この愛のために撃て

2013年06月02日 日曜日

フレッド・カヴァイエ監督・脚本、ジル・ルルーシュ主演の2010年のフランス映画「この愛のために撃て(À bout portant)」。

妻の出産を控えた看護師が、正体不明で運ばれて来た意識不明の患者が病院内で何者かによって殺されそうになる所を助ける。次の日、看護師の家に何者かが押し入り奥さんを誘拐し、あの患者を連れ出せと電話で指令して来る。

題材や映画的には王道なハリウッド映画的巻き込まれ型のサスペンス・アクション映画ではあるれけど、出ている役者を全く知らない事や、場所もフランス、台詞も全編フランス語という見慣れないモノばかりなので、非常に新鮮に、真っ新な状態で物語を見れるという利点に加え、しかも構成や人物設定等が上手く、最後まで止めどなく一気に見せ付ける映画で非常におもしろい。
よく見るハリウッド・スターが演じるサスペンスだと「だってあんた、~の映画で最強だったじゃん!」となってしまい、人物の説得力が薄れる事が多々あるけれど、主役のジル・ルルーシュという役者がどんな人なのか分からないので、本当に普通なおっさんに見え、普通なおっさんにしか見えず、物凄く人物に入って行く。動きはバタバタしていて直ぐ捕まるし、何か起こった時の反応は必至だし、彼が至って普通のおっさんなので、愛する奥さんの為に頑張る姿を真正面から感じるので映画に説得力を感じてしまう。
一方の主役と共に行動する事になる犯罪者役のロシュディ・ゼムの存在感も良いし、主人公との関係性も良い。演じているロシュディ・ゼムの顔に現れる表情ははっきりとせず、悲しみを持ちながらそれは出さず、良い人の顔も見せると見せないの間を貫き、この良い人と悪人の境界にいる微妙な人物を非常に上手く演じ、役もバリバリ立っている。初めはお互いに何者か分からず敵同士だったのが、奥さんへの心配で必死な主人公に徐々に共感を感じ、助ける必要も無いけれど彼を助け始めるけれど、あくまでロシュディ・ゼムは犯罪者であり、結局は二人が違う世界に住む事を見せる微妙な距離感の関係にニンマリ。下手な映画だと、最後に病院に花を贈ったりなんかして台無しにしてしまう所だろうけれど、最後の場面でも幸せを手に入れた普通の人と裏の世界で生きる犯罪者との二人の違いを見せ、通じ合う様で決して交わらない二人の関係に成程と唸る。
他の登場人物達も皆の役が物凄く立っていて、誰もが渋いし、それぞれの設定や人物像が活きていて、映画に奥行きが出ている。

構成も非常に王道なサスペンスではあるのだけれど、序盤の訳の分からない謎な所から事件が一気に二転三転して行き、事件の全容が分かっての追い詰められ、そこからの逆転と、流れも止めどなく流れて行き、サスペンス映画で久々に「どうなるの?」で釘付け。一時間半も無いけれど、その中で非常にキビキビと展開し、非常に上手くまとめている。ヨーロッパ映画、特にフランス映画って、やたらと間を取りまったりし過ぎな印象が強いし、この邦題だと尚更変にメロドラマな感じを想像してしまう所だけれど、それを見事に気持ち良く裏切ってくれる映画で、有名俳優主演のハリウッド・サスペンス映画に比べても全く負けていない、寧ろ勝っている位小気味良い展開。
それに、警察署にある証拠を取りに行く為の手段も、「成程。この手があるのか!」と今まで見た事無いギミック。この仕掛けもロシュディ・ゼムの役の背景を主人公にも、見ている方にもはっきりとはさせずに一部を垣間見せ、想像させる為の仕掛けでもあるという上手さがある。

この映画、こういう題材だと大掛かりなモノにしがちだけれど、下手に大仕掛けにせずにこじんまりとした中での話、展開にしていて、それが見事に上質なサスペンス映画に出来上がっている。有名俳優とかの話題性ばかり先行して、実際見てみたら大した事無いハリウッド・サスペンス映画見るよりは、この映画を見るべき。十分以上に楽しめる。

☆☆☆☆★

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