ベルヴィル・ランデブー

2013年06月03日 月曜日

シルヴァン・ショメ監督・脚本の2002年のアニメーション映画「ベルヴィル・ランデブー(Les Triplettes de Belleville)」。

ばあちゃんに育てられた少年が大きくなりツール・ド・フランスに出場するが、試合中に何者かによって拉致され、ばあちゃんと飼い犬で彼を助ける為に追い駆け、大都市ベルヴィルへと辿り着く。

やっぱりヨーロッパ、特にフランスのアニメーション映画って、古くは「王と鳥」や「ファンタスティック・プラネット」とか、アメリカとも日本とも違う独特な展開を歩み、この何とも言えない不思議な感覚が非常に良い。この映画もそうだけれど、この物語や雰囲気を描くには、このアニメーションの表現手段でなくてはならないというのがはっきり見え、それが見事にはまっている。手段と目的が合致するって、見ていて非常に気持ち良い。
この映画を見ていると、シルヴァン・ショメが表現手段としてのアニメーションだけでなく、アニメーションと言うモノ自体が好きなのだなぁと分かるのは、映画の始まりはアニメーションの歴史の初期の頃の様なディズニーや「トムとジェリー」等のハンナ・バーベラ・プロダクションの様なカトゥーン的画と動き、それにちゃんと人間の指の数が四本だったりする白黒アニメーションで、アニメーションの歴史的な部分も研究していて、それをしっかり見せる事。アニメーション好きなら、この掴みで「オッ!」と目を引かれ、その後のアニメーションの手法の変化で持って行かれる。
本編でも、人物は非常にディフォルメされていて、会話がほぼ無いけれど、ちゃんと行動で全てを描写し、しかも実写的な細かい手や顔の動きで微妙な感情表現をしていて、演出も上手い。
それに、画自体の雰囲気やディフォルメや強調の表現や感覚が、日本ではほぼ無い感覚だし、アメリカのモノともまた違っている。子供や年寄りは卵の様な姿。主人公は体は痩せぎすなのに、極端に太ももとふくらはぎに筋肉が付いていたりする。他の人々も、極端に鼻が大きい、歯が大きい、ケツがデカいとか、日本的でもアメリカ的でもない独特な誇張感覚がおもしろい。町並みや家の中の様子も、全てが不均衡できっちりとした直線出来ている訳ではなく、極端な歪みや傾きで構成されていて、この不均整感が妙に不気味な世界観を作り上げている。色使いもアメリカ的な原色的色使いではなく、非常に淡い色合い。見ているだけだと、煉瓦や土壁を使い統一感のあるヨーロッパの古い町並みから来ている色使いに見える。この見慣れない不思議な感覚がヨーロッパのアニメーションのおもしろい所であるし、非常に興味深く、興味が行く部分。この世界観の構築で持って行かれる。

それに音楽も良い。始まりでオールディーズのショーを見せておいて、それを歌っていた三人組が行き着いたのは現代音楽的インプロヴァイゼーションと言うも皮肉的ではあるし、時代の流れを見せる展開でもあるし、ちゃんと物語の構成上の成程感もあるし、またその音楽が非常に心地良かったりもする。それにBGMもあくまで映像が主で、邪魔せず盛り上げる。またこのBGM達も非常に心地良い。

この映画で勿体無いのは、結構CGを使っている事。手描きの2Dアニメーションが、手描きの線の強弱、かすれまで見える位に非常に細かく描かれ良く出来ているのに、車や船の機械や人以外の前後に動くモノがCGで描かれ、手描きの部分と近い質感や色味にはなっているけれど、それでも時々CGの急な立体感にちょっと白けてしまう事が出て来る。全てが手描きだったら、トンデモないアニメーション映画になっていたと思い、ちょっと残念。

まったりとした流れや、盛り上げているのか良く分からない展開がヨーロッパ映画的と言うか、フランス映画的と言うか、掴み難い部分ではあるけれど、アニメーションの細かな演出や音楽との合わさり方、世界観と言い、非常に良く出来たアニメーション映画。目を離せない映画でもあるけれど、頑張るのが丸っこいおばあちゃんだったりするので非常にほっこりする内容だし、この世界に酔いしれる世界の作り上げ具合はとても素晴らしい。

☆☆☆☆★

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