メメント

2013年12月25日 水曜日

クリストファー・ノーラン原案・監督、ガイ・ピアース主演の2000年の映画「メメント(Memento)」。

レナード・シェルビーは何かしらの事故で、昔の記憶は覚えているが最近の記憶は短時間で忘れてしまう症状に陥っていた。そんな中で自分の妻を殺した犯人を探す為、重要な人や物は写真に撮り、もっと重要な事は体に刺青を入れて、自分のすべき事を忘れまいとしていた。

物語は犯人を殺す所から始まり、主人公の短時間しか持たない記憶の様に短く場面を前後させながら見せるという一風変わった構成になっている。普通に記憶が持たない人物を順番に見せて行っても良い所を、徐々に過去に遡って行く事で記憶が長時間持たない主人公の追体験でもあるし、彼に共感させる為の見せ方でもあるし、物語の全貌を少しずつ見せながら謎解きもし、しかも始まりに返る事で結末にもなるという非常に上手い構成。見ている間にも、時間順に見せて行っても話の効果が無いという事に気付く。この発想と、それを見せる為の良く練られた脚本と、何よりも編集の力。一つ一つの事物に意味を持たせる為にここまでしっかりと考えられて作られている脚本と編集は中々無い。主要人物は三人だけなのに話が二転三転し、覚えていない事による人物の見え方の変化や、主人公の幸不幸、最終的には巻き込まれた不幸な男ではなく、不幸な男が巻き込んだという結末にまで持って行く展開のさせ方に唸る。見ている間は重苦しくて嫌~な話と思っていたのに、気付けば始めに結末を見せているのに、それが最終的には主人公のハッピーエンドだったという引っくり返し方も上手い。
演出も中々上手い。途中途中で電話で話をしていて、見ている方は「誰に、何故その話?」と思っていたら、腕のガーゼを取り「電話には出るな(NEVER ANSWER THE PHONE)」で、電話が切れるとか、サスペンスとしての煽り方は一品。

主人公のガイ・ピアースは表情が上手い。突然ボ~として我を忘れつつも、急な記憶の喪失に対して何とかその場を取り繕うとする時の表情だったり、何とか良い人として、普通の人として接しようとする表情が上手い。実はこの行動も真実への振りだったりするのも、演技と演出の見せ所。
ナタリー役のキャリー=アン・モスは、こういう氷の様な冷たい人物を演じさせたら非常に上手い。途中の、家から出て直ぐに戻って来る所の変わり様ったら、怖過ぎ。
テディ役のジョー・パントリアーノも、基本的にはニコニコした良い人なのに、それが疑わしく、怖く見えてしまう。
主人公の奥さん役がジョージャ・フォックスで、「あ、サラ・サイドル!」と思ってしまった。今見ると「CSI」のサラ・サイドルなんだけれど、当時見ていると「ER」のマギー・ドイルだったんだろうなぁ。ジョージャ・フォックスの登場はほんの少しなんだけれど、実は彼女が大きな意味を持っていたのも唸る所。

この映画、前後する時間を効果的に見せる編集に目が行き、そこも凄い所なんだけれど、その編集を最大限に活かす脚本が見所。結局人は信じたいモノだけを信じるし、信じさせたいモノを他人に見せるという、人間の根源的な欲求と事実を見せている部分が大いにはまった。

☆☆☆☆☆

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