吸血鬼 ボローニャ復元版
2012年05月03日 木曜日カール・テオドア・ドライヤー監督の1932年の映画「吸血鬼 ボローニャ復元版(Vampyr)」。
吸血鬼と言うのでホラー映画かと思ったが、それよりはむしろ、白昼夢を映像化した様な非常にシュールな雰囲気が全編に漂う不思議な空気の映画で、非常にワクワクしながら見入ったし、好きな種類の映画。
始まりがずらっと並んだ字幕での説明から入ったので、てっきり無声映画だと思ったらトーキーで、そこでちょっと驚き。作中で人物の心理を字幕で表現してしまうのは無声映画の直ぐ後の映画だからだろうけれど、トーキーなのに非常に無声映画的演出で違和感がある。
しかし、演出や画作り、編集が非常に良い。まるで白昼夢を見ている様な雰囲気を醸し出す奇妙な映像といい、影だけで存在している不可思議なモノの存在等印象的過ぎる場面が次々現れる。登場人物が怖さを超えて興味が勝るが如く覗き込む様な見せ方にしろ、不安を見せる不安定な構図、不安を煽る動きある光と影、部屋の中をすうっと歩き廻る様な流れるカメラワーク、溜める所はグッと溜め、一方で早いカット割りや不気味なカットを素早く挟み込み、今見ても演出や編集に古臭さが無い。それが恐怖とはまた違う、悪夢的な居心地の悪い違和感を全編にこれでもかという位漂わせ、見る者を捕まえ、一時も放さない。
「吸血鬼」という題名のこの映画では描かれる吸血鬼は吸血鬼と言っても映画「魔人ドラキュラ」のベラ・ルゴシ以降の現代的なモンスターとしての吸血鬼ではなく、疫病や精神的不安の象徴としての吸血鬼なので、不気味な静けさの掴み所の無い恐怖な人物というか精霊や妖怪的な存在で、それもこの映画の独特な雰囲気を更に盛り上げる。
この映画はフランス・ドイツの合同映画で、登場人物達は皆ドイツ語で話しているからなのは当然な上、不安定な構図や陰影の映像等非常にドイツ表現主義的。全編に流れる何とも言えない雰囲気と言い、こういう映画は物凄くツボに入る。今見ても色褪せず、前に前に攻めて来、がっしりわたしを掴んで放さない、とても素晴らしい映画。
この映画は古い映画に付き物でもあるフィルムの消失や、多くの公開バージョンがあるけれど、この「ボローニャ復元版」も原型に近いと形で復元したプリントらしい。ボローニャの会社が復元したので「ボローニャ復元版」なのだが、わたしはパッと題名観ただけで、てっきり「吸血鬼ボローニャ」だと思ってしまい、皆ドイツ語なのに何でイタリア人吸血鬼なのか?と、全く変な事を思ってしまった。
この映画、すでにパブリックドメインになっている様で、画質も音も悪く、しかも何処での版なのか、英語字幕と何処かの外国語字幕のモノをインターネット・アーカイブで見る事が出来る。
☆☆☆☆☆