デアデビル:ラヴ・アンド・ウォー
2011年09月19日 月曜日映画「デアデビル」を見たけれどいまいちだったので、原作を読んでみようと思い原書を探してみたけれど一冊も無い事に気付き、一瞬困ったのだけれどマーヴルクロスに載っていたのを思い出し、11巻~13巻に掲載されていた「デアデビル:ラヴ・アンド・ウォー(Daredevil: Love and War)」を読んだ。
いや~、素晴らしい。
狂気と哀しみを前面に押し出した、濃い作品。
話は「記憶と言葉を一時的に失った妻を救いたいキングピンが精神科医の妻シェリルを誘拐し、それを脅しの道具として自分の妻を治療をさせる」のと「そのシェリルを誘拐した薬物中毒のヴィクターの内側」の二つが主軸となって進み、デアデビルは脇役、はっきり言ってこの二つの話を繋げる狂言回し的役所でしかない。真っ赤なコスチュームヒーローの登場が少なく、普通の人、犯罪者という異常な人達が中心な分、重く、心に突き刺す様な刺々しさがある。
フランク・ミラーの話の振り方、展開の仕方は小説的で、言葉は多いが渇いていて、表面に表れる意味とは違う意味を見せる言葉の選び方は上手い。最後のキングピンの台詞は、一番初めとほとんど同じだが全く逆の意味を持たせて終わるのも、一つの短編、読み切りとして上手い。
ビル・シンケヴィッチの画は、淡いペイントアートで見た目は漫画と言うよりも絵本やポスターの様だが、一コマ一コマの配置、空白を用いた構図、デアデビル的な擬音の使い方等、非常に上手い。顔、黒塗り、顔、黒塗りのコマが連続する構成が何度か出てくるが、会話は無いのに会話をしていて、しかも毎回その意味が違うという魅せっぷり。また、後半のページをめくって現れる突然の夕日の騎士の一枚画は、それ自体は関係無い画のはずなのに涙を誘うというページ構成の上手さ。
一番印象的な場面はこれだった。空を飛べない普通の人デアデビルが、まるでニューヨークの空を飛んでいる様なはっとする美しさのあるページなのだが、この物語全体からすると意外とどうでも良い場面だったりする。デアデビルの活躍はこの空飛ぶ様な美しい一コマでお終い。
この「ラヴ・アンド・ウォー」が出されたのが1986年。この年は「バットマン:ダークナイト・リターンズ」に「ウォッチメン」とヒーローコミック変革の年、当たり年。
DCでは「ダークナイト・リターンズ」に「バットマン: イヤーワン」、MARVELでは「ラヴ・アンド・ウォー」に続き「ボーン・アゲイン」とか、フランク・ミラー乗りに乗ってる。
この「ラヴ・アンド・ウォー」はデアデビルのヒーローモノとして読むと予想を裏切られるが、重厚で切なく読み切りとして素晴らしいコミック。ただ、マーヴルクロスは三巻に渡って分冊しているので、流れは切られるわ、途中の読み返しが面倒くさいわで、そこは減点。