イップ・マン 序章
2022年01月26日 水曜日ウィルソン・イップ監督、ドニー・イェン主演の2008年の中国・香港映画「イップ・マン 序章(葉問)」
この映画が当たった事でシリーズ化された全四作の一作目。
幾つもの武術道場が競い合っている広東省仏山市で一目置かれていた詠春拳の葉問だったが日中戦争が始まり日々の食事にも困っていた。
仏山を占領した日本軍の三浦将軍は空手を使う日本兵と中国拳法の使い手を戦わせ、勝った者に米を与えていた。
この戦いで友人が死んだ事を知った葉問は三浦の下に赴き日本兵と戦った事で目を付けられる。
更には友人の工場が盗賊に脅された事を知り、今まで弟子を取らなかった葉問が工場員達に自営の為に拳法を教え始めた。
ドニー・イェンのカンフー映画で、ヒットしてシリーズ化された位しか知らずに見てみたけれど、カンフーは流石に凄いしおもしろかった。
ただ、主人公の葉問が掴み所が無いと言うか、結構何しているの?な人なので、話にはいまいちのめり込めなかった。
葉問という人物や詠春拳もよく知らず、後から葉問を調べてみて以前に同じ葉問を主人公にした映画「グランド・マスター」を見ていた事に気付いて、あれも葉問だったのかと分かったりとか、葉問の弟子がブルース・リーだったのかとか分かって、葉問がそういう人と分かった位ではあったけれど、この詠春拳の直立で手で相手の攻撃を防御しながら攻撃を繰り出す戦い方が無茶苦茶カッコ良く、カンフー映画としてはおもしろかった。
ただ、この葉問がどうにものらりくらりしていて、いまいちはまらず。
初めの時点で周囲の人から尊敬されていたけれど、葉問は弟子も取らず、誰にも教えずなのに非常に良い暮らしをしていて、この人は一体何者?で「んっ?」とつまづき、戦争が始まって生活が困窮しても余裕をかまして働かずで、周りの人が死んでからやっと自分の一番の特徴である拳法で戦い始めていて、この何にも考えていない大金持ちのボンボン感の凄さでどうにも乗って行けず。
終盤で葉問の葛藤を描くのは分かるけれど、日本の将校と最終的に戦うのは分かり切っているので、そこまでが結構長く感じられてしまったし。
葉問が実在の人物で、戦争下で生活していたのもそうなんだろうけれど、終盤はこの状況下でも悩める中年の元金持のボンボンだと何だかなぁ…だった。
あと、葉問が最強過ぎて敵に打たれる事がほぼ無かったけれど、この強さの原因が全然描かれないので、やっぱりこの人は一体何?ではあった。
町で道場を開いている武術家や一旗揚げようと日々戦いに明け暮れている様な無頼よりも贅沢に暮らしながら木人で稽古している四十代のおっさんの方が強いってのも何ともすんなりと入って来なかった。
実際の葉問はどんな人だったのかとちょっと調べてみたら、お金持ちの家の息子で、大金を払って師範を家に呼んで詠春拳を習っていたり、香港や日本に留学したり、アヘンを吸いに行っていたり、戦争中は裕福な商人の庇護下で詠春拳を教えていたり、戦後は国民党の下で警察や守備隊の仕事をしていたり、妻子を置いて一人で香港に亡命したりと、映画の印象とは結構違う感じで、ざっとしか調べてないけれどもっとうまく立ち回っていた感じがするのだけれど、映画では家族思いで悲劇のヒーローに振り過ぎている感じもするけれど、どうなのかなぁ?
日本の将校役で池内博之が出ていて悪役なのでこんな感じなのかなぁと思ったけれど、彼の部下役の渋谷天馬が凄く大袈裟な演技だと思ったのは池内博之よりもより悪を際立たたせる為なのか。
池内博之は武士道精神がある様な感じではあったけれど、彼の趣味で戦わされていた部下達は迷惑だよなぁ。
葉問は怒ったら死ぬ一歩手前まで徹底的にやるので部下達は一生歩けないとかの再起不能状態なのに池内博之は全く気にも留めないという、少年漫画でよくある分かりやすい悪役のボスだったし。
この映画で一番気になった場面は、池内博之が正座からそのまま立ち上がる場面で、このやり過ぎには笑ってしまったし、何度見ても何か気持ち悪い。
この映画、詠春拳対何々拳や、拳法ばかりで家族を疎かにする葉問と妻の微妙な喧嘩という前半が特におもしろく、後半の日本人将校との対決が分かっているのにそこまでがどうにもまどろっこしい感じがしていまいち飽きてはいたけれど、二十一世紀のカンフー映画としては結構おもしろかった。
☆☆☆★★