ダウト〜あるカトリック学校で〜

2012年05月04日 金曜日

戯曲「ダウト 疑いをめぐる寓話(Doubt: A Parable)」の映画化作品「ダウト〜あるカトリック学校で〜(Doubt)」。

話はまさに題名が表す様に、あるカトリック学校で教師に対する疑いが起こり、それが事実なのか、はたまた単なる疑惑だけなのか、誰が正しいのか見ている方を惑わす。その、事実は見せず、見えて来させず、疑念ばかり起こさせる脚本が非常に上手い。初めの方はカトリック学校の日常で大しておもしろくは無いのだけれど、フィリップ・シーモア・ホフマンに対する疑惑が出て来る所から抜群におもしろくなって来る。子供と教育に対して厳格な為、嫌われている校長がはっきりした理由や証拠も無く持つ疑念と、人の良い人気の高い神父だけれども裏では怪しいという、疑いを持つ方、持たれる方、どちらも裏表の両面を持っている為、どちらが正しいのかは常に曖昧模糊。更に、疑念を持つ事、信じる事、怪しまれる事の正しさも突き付け、狭い話ではあるけれど見ている方は非常に揺さぶられまくり、その一喜一憂に目を離せられない。扱っている題材は、人種や性の問題で重い話にも関わらず、事実を引き出そうとし、それに弁明する藪の中な会話劇を上手い俳優陣が演じるので釘付け。
メリル・ストリープは流石な演技。更年期障害だからとも思わせる、常にイライラしている小うるさい教師で、悪役としてのツンとしたいけ好かない表情は素晴らしく良い。感情が高ぶってから一気に冷静に引く表情は圧倒的。その彼女が嫌な奴から、自分の役割をはっきり分かっていて、それを実行している実は真面目な人物だと分かって来ると、彼女に対する評価は一転する。しかし、彼女自身も強いと思われた信念が崩れて行く弱さも見せ非常に複雑さを見せ、ちょっとの表情や仕草で感情を見せるメリル・ストリープは凄い。
フィリップ・シーモア・ホフマンも、良い人なのに嫌らしい様な表情、雰囲気を醸し出し、どちらとも取れない人物を好演。
エイミー・アダムスも、若く、人を信じ易い、信じたいモノを信じる臆病な人物を上手い事演じている。
中盤の校長室でのこの三人の会話劇は、動きが少ないけれど興味を引く脚本と、三人の演技合戦で緊迫感があり圧巻。嫌な探り合いなのにニヤ付きながら見てしまう。
この映画吹き替え版で見たのだけれど、いつもは気になる声優の演技はこの吹き替えでは良かった。メリル・ストリープ役の弥永和子は抜群に上手い。ベテランの流石な演技。エイミー・アダムス役の桑島法子も若さと素直さが出ていて良かった。

映像的には、あえて画を斜めにして不安な表現とか、急に雨と雷とかの演出はそれ程でも無いのだけれど、元々の戯曲が良く出来ているのか、登場人物や動きの少ない、それ程大きな展開がある訳でも無いのに、これだけ会話劇で魅せる上手さの脚本は素晴らしい。そして、それを役にはまった演技をしまくる役者陣がそれをより引き立たせ魅せている、非常に出来が良い映画。

☆☆☆☆★

« | »

Trackback URL

Leave a Reply