魔法にかけられて

2012年09月01日 土曜日

ディズニーの2007年の実写映画「魔法にかけられて(Enchanted)」。

ディズニー・アニメーションで散々描かれて来たベタな姫と王子というアニメーション世界の住人が、実写である現実の世界に来てしまい、てんやわんやになるお話。

本編前の「Walt Disney Pictures」のロゴのシンデレラ城までをグイングインとCGで見せる始まりから、そのまま城内の本まで一気に寄る演出で、すで掴まれる。しかも、その本は飛び出す絵本で、その本の中に入れば2Dアニメーションになり、CGから2Dアニメーションへの繋ぎも上手過ぎる。
ただその後の2Dアニメーションが余り良くない出来。背景は物凄く淡いのに、人物達はクッキリハッキリ、非常にデジタル作画っぽいし、ディズニーと言うよりは他社のアメリカンアニメーションっぽい。作画も劇場様にしては安っぽいし。そうなのに、どうやら2Dアニメーションは全編手描きらしい。やっぱり手描きで継続的に作っていないと技術は繋がらないし、進歩も望めないものなのか?手描きらしいけれど、CGを多用した前後に寄る演出はどうも浮いているし。これは日本のアニメでもCG使えるので使ってしまうが、前後の動きは2Dアニメーションだとどうも上手く見せていない気がする。

実写になってからも、いまいち感は拭えない。何より、アニメーション世界から現れたジゼル姫がアニメーションと全然顔が違い、しかも演じているエイミー・アダムスは実際この時33歳で、若い姫と言うのが無理あり過ぎ。人物の見た目もそうだけれど、綺麗なアニメーション世界から来たのに現実世界の違和感で戸惑う事も無く、アニメーション世界から来たのという説得力は無く、単に30歳位のコスプレしている痛い人にしか見えない。言動も明らかに夢の国の住人で、どう見てもどっかの病院から抜け出して来たか、薬物中毒にしか見えないのに、周りの人が意外と普通に接していて、現実の人間のおかしさばかりが目立ってしまう。
このアニメーション世界の住人が現実世界にやって来て、そのアニメーション世界の非現実さをくさして笑わせるというのを期待していたけれど、そこはディズニー映画でしかなく、パロディにはしているけれど緩い、子供向けの笑いでしかない。ただ、ジゼルが水槽の水飲んで熱帯魚を吐き出すとか、アニメーション世界の住人でも意味が分からない。現実世界にリスが来た時点で、子供向け映画と気付くべきか。
それに、この昔話の王子が原題のニューヨークにやって来るって、「ニューヨークの恋人」ですでにしているから、その異質感をした所で今更というのもある。

ミュージカル映画なのだけれど、歌う人はアニメーション世界の人々だけで、普通の人間ではないからだから歌うという、ミュージカル映画の馬鹿らしさを補完する説得力を持たせるのかと思いきや、ミュージカルになると周りの現実世界の人間も頭がおかしくなりミュージカルに参加してしまい、それにパトリック・デンプシーは戸惑っているのに突っ込む事もないという、結局普通のミュージカル映画でしかないのは非常に残念。折角のアニメーション世界の住人だからという設定を潰しているとしか思えない。
それに、吹き替えで見てしまったので、原語の歌は結構聞いていられるけれど、日本語だと物凄く恥ずかしくて見てられない。

この映画の主人公のエイミー・アダムスがどうも良くない。演技は良いし、頭のおかしさの強調も良いけれど、やっぱり姫と言うには歳行き過ぎているし、可愛らしくない。
ただ、王子のジェームズ・マースデンは良い。男前で真面目だけれどアホっぽいという、映画「X-MEN」シリーズでの我らがリーダー、サイクロップスとか、他の映画でも見るまさにピッタリな役。しかも、吹き替えだと気付かないけれど、本人は歌が物凄く上手いし、上手い上に歌でもアホっぽさも出しているという上手さ。
ナザニエル役のティモシー・スポールは、アニメーションからそのまま出て来た様な見た目で笑ってしまった。

主人公ジゼル姫の吹き替えの木村聡子は、舞台や歌を中心に活動している人だそうで歌は上手いけれど、声優はこれが初めてらしく物凄い下手。大学の音楽学学部出てるからか、教育テレビの何かのお姉さん的な喋り方。一方エイミー・アダムスの実際の歌はそんなに上手くなく、歌い出すと急におばさんっぽくなってしまう。

小ネタとしてはこれまでのディズニー・アニメーションのパロディが入っている様だけれど、元のアニメーションを良く知らないので余り分からず。ただ、ジェームズ・マースデンが立つ背景の看板の中に、彼も出演していた「スーパーマン リターンズ」の看板があったり。

折角アニメーション世界の住人が現実世界に来てしまったという異質な状況を、くさす様な笑いにする事も無く、ミュージカル映画の作り物感、非現実さをパロディにして笑わせる事も無く、ただ単に普通にミュージカルをしてしまっている。自分達が現実世界の人間の創作物でしかないというメタフィクションをする訳でも無く、折角の題材を活かし切れず、ファミリームービーに落とし込んだ感じ。「奥行きがある!」とか、「何この顔の黒いの?シミ!何それ!」とか、現実世界だからのネタは幾らでもあるだろうに。
それに現実世界での話が進むのに、終盤は単なるファンタジーでしかなくなり、「何じゃそりゃ…」感は半端無く、グダッと終わり、非常にしょうもない締めを見せる。ミュージカル場面も少ないし、恋愛部分は「何じゃそりゃ…」なしょっぱさだし、ミュージカル映画としても、恋愛映画としても、アニメーションのパロディとしても、どれを取っても中途半端、しょうもない出来でしかない。
アニメーション世界の住人が現実世界に来たという前情報からのわたしの期待からは遠く離れていた。もっと色々出来るはずなのに、やっぱりディズニー映画。この題材で他の会社が作れば、もっと大人向けの、おもしろい映画が出来たはずなのにと残念感一杯の映画。

☆★★★★

« | »

Trackback URL

Leave a Reply