ランダム 存在の確率

2022年04月11日 月曜日

ジェームズ・ウォード・バーキット監督・脚本、エミリー・バルドーニ主演の2013年のアメリカ映画「ランダム 存在の確率(Coherence)」

八人の男女が家に集まってパーティーをしていた。
その夜はミラー彗星が接近しており、彗星の影響なのか携帯電話やインターネットが繋がらなくなっていた。
突然停電となるが近所では一軒だけ家の明かりがついており、その家に様子を見に行き家の中を覗いた一人が驚いて戻って来た。
その家が自分達がいる家と全く同じで全く同じ自分達がいたと言う。

Amazon プライムビデオで配信が終わりそうだったので前知識も無く見てみたけれど、発想や設定は抜群におもしろいだけに映像や演出が駄目過ぎて物凄く勿体無く感じてしまった。

初めは何気無い友達同士の会話劇から、突如近くに自分達と全く同じ家と自分達が現れて、これが一体何で、彼らは何なのかのサスペンスで進めて行きながら、それが無数に存在する並行世界が繋がると言う展開になって行くのは非常におもしろく、細かい部分での脚本も非常に良い。
本人達は自分の家に戻って来ていたり、自分の世界の友人が戻って来ていると思わせておいて、実は違っていたというバラシに持って行く所なんて上手い。
それに、前に割れていたグラスが今は割れていないとか、写真を撮った時に「違う写真だ!」「いや、同じ写真だ。」とか、所々で映す映像が前と違っていたり、話す内容の齟齬があったりと細かい部分で実は同じ世界の人物ではなく各並行世界の人物が入り乱れているというのを仕込んでいたりして、後から見ると良く分かるという作りの上手さがある。

後から思うとで一番思ったのは、初めに出て来たマイクがテレビドラマの「ロズウェル 星の恋人たち」にジョーというレギュラーで全話に出演していた話。
わたしは「ロズウェル」を見た事がないので、この話が出て来た時に本当なのかと思って調べてみたらレギュラーの役者にマイクという人はいないし、この映画でマイクを演じているニコラス・ブレンドンも出演していないし、そもそもジョーという役もいなくて、なんだそういう笑かしの一ネタか…と思っただけだったけれど、後から思うと「ロズウェル」が大好きで見ていたと言った女性がマイクに対して「あなた本当に出ていた?」という様な態度で全然ピンと来ていなかったのって、実はこれって「ロズウェル」という現実にあるドラマをわざわざ出している事からも既にこの映画の初めの時点で映画自体が別の現実を歩んでいる並行世界という事だし、マイクとマイクにピンと来ていない女性はそれぞれ別の並行世界の人間だという事なのかと思うと、そうとう脚本が練り込んでいると思われて物凄く感心した。
この各人物同士で話や記憶が噛み合っている様で微妙にずれているのは結構初めからあって、これが単に記憶違いだったり、忘れているという日常でもよくある事なので気にも留めないけれど、その気にも留めない事を利用して後の並行世界に繋げるという上手さは凄い。
所々で入る真っ暗になって場面が終わる編集も、真っ暗後はそのまま話や時間が続いているのに何の為のぶった切りなんだろう?と初めは思っていたけれど、この真っ暗編集も真っ暗前後で違う並行世界になっているという事なのか?と思うと成程とは思った。

ただ、人物達の行動には余り納得出来ない部分もあり、初めは自分達がした行動と全く同じ行動を相手方もすると気付いたら、こちらが何もしなければ何もならないからそんなに焦らなくてもいいじゃんと思ったり、全く同じ家と同じ自分達なら何でそこまで元の世界や本来の友人にこだわるのかがいまいちピンと来なかった。
これで家にいるだけとか、同じなんだからこだわらなくていいじゃん!だと話が何も展開しないからだろうけれど、この映画が良く出来ているのは終盤にこれも解決させていて、皆が何も行動しないままで家で楽しくパーティーを続けている並行世界が出て来て、それが正解の様に見せていたし、最後エムは元の世界にこだわらずに世界を自分で選んだしで、その前半の行動も最後への伏線だったのかと感心。
まあ、人が二・三人だと話はまとまりやすいけれど八人もいるとまとまり難いから色んな人がいないといけないので登場人物達が皆癖が必要だったというのもあったけれど、昔からドッペルゲンガーと会ったら死ぬとか、実際にはしなかったけれど過去や未来の自分と出会ったら宇宙が崩壊するってドクも言っていたから、下手に自分に会わない方が良いというのは一般教養としてあるのかと思ったけれどそうでもないのか。

話は上手いしおもしろいけれど、どうにも映像が酷く、カメラは手持ちカメラで常にブレまくって見難い事この上ない。
わたしはこのブレブレカメラが大嫌い。
この話や設定からドキュメンタリーっぽくする狙いがあるんだろうなとは思ったけれど、調べてみたら IMDbのTriviaには「各役者には本人だけが見れるその日の目標となる短い文章が渡され、それを基に役者が演じるので自由に動き、自由に動ける為にカメラがそれを追うという形にした」という事が書かれていてこういう映像や演出になったのかで成程とは思ったけれど、だとしたらカメラマンがただ単に下手なだけなんじゃないの?とも思ってしまった。
手元の寄りとか、一人の人物が動かずにいるバストショットでも映像のピントが合っていなかったけれど、これってその場面だけの切り抜きの撮影の気がするし、長い場面の中の続きの画だとしてもピントが合っていないとか下手過ぎ。
人物の動きが無い場面でも映像が小刻みに震えていたけれど、これってカメラを持つ手がカメラの重さや疲れでプルプル震えているとしか思えず、カメラマン駄目だろ。

それに問題を感じたのは外の暗い所を通ったら別の並行世界に行っている事。
家から出ると外が真っ暗で、この外の時の画面は常に真っ暗で、所々人物は薄っすら見えるけれどビリビリした画質の悪さになったり、この外の映像はほぼ何なのか分からないのに暗い所を通ったら別世界に行っているとか、そもそも外の映像全部真っ暗じゃん!暗い所って何処だったの?で何だかよく分からない事になってしまっていた。

あと、この映画では彗星が地球に近づくと無数の並行世界と繋がってしまうとか、外の暗い所が並行世界の繋がり部分とか、よく考えると何じゃそりゃ?な非常に便利なファンタジーではある。

この映画、設定や話は上手いし、後から思うと…な良く練られて仕込まれた脚本は上手いのに映像が常にブレブレで見てて面倒臭くなってしまうし、誰が何しているのか分かり難い下手な映像が問題。
もっと優秀な映像撮影・制作の人で撮りなおしたらもっと良いのになぁと思ってしまった。

☆☆☆★★

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