モンゴル
2012年03月26日 月曜日浅野忠信がチンギス・カンを演じた、ドイツ・ロシア・カザフスタン・モンゴル合作のチンギス・カンの伝記的映画「モンゴル(Mongol: The Rise of Genghis Khan)」。
歴史書を読んでいるとチンギス・カンが一体何の為戦い続けて勢力を拡大し続けて行ったのか、いまいち分からない謎の人物としての部分が多いが、この映画では有名な弟殺しの話を描かない事で、テムジンが家族の因縁や復讐で動く現実的な人としての分かり易さが出ている。それなのにチンギス・カンの伝説的ファンタジー部分があり、そこはいらないんじゃないかと思う。池に落ちたのに何故か助かったり、何故か首枷が外れていたり。人としてのチンギス・カンを描くなら訳が分からなくなるので不要。それに話が急な展開が多く、飛び飛び感がある。見ている感覚としては数日後なのにいきなり子供を宿し、お腹が大きくなっていたり、最後の合戦をして見せ場を作る為だけに、今まではチンギス・カンは十数名の集団でしかなかったのに、急に軍備の揃った大軍団になっていたり。本来は後一時間位あるのにバッサリカットした位物凄い歯抜け感、省き感が強い。その為、各人物の真っ直ぐ過ぎる、一途な信念の理由も省いた感じで見え難く、皆良く分からない人になってしまっている。
それに何よりも一番の問題点はチンギスを浅野忠信が演じている事。なんでモンゴルの歴史上これ程有名な人物を日本人が演じなくちゃならんのだ。源義経をモンゴル人が演じたら明らかにおかしいのと同じ。若者なはずなのにおっさんだし。他にもどう見てもモンゴル人ではない中国人俳優がいたり、完全にキャスティングは失敗。ジャムカ役のスン・ホンレイ(孫紅雷)なんて、一人だけ何か意味があるのか良く分からない皆とは全然違う髪型のモヒカンだし、一人だけ演技が現代的な表情豊かな感じで浮きまくり。主役や主役級が雰囲気ぶち壊しているとは致命的。ただ、浅野忠信はいつもの淡々とした演技がはまっていたし、どれ程上手いのかは分からないけれどモンゴル語で全編演技しているし、浅野忠信本人自体は良い。
それにやっぱり伝記モノで、子供から大人になった時の、子役から知った役者に突然変わるのは違和感ありまくり。もしかして、この時点でテムジンは本当に別人になってしまっているという暗示なのか?役者自体がモンゴル人から日本人になっているのは、あの昔からのトンデモ説の「源義経がモンゴルに渡ってチンギス・カンになった」というのを支持する為なのか?だとすると、トンデモも無い映画…。
それ以外でも、初めの方で思いっ切り蹄鉄付けたサラブレッドで草原走っていたりして、興醒めも良い所。そして、チンギスは族長級のカンであって、皇帝級のカアンやハーンではないのに、ハーンと表記されているし。それに、モンゴル騎馬兵の特徴で主戦力でもあったはずの弓騎兵がほとんど出て来なかったのも疑問。戦闘場面は、ただ横に刀突き出して敵の間走り抜けただけで次々と敵がやられて行くという、馬鹿馬鹿しくて笑ってしまった場面なんかどうでも良く、弓騎兵での戦いをしなくちゃあ意味無いんじゃないの。モンゴルだからという設定の詰めの弱さばかり目立ち、こんな程度なら、別に皆が英語で喋るアメリカ映画にした方が、アクション大作としても、人物の描き方にしてもまだましだったんじゃないのと思える位。
音楽はホーミーと、多分馬琴頭の音で、ゆったりと壮大な雰囲気を盛り上げ非常に良い。だが、エンドクレジットが始まった瞬間に行き成りハードロックになってズッコケ、笑ってしまった。そこで雰囲気を台無しにするかと。
始まりのテムジンの子供時代位の抑えた雰囲気は良く、「なかなか良いし、期待が持てるぞ。」と思っていて、その後もそのまま続けばもっと良い映画になっていたのだろうけれど、その後が話は描かない部分が多すぎ、脚本の抜けさ加減と言い、モンゴルだからという部分が省かれた感じは、製作・監督・脚本のセルゲイ・ボドロフのいい加減さと、駄目さ加減ばかりが目に付き勿体無すぎる映画になっている。
☆☆★★★