ファンタジア

2013年12月24日 火曜日

ウォルト・ディズニー製作の1940年の実写・アニメーション映画「ファンタジア(Fantasia)」。

ウォルト・ディズニーがアニメーションの可能性を表現する為に、クラシック音楽とアニメーションを融合させた映画。有名な曲に合わせ、抽象的アニメーション、ミッキーマウスの登場する「魔法使いの弟子」、地球の生命の歴史、神話等、様々なモノが詰まった短編集的映画。

この映画、本当に圧倒される。何が凄いかって、動きのあるモノの現実的なその動きや、動きのトンデモない滑らかさはもちろん、その動きによって柔らかさや重さ等、物の質感を表現出来ている事もそうだし、一切の言葉が無くても感情表現まで行っている作画の素晴らしい事と言ったらない。風に揺られる物体や煙等で表現される空気の存在感や、影も落ちた所が湾曲していればごく自然に曲がり現実の様な落ち方と動きだし、何より水の表現が素晴らしい。流れる水、動く水が本当に動いている水で、しかも活き活きとしているのだから、本当に凄い観察眼と作画力。この映画で一番有名であろう「魔法使いの弟子」の部分は、本当はミッキーマウスとほうきを見るのだろうけれど、ずっと光と影、水ばかりを見てしまい、感動に震えていた。ほうきが水中で桶から水を投げ出す所なんて、ほんの一瞬だけれど見ていてしびれ、この映画の中でも一番好きな場面。
更に、古典音楽に乗せて見せる事が前提なので音楽が先でそれに合わせ作画しているけれど、全てを計算し細かい単位で音楽に合う様に作画しているのかと思うと気が遠くなって来る。アメリカだと今でも大作映画だと、まずは役者の声を収録してから作画をするらしいけれど、その伝統ってもうすでにここら辺の時代から来ているのか。この映画でも、まず音楽ありきなのに、これだけの表現を出来るなんて凄い演出の力。
更に更に凄いのは、ウォルト・ディズニーの表現欲と先見性。この映画は世界初のステレオ音声映画でもあるそうで、アニメーションの表現性を追求した映画でもあるけれど音楽を聴かせる映画でもあるので、当時の最新技術であるステレオ音声を採用し、劇場もそれ用に装置も置きと、もう当時の技術を総結集。しかも、音楽の録音は9チャンネルで収録されたので、現在の5.1チャンネル収録ソフトや7.1チャンネル収録ソフトにも対応出来るんだから、70年以上経った今でも音楽的にも遅れはしていない。
これだけのアニメーションを作るのには制作三年、制作人数のべ千人、制作費228万ドル(適当に計算してみると1940年のアメリカの平均年収が1725ドルで、近年だと400~500万位だから、大体2500倍すると現在の金額的には57億ドル!)というトンデモない労力とお金かけているので、もう商売と言うよりはウォルト・ディズニーの表現欲と趣味が出まくった自主制作的映画。

実写部分での映像も綺麗。初めの楽団登場は青い背景に楽団員は影になり、所々に光が当たり、更に影絵の様に映し出され、ここでの色調も非常に素晴らしく、そのままアニメーションに入って行くのも上手い。しかも、この演出はアニメーションとの差を埋めるのもあるけれど、ミッキーマウスと共演させる為だったというのも上手い演出。
この初めのオーケストラの演奏を映像的に見せるのは今でも先進的だし、今に至るこの後にこのオーケストラ演奏を映像として見せる発展型が一般的に見る事も無く、今までと同じ形のオーケストラ演奏は伝統と言えば良いけれど、マンネリと進展の無さを考えると、ディズニーはオーケストラに対する皮肉と新たな進展性を提示しているのかも。

凄い映画なんだけれど、ただ、一番初めの「トッカータとフーガ ニ短調」部分は掴みとしては失敗。アニメーションは抽象的なモノばかりで、音楽は効き馴染みが無くおもしろくなく、一番初めの楽団の登場場面が非常に印象的なだけに、この部分で行き成り退屈してしまった。わたしは、ほとんどのオーケストラによる古典音楽は退屈してしまい、つまらないと思っているので、この音楽が先行し過ぎな導入はいらない。わたしにとってはこの映画全般に音楽は主でなく、アニメーションの為の伴奏の意味合いが強い。

この映画、本当に素晴らしい。すでに1940年に究極型のアニメーションを作ってしまったのではないかしら?と思えてしまう程のアニメーションの表現と演出で、70年以上経った今でも驚きと感動で震えさせ、内容的には感動するモノではないけれど泣きそうになってしまう。
今はアニメーションでも3DCGに移行し、特にアメリカの大作映画はほとんが全編3DCG。一方今でもアメリカでも日本やヨーロッパでも手描きのアニメーションが多くあるけれど、果たしてこの映画の表現を超えられているのか?迫っているのか?と言うと、どうなんだろうか?アニメーションの表現の一つの完成形を見てしまった感じ。

☆☆☆☆☆

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