日の名残り
2012年06月01日 金曜日カズオ・イシグロの小説「日の名残り」の映画化作品「日の名残り(The Remains of the Day)」。
上流階級の暮らしとなると、普通は貴族や金持ちの話が中心になるけれど、これは執事の話が中心になっている。執事を中心に据え、大きな時代の移り変わりと、その中で執事として生きて行く姿を描いている。なので、執事の仕事ぶりはもちろん、どんな心持でいたのか、どれ程仕事に誇りをもってしていたのかが描かれ、まず見聞きしない事なので、成程な関心がある。今だとホテルで行われる様な、国を動かす会談や会議の準備や食事、宿泊を個人の家でしている為、使用人は数十人で完璧な屋敷を作り上げる専門家集団で、各人が非常に高い責任意識を持ち、昇格もあり、所謂現在思い浮かべる使用人や、映画やドラマで見る脇役としての使用人とは全然違う、仕事人、職人として描かれている。何だか日本の江戸時代の武士的な滅私奉公に近い。階級社会という部分でも日本の主従関係と似ている部分はあるし、もちろんこの映画の舞台が政治家の大きな屋敷だからというのもあるだろうし。ただ、原作が1989年の現代の小説だから、どれだけその時代の現実が反映されているかは分からないが。それがどうでも、この映画の彼らの動きは、裏方としての仕事振りを覗いている様な興味深さと興奮がある。
時代の変化と共に執事も変わらざるを得ず、自分の主義主張よりも仕事が第一というのは、非常に高い仕事意識とも言えるけれど、非常に妥協主義とも言えるし、関わらない様にしている無関心主義とも言え、非常に人間的で微妙に揺れ動く機微を描いてもいる。
アンソニー・ホプキンスは使用人なのに恐ろしい程の目付きで、とても長年使用人をしていたとは見えず、絶対何か過去にあっただろと思わせる人物になってしまっている。ただ、気丈夫だけれど神経質で、非常に気配りが効き、自分の感情を、想いを抑えながらも垣間見せるという人物を、流石に上手く演じている。
新しい主が見た事あるなと思ったけれど、すぐクリストファー・リーブと気付き「へ~」と驚いた。スーパーマン以外の、歳を取った演技をしているクリストファー・リーブを初めて見たけれど、しゅっとした好中年で、なかなか良い感じ。
ヒュー・グラントが出ていたけれど、若い上に痩せていて、役柄的にも色気無いし、弱っちい感じ。
エマ・トンプソンは非常に地味で、地味だからこその使用人としての雰囲気と、勝気でもある性格が良く出ていて良い。
全てを言葉で語る訳でも無く、全ての結論や主張をはっきりという訳でも無く、演出と演技の含みで意味を持たせる映画。それが見事にはまり、非常に上質な映画になっている。表情や動きを読み取る様な映画って、演技と演出を見る映画でもあって、こういった静かだけれど多くを見せる映画は好きだ。
☆☆☆★★