comiXologyから見る、アメリカと日本のコミックスのデジタル配信

2013年05月07日 火曜日

comiXologyを使っていて思うのは、アメコミを読むには色んな意味で非常に便利。
DCコミックスマーベル・コミックスの様な最大手から、イメージ・コミックスダークホース・コミックスヴァーティゴトップ・カウ・プロダクションIDWパブリッシングアーチー・コミックスダイナマイト・エンターテイメント等見かけた事や聞いた事ある様な出版社から、全く知らない様な出版社まで80近くの出版社が参加しており、しかも「comiXology Submit」という個人出版用のプラットフォームまであって、「とにかく、ここに行けば読めるだろう。」という、読者には非常に便利な窓口を作っている。
日本の漫画のデジタル配信は詳しくないけれど、検索してみた限りでは各社が各自で配信している様だし、日本では出版社は電子書籍自体余り積極的ではない…なんて話も聞く。一方、アメリカでは電子書籍に積極的に対応し、comiXologyでも「一巻目は無料のお試しで続きは買ってね。」方式のモノも多くあったり、DCは毎週その週に発売されるコミックスのプレビューを載せた「DC Digital Comics Sneak Peeks」を無料で配信したり、マーベルの方はコミックスにデジタル・コミックスを見る事が出来るコードを付け、「紙のコミックス買えば、デジタル・コミックスも」と積極的にデジタル配信を進めている。それもあり、北米でのデジタル・コミックス市場は年々成長している。北米でのデジタル・コミックス市場はICV2の推定では2010年では800万ドル位だったのが、2011年で2500万ドル(Digital Comics Triple in 2011)になり、これ以降も数倍に成長すると見ているそうだ。日本の電子コミック市場500億円程度と比べると小さいけれど(電子コミックビジネス調査報告書2012)、元々のアメリカのコミックス市場が日本の10分の1位なので(日本の漫画・アニメーションの世界での実状やいかに? 2010年度版)、2012年では数倍になっているなら日本のデジタル配信と同じ位の割合か、それ以上に。しかし、日本の漫画市場が年々縮小している要因としてデジタル配信も少なからずあると思うけれど、アメリカの場合おもしろいのは「デジタル化が進んで紙のコミックスが売れない!」なんて事にはならず、2000年代中盤以降コミックス市場自体はそれまでよりも大きくなっている(Comic Book Sales by Year)。この市場の成長にしろ、出版社がデジタル化を進めたり、読者がデジタル配信を利用して、読者(わたしも)が便利と思うのにはアメリカのコミックス出版や流通の問題が大きく関わっている。
 
 
日本で言う、所謂「アメコミ」はスーパーヒーローモノのコミックスを指すけれど、アメリカではこれがメインストリームのジャンル。コミックス市場自体をこのスーパーヒーローモノが占めているけれど、日本の出版・流通形態とは大きく違う。

出版形態としては、一冊に一タイトル一話で32ページの雑誌の様な中綴じで毎月出されている。これが「コミックス」で、日本では独自に「リーフ」と呼んだりもする。「コミックス」は販売形態も雑誌と同じく、新刊は2・3ヶ月で店頭から無くなり、よっぽどの人気が無いと再販しない。その為「コミックス」にはプレミアが付いて、買おうとしても定価の数倍、昔のモノなら下手すると数千から数万ドル、スーパーマン初登場の「Action Comics #1(1938年)」やバットマン初登場の「Detective Comics #27(1939年)」なんて、100万ドル以上の値段が付き、もう投資対象。再販しても「2nd Printing」としてカバーイラストが違うモノだったりするので、版によって値段が違ったりする。
更に、最近ではこのコミックスを数冊まとめて単行本化(トレード・ペーパーバック【TPB】)を頻繁に、早くするけれど、昔の「コミックス」だとTPB化されていないモノも多いし、現在でも全てがTPBになる訳でも無い。
更に更に、流通も日本とは大きく違う。日本では今なら全土に数万店舗あるコンビニエンス・ストアで毎週発売日に漫画雑誌が売っていて、単行本も近所の本屋で一巻目から買う事が出来る。一方アメリカでは、アメコミが元々パルプ雑誌の1ジャンルとして出て来た事もあり、パルプ雑誌的な上記の様な出版形態だったり、売られる場所も映画やTVドラマで見かける様な町中の歩道に建っている新聞・雑誌・お菓子等を売っている売店ニューススタンドが中心だったけれど、ニューススタンド自体の衰退やコミックス・コード問題でコミックスがニューススタンドで扱われなくなり始めた事もあり、アメコミ専門店であるコミックス・ショップに卸す様なダイレクトマーケットが中心になり、コミックス・ショップでないと買えないという状況になってしまった。アメコミ自体が最早アメリカでは一般的な消費物とはなっていないのでコミックス・ショップの数は多くなく、大都会であるニューヨークのマンハッタンでも十軒あるかないかなので、「まず何処に行けば買えるのか?」という問題があった。そして、ヒーローモノは数十年に渡る長期連載に加え、キャラクターの権利を出版社が持っている為に出版社が管理するキャラクターの共演が可能で、話があちこちに関連して来るので「どこから読んで良いのか?」「今どれを買って行けば良いのか?」と悩む事ばかり。
それらの問題を一気に解決出来たのがデジタル・コミックスだったという訳。

