迷子の警察音楽隊
2011年11月13日 日曜日何とも不思議な雰囲気が全編に漂う映画だった「迷子の警察音楽隊(ביקור התזמורת) (The Band’s Visit)」。
題名の通り、間違えて訪れてしまった町で一晩過ごす警察音楽隊の面々の話。
アラブ圏のエジプトの警察音楽隊がイスラエルの田舎町に訪れる話なので、そこには衝突やあからさまな嫌がらせが出て来るのかと思いきや、そういった政治的な主張の部分はむしろほとんど無く、個人対個人の交流が描かれている。確かに、お互いの会話は英語、あからさまな嫌な顔をしないが言葉数は少なく沈んだ感じにはなるけれど、主題であろうは個人の微妙な距離感の交流。恋愛、友情、信頼まで行かないその手前の、何とも言えない間が出来てしまい強く押したり引いたりも無く、遠いのか近いのかも分からない関係が、何かを成す事も無く続き最後まで行く。この掴み難い、フワフワと漂う時間に浸かっている感じで、退屈とはまた違う、かつ楽しい時間とも違う、何とも言葉に言い表し難い雰囲気になっている。
気になったのはやはり言葉。初めからヘブライ文字、アラビア文字という馴染みが無く、読めない文字が併記されていて一瞬戸惑う。更に登場人物達はアラビア語、ヘブライ語、英語で喋るので、そこでも遠い異国の出来事を感じ、何とも言えない不思議な感覚に陥る。
色々調べてみて「なるほど」と思ったのは、この警察音楽隊が迷った理由。彼らはベイト・ハティクヴァに行こうとしていたけれど、実はそんな町は無くペタハ・ティクヴァと間違えたのは、アラビア語には元々pの発音が無いのでbと間違え、ペタハがベイトハになってしまったという事。
また両人達共結構英語のrをはっきり発音していて、ぱっとの見た目だと英語圏の人に一括りにして見えてしまうので、この発音がこれまた不思議な感じ。
この言葉、そして妙にSFを感じてしまう田舎の砂漠の乾いた町の雰囲気、常に交わる様で交わらない人々の関係が、強く主張する訳でも無く流れ、漂い、つまらない訳でも無く、かと言ってはっきりと気持ちが持って行かれる訳でも無く、やっぱり不思議な映画。
☆☆☆★★