ジョーズ

2013年12月22日 日曜日

スティーヴン・スピルバーグ監督、ロイ・シャイダー主演の1975年の映画「ジョーズ(Jaws)」。

のどかな海辺の町アミティに突如巨大鮫が現れ、パニックに。その鮫退治に懸賞金をかけ人々が集まり、すぐさま鮫を退治したかと思ったが次々と被害者が増えて行った。警察署長のマーティン・ブロディは海洋学者のマット・フーパーと、漁師のサム・クイントの三人で鮫退治に出かけるのだった。

所謂、自然界の巨大生物によるパニック映画だけれど、展開や演出が上手い。これ以降の出来の悪いモンスター映画やパニック映画は単なる恐がらせに終始して、非常にしょうも無い出来にしかなっていないけれど、この映画は鮫よりもそれに関わる事になった人々を見せる事が中心で、日常に有りうる危機に瀕した人々を描いており、そこが非常におもしろい。夏の海水浴のお客が重要な収入源になっている様な小さな町で、鮫の為に海岸を閉鎖する損失の方が大きいと思っている人々。特に市長に押される形のロイ・シャイダーが、何とか人々を救おうとする前半では町の経済状況と急激な変化への対応を見せ、ロイ・シャイダー、リチャード・ドレイファスロバート・ショウの三人が船で繰り広げる一種の密室劇では、各人を見せてから鮫との対決に移り、この流れは見事。鮫がやって来てパニックになり、それを退治するだけなのに、これ程人間ドラマで片時も目を離せない程見せるのだから、スティーヴン・スピルバーグがその後巨匠となるのも分かる出来。登場人物達はロイ・シャイダー、リチャード・ドレイファス、ロバート・ショウの三人の自身の個性と役作りと演技もあるけれど、きっちり人物を見せるスティーヴン・スピルバーグの上手さも。スティーヴン・スピルバーグって、おっさんを扱い輝かせる名人。
演出も非常にきっちりしながらもツボは抑えていて、序盤のロイ・シャイダーが乗る渡船に島の有力者の自動車が乗って来て、政治的・経済的駆け引きをしながら、そのままワンカットで向こう岸まで渡る所とか、ロイ・シャイダーに話しかける人の後ろの海で何かあるとか思ったらスカし、のどかに皆が泳いだりくつろいだりする中で一気に鮫に襲われるとか、中々見入る演出。それまでの振りが効いているから、海水浴をする為に陽気に海に入って行く人々を見て、それが恐怖と不安のドキドキになるとは本当に感心。
鮫もほとんど登場させずに徐々に事件を出して見せて行くのも、後年の鮫モノ映画で使われる驚かす為の仕掛けではなく、鮫の生態の説明や人々の反応を見せる為の展開。結構鮫の機械の故障が多かったからの見せなさもあるらしいけれど、しょっぱいモンスター映画の様なやり過ぎでもなく、現実感のある鮫との遭遇で非常に上手い見せ方。今だと下手にCGでやってしまい、全然現実感が無くなるけれど、この時代に全編実際に作って撮影しているからこその、この素晴らしい出来上がり。

ただ、スピルバーグ映画と言っても、撮影で全然駄目な部分も。始まりは夜明け位の薄暗い中で若者が泳ぐのだけれど、画面には水平線近くに太陽が見えているのに、海は日中にカメラの絞りを絞って光量を減らしているだけなので水面がキラキラ。水中からの映像は真上に太陽が見えているけれど、砂浜では朝焼けと場面場面がバラバラ。始まりがこれだとズッコケそうになる。まあ、スピルバーグはこの時代はまだ若手の新人監督に近い状態だから、そこまで丁寧に取れる撮影期間は与えられないか…。

この「ジョーズ」は巨大生物モノとしては、後に無数の鮫映画が作られた事を思うと、もう古典の部類になるだろうけれど、既にこれで完成されている。これ以降のモンスターモノでも、これの様に「良く出来ている!」と思える程の出来のモノって中々無い。人を見せ、ワクワクと恐怖を描く上手さが本当に光る。

☆☆☆☆★

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