シャーロック・ホームズの冒険

2014年11月16日 日曜日

ビリー・ワイルダー製作・監督・脚本、ロバート・スティーブンス主演の1970年の映画「シャーロック・ホームズの冒険(The Private Life of Sherlock Holmes)」。

ホームズとワトソンの下宿に突然見知らぬ女性が馬車でやって来る。しかし女性は記憶を無くしていた。何故やって来たかも分からないままだったが、ホームズの推理と尋問で徐々に記憶を取り戻し、失踪した夫を探して欲しいと頼んで来た。ホームズは依頼を受けたが、やがてホームズの兄のマイクロフトが事件から手を引けと言って来た。

始まりからホームズとワトソンの日常が描かれ、ほとんど二人の会話劇で進む。ホームズは有名になったけれど、しょうもない事件ばかりで退屈し、その退屈しのぎに大麻を打っている様な危ない人。一方のワトソンは陽気で、悪態もつきながらホームズに付いて来る様な人。そのワトソンに無理矢理連れて行かれたバレエ公演で、ホームズはバレリーナから子種だけを求められたのでワトソンとの同性愛をほのめかして逃げたりと、序盤のコメディ的なやり取りが非常におもしろく、推理モノとは一線を画すホームズでグッと捕まれる。
構成もちょっと変わっていて、本編の事件が始まるのが40~50分過ぎた辺りから。謎も全くの謎の女性の登場から、彼女の夫を探し始めるとマイクロフトが介入して来て国防に関わる問題らしい事まで発展。しかも、ネス湖のネッシーまで登場して来て、根本の問題は国際的な戦略問題というドンドン大きなモノに。しかし、そのオチが非常にしょもない事になり、笑いと皮肉に満ちた転がし方も上手いしおもしろい。

それにホームズの描き方もおもしろい。ホームズって勝手な印象では、沈着冷静で紳士的に物事を進める人なんだけれど、このホームズは自分の興味ある事だけが優先事項で、相手にやんわりと対応もするけれど、女性にきつく当たるし、泣いていたら「やめろ!」と怒鳴る様な人物で、相当偏屈で嫌な奴。
このホームズを見ていたら2010年に始まったBBCのテレビドラマ「SHERLOCK」のシャーロック・ホームズは相当影響受けているなと思う。「SHERLOCK」の解説ドキュメンタリーでも、ドラマでマイクロフト・ホームズ役を演じ、製作や脚本を書いているマーク・ゲイティスも「この映画の影響がかなり大きい」とはっきりと言っている。ホームズの人物像だけでなく、マイクロフトとの険悪な兄弟関係やディオゲネス・クラブの設定、シャーロック・ホームズはつまらない事件ばかりで退屈し、退屈凌ぎの為にコカインに手を出していたり、シャーロックとワトソンの同性愛ネタで笑いを取ったりと、この映画の影響が相当ありそう。…と言うか、1970年でこのシャーロック・ホームズがあったとは、21世紀の新たな「SHERLOCK」って言う程新しくも無いという事か。この映画見てから「SHERLOCK」見るのか、見ないで「SHERLOCK」を見たのかで相当評価が変わりそう。

この映画の邦題が「シャーロック・ホームズの冒険」だけれど、原題は「The Private Life of Sherlock Holmes」なので「シャーロック・ホームズの私生活」じゃん。原作の小説に「シャーロック・ホームズの冒険」があるだけに、何でわざわざこの邦題にしたのかが意味不明。

この映画、始まりのホームズとワトソンの「The Private Life of Sherlock Holmes」から、この事件が最後の「The Private Life of Sherlock Holmes」になるまでの二重の意味だったり、徐々に大きくなって行く謎とそのオチの付け方等の展開。癖のあり過ぎるホームズとワトソンの人物設定等、ビリー・ワイルダー上手いなと。多分、王道なシャーロック・ホームズではないのだろうけれど、コメディ的要素も大きく小気味良さもあって楽しめる。

☆☆☆☆★

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