大菩薩峠

2015年11月21日 土曜日

三隅研次監督、市川雷蔵主演の1960年の映画「大菩薩峠」。
大菩薩峠 竜神の巻」「大菩薩峠 完結篇」が続く三部作の一作目。
原作は中里介山の新聞連載された小説「大菩薩峠」。

机竜之助は無謀な生き方をする剣士で、字津木文之丞との奉納試合が迫っていた。ある日、字津木文之丞の妹と偽り奉納試合を辞めてもらう様に頼みに来た字津木文之丞の妻お浜だったが、机竜之助はそれを拒否し、その晩にお浜をてごめにしてしまう。奉納試合では木刀での試合だったが、机竜之助は字津木文之丞を殺してしまい、字津木文之丞の道場の者達から命を狙われ、お浜と共に江戸へと移って行った。

市川雷蔵が出ているので見てみたけれど、やたらと意味不明な部分が多く、市川雷蔵以外にも主人公っぽい登場人物が多く出て来るにも関わらず、それらの人で何を見せたいのかが曖昧で、非常に散漫な印象しか受けなかった。
主役である机竜之助は登場と共に道端で出会った老人を切り殺してしまうのだけれど、これが何なのか分からないまま話が進み、常に人を切らないと気が済まない危ない奴だと勝手に自分を納得させて見ていたら、江戸に行ったら全然人を切らないで無為な生活を送っているだけだし、字津木文之丞の弟が敵討ちを狙っているという事を知っていながら特に何もしなかったりと、結局この人物何がしたいのか分からず、ずっと掴み所の無いまま。

他にも登場人物が多く出て来るけれど、その人達も何がしたいのか分からない事ばかり。
お浜は自分を捨てた字津木文之丞に対する復讐もあって襲った机竜之助と一緒になり、その後夫婦で揉め、字津木文之丞の弟が敵討ちを狙っているのを知っているので、その弟と通じて机竜之助を何とかしてやろうとするのかと思いきや何もしないまま死んでしまい、更に死んだ後にお浜演じる中村玉緒が、お浜そっくりの別人役で登場したので机竜之助と何かあるのか思いきや、やっぱり何も無いという、この人物で何がしたいのか、さっぱり分からず。
始めに机竜之助に殺されたおじいさんの娘?孫?のお松が時々出て、不幸な身の上を展開するのだけれど、このお松が一向に机竜之助と関わって来ず、ずっと流転するばかりで、やっぱり何の為の机竜之助に対する復讐を狙っている役柄として出しているのか分からない。
このお松の境遇を案じ、偶然通りかかったおじさんが色々と世話を見てくれるのだけれど、このおじさん実は盗賊で、常にお松を付け回して危機が迫ると彼女を助ける訳ではなく、お松に嫌な事や悪い事をした相手に復讐をするおじさんで、何でそこまでするのかは一切描かれず、単に良い人だけれど実は泥棒という設定に全然納得出来ず。

それに急激過ぎる展開に唖然とする部分も沢山。
画面の雰囲気としては江戸中期位の話だと思って見ていたら、急に近藤勇や土方歳三等新選組の面々が登場し、「えっ、これ幕末の話だったの?!」と驚いた。序盤に時代説明無いから戸惑うばかり。
危険な剣士の話なのに、中盤はほとんど机竜之助とお浜の夫婦喧嘩。これが見せ場という事なんだろうか…。
更に、終盤で机竜之助とお松が出会い、二人だけで会話し始めるので、「ここでお互いの存在を知り、敵討ちなのか、お浜の様にてごめにされるのか…」と思っていたら、お松が何の振りも無く「幽霊がいる!」と言い始め、それに乗っかった机竜之助が発狂してしまうという訳の分からない展開になってしまう。ここは余りに唐突で、本当にポカーン…とした。

何より、登場人物が偶然にも同じ所に集まり過ぎるという都合の良さも酷い。始めは大菩薩峠周辺にいた人々から始まるのは分かるけれど、その人達が一人江戸に行くと皆が江戸に集まり、今度は京都に行くと皆が京都に集まり、更には広い江戸や京都で都合良く偶然に顔を合わせてしまうし、常に登場人物達の行動が都合良過ぎてしまう。

これらの事は何も知らずに見ていると酷いだけだけれど、これが三十年近く続いた新聞連載小説が原作だと知って、ある程度納得。特に1913年からの連載となれば作者も編集も大分適当な部分は出て来るだろうし、毎回少しの話をずっと続けて行くと、「今週のここで盛り上げる為に新たな展開を!」とか、「この部分は受けが良いので長引かせて…」とか、「たまには脇道に入った、全然違う話を…」とか出て来て、当時連載を毎日読んでれば気に留めない部分が、まとめて一気に見てみるとまとまりのないグダグダした話になるんだろうなぁ。

役者に関しては、やっぱり市川雷蔵は非常に良い。冷酷で表情を余り変えない剣士の凄みや怖さが非常に出ている。これに影響を受け、この後に眠狂四郎を演じる訳だから、眠狂四郎の原型として見ると関心して見れる。
中村玉緒って、どうしても近年のバラエティに出ているおもしろおばあさんの印象が強過ぎ、それに加えて若い時ってそんなに美人でもないのにやたらと市川雷蔵や勝新太郎の映画に登場するので余り好きではないけれど、この映画でのお浜役は非常に良かった。恨みの狂気や、結局は無為な結婚生活に疲れた顔等、こういう不幸な役の方が光る。

それと画面作りは非常に良い。陰影をクッキリ付けたり、ぼやかしたりと光と影が非常に綺麗だし、机竜之助とお浜が会話している内に、何時の間にか日も暮れ、蝋燭を持った人がやって来るという場面は、見ていて「あっ。夜になったのか…」と気付かない内に徐々に暗くして行っているという非常に細かな変化さえも表現していて感心した。
画面上半分だけに人を置いたり、チャンバラの場面は引いて取ったりと、画面的な工夫はあちらこちらにあり、画的には市川雷蔵と言う事もあって非常におもしろいんだけれど、話がなぁ…。

この映画、原作が新聞連載小説だという事や三部作とは知らずに見た為、ただ沢山登場する主人公級の人物の描写が足りない、話が絞り切れておらず散漫、訳の分からない展開、やたらと偶然人々が出会ってしまう等々のご都合主義の連続で酷いばかりだった。仇討にかかる場面でブツ切りに終わるクリフハンガーで、「何?これ?終わりなの?」と不完全燃焼感しかないし。
これ、後二作あるけれど、これと同じく散漫で「何のこっちゃ?」な事ばかり続くとなると相当厳しい…。

☆★★★★
 
 
関連:大菩薩峠 竜神の巻
   大菩薩峠 完結篇

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