インビクタス/負けざる者たち

2012年05月29日 火曜日

モーガン・フリーマンがネルソン・マンデラを演じた映画「インビクタス/負けざる者たち(Invictus)」。

ネルソン・マンデラが南アフリカの大統領となり、国民融和の象徴として南アフリカ代表のラグビーチームを応援し、引き上げて行く話。
ネルソン・マンデラの置かれていた状況や大統領として活動していた事も知っているけれど、ネルソン・マンデラが単なる人道主義者でなく、非常に現実主義者で、自分や人種間、国が置かれた状況をちゃんと把握し、政治的に立ち回る非常に強かな人間として描かれている。確かに綺麗過ぎ、実際はもっとドロドロとしていたのだろうと想像はつくが、その人の良さ、人懐っこさと、政治家としての強さの両方の部分をちゃんと描いていて、非常に魅力的な人物になっている。また、頑固なおじいちゃんとしてあしらわれるたりもする、愛すべき人物としても描かれているし。
始まりから、黒人の子供は荒れ地でサッカーをし、その脇の整った芝生のグランドでラグビーをしているのが白人達というくっきりとした対比で、その当時の南アフリカのスポーツ状況を見せるきっちりとした演出から始まり、マンデラ釈放後のニュース映像の再現映像は、ちゃんとビデオテープ的荒さがあり、雰囲気も実際の当時の映像を混ぜ、当時の空気を出していて、モーガン・フリーマンがモーガン・フリーマンではなく、ネルソン・マンデラだという説得力が増す演出で、掴みで一気に持って行かれる上手い演出。
後から監督がクリント・イーストウッドだと知り「成程!」と頷いたけれど、やっぱりクリント・イーストウッドは上手い。何気ない、派手さの無い大人しい映像なのに、退屈も無く見入る。

実際の1995年のラグビーワールドカップを知らないだけに、「どうなるんだろう?」のワクワク感が一杯で目が離せなかった。ラグビーのルールが分からなくても十分楽しめるはずだけど、アメトーークで「ラグビー芸人」を見て、ある程度ルールを知ってから見れたから試合も楽しめた。すぐ側での撮影や、観客席目線の試合風景と分けたり、なかなか迫力のある映像。
何より、この決勝までの道程から決勝の延長戦といった劇的な展開が、劇ではなく本当の話と言うのが凄い。しかも、あの上空直ぐ上を飛んで機体下部の文字を見せた飛行機も、ハカの時に一人前に出て引かないというもの実際の話なのだから、非常に映像的だし、そりゃ映画になるし、映画にしたい気持ちは分かる。
政治的、人種的に問題や心に抱えている事はあるけれど、自分の仕事を完遂しようとするボディーガードや、少しずつ前進する関係は見ていて気持ち良い。実際はそんな事あっても、相当根深いのモノでなかなか上手くは行かない、行っていないのだろうけれど。

話的に引き込まれる一方で、始まりから続くネルソン・マンデラの融和政策の話かと思ってたら、何時の間にかスポーツ映画で終わってしまい、その後をもっと描くんじゃないの?と、ちょっと肩透かしも。ネルソン・マンデラが主役で政治的な話を中心に描かれていたのに、何時の間にか主役が主将のマット・デイモンの話に移って行くし、マット・デイモン自身の悩みや心の移り変わりは描かれてはいるのに、どうしてチームが急に強くなって行ったのかがいまいち描かれていないので分かり難かったりする。スポ根モノの部分は大いにあるのに、そこは消化不良。

モーガン・フリーマンを見ているとネルソン・マンデラに見えて来る役の作り込みは流石。髪の毛の黒さが残る部分から、何時もより少し太っているのか穏やかな顔で、動きもゆっくり、何より喋りが独特なアフリカ訛りの英語。「ドライビング Miss デイジー」でも南部訛りで演じていたけれど、言葉の演技は得意な所なのか。それにしても、普段着のあの銀色の派手なシャツと着ている彼はネルソン・マンデラかと見え、一瞬ドキッとした。
マット・デイモンはこういう純朴な良いとこの坊ちゃん風の役が良く似合う。あんまり凄腕のスパイと言われても見えなさ過ぎて、しっくり来ない。

こういう実話を基にした映画見ると、実際はどういう風だったのかを知りたくなり、最後に出て来た実際の選手の写真を見ると、やっぱりいかつさと言い、鬼気迫る真剣さと言い、本物は違い、ドキュメンタリーを見たくなって来る。映画なので、どうしても一方的な綺麗な話になってしまうきらいがあるし、この題材だったら十分実際の映像はあるだろうし。しかし、盛り上げ方や、融和の希望をラグビーで見せるやり方といい、映画的にはなかなか良い映画。

☆☆☆☆★

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