地獄

2021年07月30日 金曜日

中川信夫監督・脚本、天知茂主演の1960年の日本映画「地獄」

大学生清水四郎は大学の教授の娘矢島幸子と婚約した。
その帰り道、友人の田村に自動車で送ってもらう途中、道をふらついていた酔っぱらいを田村がはねて殺してしまう。
罪の意識に悩む清水四郎は矢島幸子と自首しようとタクシーに乗るが、途中でタクシーが事故を起こし矢島幸子が死んでしまう。
更に悩む清水四郎の下に母の危篤を知らせる電報が送られて来て清水四郎の父親が経営する老人ホームに見舞いに行くと父は愛人を作っていた。
父親を頼って居候をしている絵師の娘が矢島幸子とそっくりで清水四郎は驚くが、父親の愛人から言い寄られ始める。
その中で老人ホームの創立記念を祝って祝宴を催すが、老人達は毒を食べた魚を食べて全員死亡。
自動車にひき殺された男の母親が清水四郎を追ってやって来て酒に毒を盛って全員を殺し、清水四郎に橋から突き落とされた田村が現れて清水四郎を殺そうとして絵師の娘を殺害。
清水四郎は田村を殺そうとしたが、ひき殺された男の母親に殺されてしまった。
清水四郎が気付くと三途の川原におり、全員が地獄に来てしまっている事を知った。

この映画「地獄」がカルト的な事で有名なのは知っていて、Amazon プライムビデオで配信が終わりそうだったので見てみた。
確かに後半の地獄部分はカルト映画ではあるけれど、おもしろいか?と言えばそうでもなく、前半もカメラの構図や編集は独特で目を引くけれど、話自体は何じゃそりゃな部分も多く、おもしろくはなかった。

始めはどう地獄まで繋がって行くのだろう?と見ていると、清水は常に何かに巻き込まれながら周りの人々が次々と死んで行き、この現世での次々と起こる出来事は清水にとっては地獄で、これがホラーではあるのだけれど、中盤辺りから清水周りの関係者がどうやってか清水の居場所を突き止めて次々と集まって来て、そして都合良く次々と死んで行き、最後には一気に全員死亡とか、最早コントみたいな展開になって笑えてしまう。
映画の題材上、全員が何かしら隠し事があって罪があるので全員を地獄に送られるという展開にしたいのは分かるけれど、それにしても全員集合は力業だし、全員死亡って力業過ぎる。

力業でねじ伏せてしまうので、説明も無く何だか訳の分からない展開が多い。
自動車に引かれたチンピラを偶然母親が目撃していて、自動車番号も見ていて、その自動車番号からどうやってか自動車の持ち主の田村ではなく、ただの同乗者だった清水の事を知っており、本来ならひき殺した運転手の田村への復讐にならずに清水を殺そうとしているのはよく分からないし、どうやってか清水の居場所を知って老人ホームまで来て、何の前振りも無く全員に毒盛って殺してしまう。
婚約者の自動車事故は何が原因なのかはさっぱり分かんないし、つり橋からの連続転落死は笑ってしまうし、魚の食中毒死に、毒入り酒に、実は死んでいなかった田村の復活に、大学生を無抵抗に絞殺死出来る老年女性に、ほぼ同時に全員死亡とか、好き放題の展開。

それによく分からないのが田村。
何が理由なのか分からないけれど田村は清水の事をやたらと気に入っており、突然現れて全てを知っている田村は一体何者で、何が目的?
教授の過去をどうやって知って教授を脅していたのかいなかったのかの微妙な行動を取ったのは何が目的?だし、その日に初めて会ったと思われる刑事や新聞記者の隠し事を完全に知っているとかどうして?
神出鬼没で罪の意識を感じず、清水を悪い方に引き込もうとする田村は、台詞にもあったけれど本当は悪魔か死神かだと理解しやすいけれど、地獄に行くと普通の人間扱いで、ただの性格の悪い人?

終盤の見せ場である地獄に行っても広大な無間地獄の恐怖が全然無く、延々とアングラな実験映像を見せられている感じで退屈。
流石に低予算で恐怖の地獄を見せるのは辛いとは言え、それでも広くはない映画スタジオの中で演芸会「地獄」をしている感ばかり。
謎の誰かのナレーションで各地獄紹介が入る丁寧さも地獄感が無かったし。
最後の大勢の人がグルグルと渦を巻きながら歩いている場面、何処かで見た事がある様な…?と思い出してみたら、ジョン・キューザック主演の映画「セル」の最後の大人数でグルグル回っているのを思い出した。

そして最後に、「地獄 THE END」と出るのでも笑ってしまった。
何故英語の「THE END」?
「地獄」なんだから「終」とか「完」とかじゃないの?

役者は、天知茂の学生服がどうにも違和感。
天知茂は見た目は40~50代位に見えてしまい、おじさんの学生服姿がコントに見えてしまったのだけれど、天知茂がこの映画の時は29歳だったと知って驚き。
十代後半の大学生役を29歳というのもきついけれど、それ以上に天知茂が老けて見えて、天知茂のおっさん感が凄い。

田村役の沼田曜一は天知茂が抑えた演技の分演技が大袈裟で、一人だけ舞台演技っぽい。
始めに登場した時に、てっきり婚約祝いで花をあげる為に赤い花を一輪だけ持っていたのかと思ったら、その花を誰かにあげる訳でもなくそのまま持って帰り、これ以降田村が花を手に取る様な事もないし、田村がキザとかいう事もないし、結局ここだけのヘンテコな性格付けしていて、一体何?

おもしろかったのは画面構成で、はっきりとした影と光の演出や、カメラを横や上下逆さまにして撮影していたり、足元の様な低い場所からあおって顔を撮り続けるとかの変わった画面で、これは非常に不安定で不安を煽る演出で魅せていた。
特にチンピラの親と彼女が寝っ転がって喋っている場面では、カメラは地面に置いて頭が奥で二人の足元だけを映しているという構図が今まで見た記憶が無い斬新さ。
この画の意図はよく分からなかったけれど、この時代に挑戦的な事していたんだなぁと感心した。

この映画、前半の現世部分では皆を地獄に持って行く為の振りとして強引に罪を被せて一ヶ所に集めて皆殺しにし、確かに現世でさえ地獄というは分かるけれど、後から思い出すと強引さと意味不明な事も多くて笑いの方に思えてしまい、地獄に行けばシュールな実験映像が延々と流れて退屈してしまい、見終わるとカルト映画って言葉は便利だなぁ…と思いつつ、満足感は薄かった。

☆☆★★★

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