インベージョン

2012年04月30日 月曜日

これが四度目となる、やたらと映画化されているジャック・フィニイのSF小説「盗まれた街」が原作の映画「インベージョンThe Invasion)」。

これぞSF的な社会性と言う名の人間の価値観に対する風刺。多数意見との違いと、それから外れた人間の恐怖。流行や熱狂から落ちこぼれた人、普通や一般に馴染めない人の恐怖と、少数を阻害する怖さが良く出ている。ゾンビモノの映画からスプラッターやホラー部分を除いた、阻害や脅迫の本質的な恐怖の元ネタ的話。共感性の欠如とか、外見は変わらないけれど別人って、フィリップ・K・ディック等が描く不安の恐怖のSFの大きな流れの一つ。相手の表情が読めないっていうのは、古今東西不安要素で変わらない。ここら辺の比喩的SF風刺感が物凄く、はまってしまった。
新たな価値観が良い方向に向かっても、今までの価値観に固執するのが人というモノ。しかしこれを見ていると、段々と何に固執しているのかが分からなくなって行く。別に殺される訳でも無し、結局人は遺伝子の操り人形なんだし。そして、ニコール・キッドマンが人を殺す事も辞さず、実際にそうして行くとそのまま見ている方の価値観も逆転して、考えを改めず固執する事の偏狭さが異質に見えて行く上手さ。人間性という聞こえの良い言葉でまとめるけれど、結局何も変わらず、自分が安心出来る人間性に留まり、今まで通り不幸の連鎖というバッドエンドにゾクゾクする。

役者陣は、ニコール・キッドマンがエロい。おケツがエロい。ただ、最後の方のニコール・キッドマンのカーチェイスなんて正直いらない。サスペンスに無理矢理アクションをねじ込まなくても…。
これのダニエル・クレイグって、すでにジェームズ・ボンドの後なのに凄い優男風で、パッと見誰か分からなかった。
演出的には、時間的な前後を入れ替えた短めのカットで状況説明したり、不安定なカメラワークで、この不安な現実を上手く表現している。
おもしろいのは、監督は「es」で有名になったオリヴァー・ヒルシュビーゲルで、この映画の雰囲気も「es」っぽさがあるのだけれど、製作はガンガンと派手なアクション映画の印象が強いジョエル・シルバーで、脚本にはジョエル・シルバーとは「マトリックス」シリーズで組んでいたウォシャウスキー兄弟が入っている事。何かバラバラな人達を集めて、意外とまとまった感があるのは、誰が何処でまとめていたんだろう?

SFにおいて、物量作戦でワッと攻める侵略モノは現実の戦争や暴力行為に対する風刺が強く、この映画の様にジワジワと、気付かない内に蔓延している侵略モノって、価値観の変化に対する答えの無い問的部分が強い。こういう、解決したけど結局何も変わらず、何もしないという、悪夢の円環的救われない話は好き。

その後「盗まれた街」を読んでみたけれど、この映画では小説は原作と言うよりも原案。まず、主人公は女性ではなく男性。その男性は医者だけれど、この映画ではセラピストなのは、より精神的な変化を強調する為なのか。この映画では精神的変貌が強く押し出されているけれど、小説では精神的変貌はいまいち分かり難く、実際別の何かと本当に丸まま入れ替えになる。そして結末はこの映画以上に呆気無い。小説と比べると、この映画は精神的変化を全面に持って来ているので上手い事出来ている印象。

☆☆☆☆★

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