国土が馬鹿でかく、人口も分散しているアメリカで「家に居ながら、これまでの数万冊のコミックスに加え、新刊も発売日に一冊1~3ドル程度で手軽に買えてしまう」という事なら、そりゃあコミックス・マニアでなくとも利用する。特に輸送費がかかり、購入の手間や外国語から来る不安、発売日から時間が経って読めたりするアメリカ外なら尚更。近年のアメコミ原作映画の公開、大ヒットもあり、新規読者が入って来る事によって市場が一気に大きくなり、上記の出版形態もあってコミックスを読むだけでなくコミックス自体の収集要素もあるのでコミックスを買う人は買い続けるし、デジタル配信で読める事によってコミックスのプレミア相場が落ちるかと思われるけれど逆にも落ちる訳でも無く、映画公開で知名度が上がった為に古いコミックスは更に値段が高騰していたりする。
デジタル配信を始めて新たな購買層を開拓し、これまでの読者も今まで入手困難だったり、値段的な問題で読めなかった物を読め、アメコミ市場も上向きって、凄い好循環。全ての状況を知っている訳でもないので何かしらの問題も起こっているだろうけれど、ちょっと理想的な展開じゃない。

日本もそうなるのか?と考えると、読者的には読んだら雑誌は捨ててしまう、単行本も売ってしまう人も多く、古本屋のフランチャイズが大規模に成り立っている事を考えると、デジタル配信で漫画雑誌・単行本を買わなくなる人は多いはず。それに、各社のデジタル・コミックの値段見ていると、現物の単行本等とほとんど同じ価格。だったら、何らかの拍子に消える可能性があるデジタルデータよりも、現物が残り、売れば幾らかお金にはなるし、他人にあげる事も出来、古本屋に行けばデジタル・コミックの半値以下で安く買えてしまう現物の紙の漫画の方が全然良い!となるだろうし。
驚いた事に、大手のチェーン展開しているレンタルビデオ店に行くと、最近は結構な面積をレンタルコミックに割いている。「絶滅したと思われた昭和の貸本屋の系譜が復活して、それが商売になり、大手でやってる!」と驚いたのだけれど、これって本来は出版社が同じ価格設定でデジタル配信すれば出版社丸儲けだし、読者は借りに行ったり返しに行ったりの面倒も無いしで良いんじゃないの?と思うのだけれど。

アメリカのデジタル配信の好循環は、コミックス市場が元々マニア市場で、そこに新規読者獲得や過去の「コミックス」の掘り起こしが出来たからもあった為で、一方日本の方は、市場が飽和状態な上に読者の主流層の子供から未成年人口が減っている事もあるだろうし、市場規模が大きいので会社間の囲い込みや動き辛さもあるだろうし、老舗コミックス大国のデジタルが起爆の一要因となっている成長市場と、大きくなってしまった成熟からの衰退市場との違いがちょっとおもしろく、アメコミや漫画自体よりもその形態や戦略の違いに興味が行く。まあ、単に読者としては、便利で安い方が絶対に良いに決まっているので、そっちに行くという非常に分かり易い事だけだけど。
 
 
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