ザ・バンク 堕ちた巨像

2014年08月11日 月曜日

トム・ティクヴァ監督・音楽、クライヴ・オーウェン主演の2009年のアメリカ・ドイツ・イギリス共同制作の映画「ザ・バンク 堕ちた巨像(The International)」。

インターポールの捜査官ルイ・サリンジャーは、国際的にも巨大な銀行IBBCの不正資金や武器取引を暴く為、ニューヨーク検事局と共同捜査をしていた。情報を得る為にニューヨーク検事局員が情報提供者と会うが、突然ルイ・サリンジャーの目の前で死んでしまう。IBBCの犯罪を暴こうとすると情報提供者や証人が次々と殺され、手掛かりが無くなって行った。

巨大銀行の闇の部分を暴く捜査官の話で、地味ではあるのだけれど序盤から捜査の光が見えたと思った瞬間、暗殺やら上層部への圧力やらで一気に叩き潰される巨大過ぎる敵の圧倒的力の前に見ている方も愕然とし、どうなって行くんだ!?と掴んで離さない。見終わってのモヤモヤと晴れない気持ちを抱えたまま緊張感が最後まで続き、一気に映画を見せ切る上手さがある。
序盤から、何とか糸口を掴もうと聞き込みや証拠集め、科学捜査もしてジリジリと攻めるのに、相手は一気攻めてに圧倒的に潰してしまう。この緩急の付け方で敵の巨大さと強さを見せ、主人公達側は国際的な捜査機関にも関わらず無力で何も出来ない鬱積を見せる構成と演出は見事。特にクライヴ・オーウェンの悪人を許さない強い意志を持ってはいるけれど、それも挫かれそうになりながらも堪えている様な厳つい表情が多くは語らずとも顔で語る上手さが見え、クライヴ・オーウェンの存在感と演技が物凄く良い。…なんだけれど、この映画のクライヴ・オーウェンって役所広司に見えてしまい、気が付くと「顔の大きくない役所広司…」とばかり思ってしまった。
地味な捜査が続き、そういう部分も良いのだけれど、きっちりと中盤から終盤にかけて派手な銃撃戦も入れて、ちゃんと飽きさせない様に娯楽映画もしている。そのグッゲンハイム美術館での銃撃戦は非常に良く(もちろん本当の美術館ではなく、セット)、今まで追いかけて来た無慈悲な殺し屋が自分が狙われたからの共闘反撃で、敵が味方になる展開も熱いし、ちょっとした一瞬の動きで生死が別れる様な演出も良い。だけれど、それまでが非常にじっくりと見せる展開だっただけに、急な銃撃場面は映画全体からすると浮いている場面でもあって、重苦しいサスペンスを見せるなら、この場面は逆にいらんのじゃないかしら?とも思ってしまった場面。
そして、各国の政府や企業に根を張っている大企業相手には法律や司法さえも及ばない時どうするか?の終盤の展開も良い。ハリウッド映画ならこれまで一緒に命をかけて来た女性がいれば彼女との恋愛に発展するのが王道だけれど、ナオミ・ワッツはあくまで一仲間であり、クライヴ・オーウェンのハードボイルドなやり方と、結局は何も出来ない虚無感でまとめる辺りも良い。

あと、登場する役者と役の関係性もおもしろい。クライヴ・オーウェンはイギリス人で、役も元イギリスの警察で今は世界を飛び回るインターポールの捜査官。
ウィリアム・ウェクスラー役のアーミン・ミューラー=スタールはプロイセン生まれで、東ドイツで俳優をし西ドイツへと、役も似た様な境遇。
ナオミ・ワッツはイギリス生まれでオーストラリアの二重国籍人で、役はアメリカ人なのであんまり関係無いけれど。ナオミ・ワッツはB級のホラーやらで主演を演じている印象が強かったけれど、こういう真面目なサスペンスでも出来るんだなぁ。

この映画、非常に地味で後半になると前半と少し雰囲気が変わるけれど、終始重苦しく、どうにも出来ないイラつきや絶望を見ている方も感じながら進んで行き、見終わってもやっぱり希望と絶望が混じる感覚を残す非常に良いサスペンス映画。見終わったら久々におもしろい長編小説を読み終わった感じがあって、この感覚がおもしろいサスペンスの基準。

☆☆☆☆★

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