栄光のル・マン

2013年01月19日 土曜日

スティーブ・マックイーン主演の1971年の自動車映画「栄光のル・マン(Le Mans)」。

前年のル・マン24時間レースで事故にあったレーサーが再びレースに参加し、24時間を走り抜く。

この映画は、極力会話劇のドラマ部分を抑え、レースとレースに関わる人々を静かに見せる。会話劇のドラマらしいドラマは始まってから40分位まで無く、そこまでは大会開催とレースの様子で進み、実際にレースが始まるまでレーサー達や周囲の人々はほぼ喋らず、表情や仕草で不安や緊張や興奮を見せる。ピット裏で展開される物語も作り物的大袈裟な劇的さを抑えて、登場人物達の会話もさり気なく、演出も普通な自然な反応を見せ、非常に現実味を持って見せる。このドラマ部分が地味ではあり、事故という迷いを抱えたレーサーという非常にベタな設定だけれど、見せるし見入るしで上手い脚本と演出。

この映画の興味深い部分であり、スティーブ・マックイーンが自動車レースだけでなく、レースを開催するという事にも深い想いが見えるのは、序盤のレースが行なわれる以前の、町に到着する列車から降りて来る人々、会場に向かう自動車の大渋滞、会場周辺に集まりテントを張っての泊りがけの観客達の様子や、警備する大勢の警官達まで見せている部分。本来なら本筋とは関係無い部分なのでサッと見せて終わる所を、わざわざこんなに割いて見せるのは、競技の部分だけではないレースと言うモノに対する思い入れが強いのが分かる。この映画、公開年の前年の1970年ル・マン24時間レースを実際に取材し撮影しているので、この大会の景色や雰囲気は当然本物で、映画の見せ方としてもドキュメンタリー的。
何よりこの映画が本物志向と言うか、凄過ぎるのは、1970年の大会に実際にこの映画の製作陣が出走し、競技車に搭載したカメラで撮影しながらレースで走らせていたのだから、半端無い。今の映画の発想なら、同じコースを貸し切って映画用に自動車や人を入れて本物らしくという感じだけれど、実際に出場するまで行くなんて中々出来ない。それをこの映画ではやってのけているのだから、凄いとしか言い様がない。

この映画では、レースに関わるちょっとした準備等の場面もしっかり描いている。耳栓をして、口に布を当て、ヘルメット被り、自動車に乗り込むレーサーとか、ピットワークや運転手交代時の注意や引き継ぎもキッチリ見せるし、細かな所まで省かずに実際の様にちゃんと見せていて、成程と関心を持って見る事が出来る細かな配慮。

ただ気になるのは、それまで静かにレースを見せていたのに、後半になると急に衝突が多発し、中には自動車に爆薬積んで走っていたのかと思える位の爆発をしてしまう、映像的な派手さと娯楽性を出してしまう所。

二時間近くを使い、本当にレース開催の朝から24時間のレースまでを見せていて、飽きさせない様に間には色んな場面を挟んではいるけれど、それでもレース場面は退屈してしまう。実際のレースを見せたいと言う部分は分かるし、逆に劇的で派手なレース場面にしてしまうと白けてしまうしで、どちらにしてもレースを映画で見せるってのは難しい。ただ、登場人物達の会話が少なく、さらっと表情や仕草で語る抑えたドラマ部分は非常に好きな見せ方。大人向けの映画。

☆☆☆★★

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