イカリエ-XB1

2022年05月20日 金曜日

インドゥジヒ・ポラーク監督・脚本、1963年のチェコスロバキア映画「イカリエ-XB1(Ikarie XB-1)」
スタニスワフ・レムのSF小説「マゼラン雲」が原作。

2163年。宇宙船イカリエ-XB1は生命体を見付ける為にアルファ・ケンタウリへと発進した。

Amazon プライムビデオで配信が終わりそうで、全く聞いた事も無い古いSF映画への興味で見てみたけれど、これが1963年の映画と考えると物凄い映画だった。

乗組員達は老若男女で構成され、食事をしながら冗談を言い合い団らんしていたり、若者は恋をしていたり、運動施設があったり、チェスをしたり、映画を見たり、犬をペットで飼っていたりと、科学技術が発展した宇宙探査での日常を描くって、この時代にこれをしている事もそうだし、一本のSF映画でこれをあえて見せるって凄い事。
長期宇宙滞在時の妊娠や出産も描いているし、この時代を考えると相当先進的。
この乗組員が大勢いての日常ってスタートレックっぽいなぁ…と思って見ていたけれど、後から知ったのはどうやらこの映画がスタートレックに影響を与えたらしい。
確かに、長期間の宇宙探査の途中で謎の宇宙船に出会ったり、不可思議な出来事にあって問題が起きるってスタートレックだし、イカリエ-XB1のブリッジまでの移動手段がターボリフトっぽいし、通路が封鎖された時はジェフリーチューブの様な通気口を使ったりとかもスタートレックでよくある出来事だし。

途中に遭遇した人工物が地球外の知的生命体の物かと思ったら既に地球人が過去に送り出した宇宙船だったという捻りもある出来事に、それが20世紀に出発した宇宙船で、20世紀の悪しき兵器で自滅しているという批判も入れていて非常にSF的な要素も入っている。

謎のダーク・スターからの放射線によって乗組員が怠惰と眠りに襲われるというのは今まで知らない新たな宇宙での困難だったのもおもしろかったし、この放射線で乗組員が精神的におかしくなって騒ぎを起こし、宇宙船を乗っ取ろうとすると言うのは今でも宇宙モノSFの定番だけれど、これを既にこの時代にしていたのか。
この場面での最後に「お前は人を殺すのか?」で説得されて乗組員が諦め、その乗組員に対して「お前、ロボット壊しただろう。ちゃんと謝れよ」と言う優しい感じが物凄く好きで、サスペンスにする為にむやみ殺し合ったりせず、問題が解決したら優しい言葉をかけるという優しさがあるのが好きだった。

それに映像的にも色々工夫があり、人物を極端に画面の横に置いて台詞を喋らせたり、長い船内の通路の奥に一人だけ人物を配置したり、カメラを動かしながら動く人物を追っていたりと、映像的に見せる仕掛けをしているので集中力が途切れずに見ていられる。
特に映画の始まりは映画の終盤のサスペンス部分を持って来て、人物が台詞を何言か喋るとそこからオープニング・クレジットとなり、画面の端に人物がおり、それ以外の空いた空間にクレジットを載せるという見せ方も凝っている。
多分これがカラーだったら変にサイケデリックな色合いで映画の方向性が変わる気がして、白黒だから良い感じになっていると思う。

宇宙船や船内の造形は如何にも1960年代のSF感が満載で、今見てしまうとレトロフューチャーでしかないんだけれど、そこは1960年代の東欧のSF感を楽しむに変換は出来た。
宇宙船が円盤だったり、映像通信やセンサー的なモノがあるのにデータの出力はパンチカードとかはなのは時代性で、今見るとそういう時代性を楽しむモンなんだろう。
ただ、宇宙船から小型シャトルを出して調査に行くとか、船外では磁気シューズを履いているとか、結構ちゃんとしたSFをしている。
おもしろかったのは小型シャトルで、シャトルとは言っているけれど円盤型で、その円盤の上部の人が乗っている部分だけが他の宇宙船にくっ付いて動力部は切り離された構造だった事。
どうやらこのシャトルは母船からの操作でシャトルに乗っている人は操縦していないみたいだし、上部だけを切り離すとか不思議なガジェット感が新感覚でおもしろかった。

昨今の宇宙モノのSFは何だか妙に科学批判だったり、人が沢山死んでしまうとか暗い話に成りがちな気がするのだけれど、この映画は新たな子供が生まれ、新たな知的生命体とのファースト・コンタクトに向けてで終わっていて、新たな出会いと未来を想像させて終わるのが中々心地良くて良い感じ。

ただ、場面が急に進んで前の場面と今の場面の時間経過がいまいち分からなかったり、乗組員の話している内容や関係性がその後に深く影響もしなかったり、この人は何の専門家とか何担当とかが分かり難く、各人物も最後まで見分けが付き難いという不親切さと言うか、詰めの足りなさと言うか、物足りなさはあった。

この映画、1963年の共産圏だったチェコスロバキアでそれ程多くなかったであろう製作費とかを考えると凄い映画を撮ったんだと思う。
少し批判も入れつつ、宇宙探査での問題と日常を乗組員の団らんと議論や喧嘩を交えて描くって良く出来ている。
映像的にもおもしろいし、様々なガジェットもレトロフューチャーだと思って見れば今でも十分楽しく見れると思うし、今まで全く知らなかった古いSF映画でこんなに楽しめるとは思わなかった。

☆☆☆☆★

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