く出来ているし、ワクワク感たっぷりで、楽しく、釘付け。
ただ惜しむらくは、ロボットなのに余りにも人間的過ぎる事。ウォーリー自体、興味を示したり、怯えたり、人間に寄り過ぎで、始めは可愛らしいと思えていたウォーリーやイブが、カリカチュアし過ぎ、人間味過多で徐々にうっおしくなり始め、白けてしまうのは致命的。その余りに人間的な感情を機械に乗せているのは、設定上何からしら意味があるのかと思いきや、単に恋愛的要素と、子供でも分かり易い様にの擬人化過多。作業用ロボットがそれ程人間的な感情の様な物までもっているとは、正直無理あり過ぎに感じてしまった。
そのロボットのあからさまな恋愛劇は必要なのかとずっと疑問。ロボット同士の近親感や、友情なのか愛情なのか位の方が無理無く、楽しめると思うだけれど。
それに脚本のいまいちさも。ウォーリーとイブの話が中心かと思いきや、人間の地球に対する思いの話が大きくなり、何時の間にか二人は脇役的になり、最後のまとめ的に取って付けた様な有りがちな哀しい所からハッピーエンドに持って行くしで、ウォーリー達と人間達の話は結構分離していて、ピクサーの映画にしてはまとまりが欠けるし、在り来たりだし。
最後も、数百年間全てが揃った中で暮らしていた人間が今までの暮らしを捨て、荒廃しきった地球で再び大いなる自然を作り上げましたなんて、ハッピーエンドの為だけの絵空事に白けてしまう。「上手い事行って楽しかった!」ではなく、「そんな上手い事行くか?」と思わしたら駄目。

これ見て思ったけれど、ピクサーってどの方面にもきっちりと強いけれど、SFって弱いんじゃなかろうか?科学が発達して、人間は自動の椅子に座って何もせず太っているって、何十年前のSFだ。古過ぎ。子供向けとして分かり易さを狙っての事だろうけれど、これで人間の愚かさだったり、自然を大切に…って、今更感ばかりで、常に観客の二三歩先行くピクサーにしちゃあ、この古臭感、使い古された事のやり直し感一杯なのは何なのだろう?

ウォーリーの造形は上手い。作業用機械として、ゴツッとして古臭く、効率的に見える形なのに、可愛らしくもあると、どちらの方向性もあって、良く考えられていて、相当な時間をかけて煮詰めて行っただろう議論が見えもし、本当に感心。だけれどそれ以外の部分、イヴの造形は何か見た事ある様な、アップル系の感じだし、宇宙船内の機械感が非常にスターウォーズ的。それをより感じさせるのは、スター・ウォーズでロボットの音声も担当していたベン・バートによるウォーリーの声だったり、ワープの感じだったり。

吹き替え版で見てしまったので、日本向けに英語の看板等が日本語に書き換えられているけれど、やっぱり変。アメリカの様だけれど、行き成り平仮名や漢字が出て来るとそこは日本なのかと、頭がごっちゃになる。

演出では、一場面でカメラをグッと寄り、近影を映す事があるけれど、これだと誰も他に人はいないし、ウォーリーでもイヴでもない目線なのに、そこに誰かがいてカメラを絞っている感じがして、違和感を感じる。
PIXERにしては珍しく、実写の人が出て来るけれど、これだけCGの中に実写の人間が出て来ると逆に急に安っぽく感じる。流石に実写と太ったカリカチュアされたCGの人間の差は、やっぱり埋まらない。
艦長が立ち上がる場面で「ツァラトゥストラはかく語りき」が流れるたのは、余りに安っぽい演出で、見ていてぐったりした。

小ネタでは、Atari 2600でPongをしていて「おっ!」と思ったけれど、数百年後のハイテクとかつての過去のハイテクの比較って、ベータの磁気テープとか、あんまり多くなく、関心が行く様なモノが少ない様にも思えた。

これまでピクサーの映画は子供はもちろん、大人まできっちり楽しめていたのに、これは子供騙しが酷い様に思えてしまった。ロボットなのに人間的メロドラマし過ぎで白けまくり。荒廃した地球では物凄くあったワクワク感が、宇宙船に行った所辺りから急激に無くなり、「あれっ?いつものピクサー何処行ったの?」と感じる位、ピクサーにしては結構外す。何でなんだろうと思ったら、ピクサーの顔とも言うべき、何時ものジョン・ラセターが監督等をしておらず、ピクサー作品で評判がいまいちな「バグズ・ライフ」の監督・原案・脚本で、評判もいまいちで興行的にも赤字だと言われている「ジョン・カーター」の監督・脚本をしていたアンドリュー・スタントンが監督・原案・脚本を担当していたからなのか?
当然映像は圧倒され、特に荒廃した地球は素晴らしいのだけれど、宇宙に行くと他のSFでも有りがちな映像になり、話も使い古されたモノになり、ワクワクが減退。折角の設定も、人物の性格付けと脚本の不味さでアレレな出来になってしまった感の強い、ピクサーにしては残念な映画。

☆☆☆★★

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