キングダム/見えざる敵
2021年05月30日 日曜日ピーター・バーグ監督、ジェイミー・フォックス主演の2007年のアメリカ映画「キングダム/見えざる敵(The Kingdom)」
サウジアラビアの首都リヤドのアメリカ人が暮らす外国人居住区で襲撃と自爆テロが起こり、百名以上が犠牲となった。
犠牲者の中に友人もいたFBI捜査官のロナルド・フルーリーは現地での捜査を願い出るが、アメリカとサウジアラビアの国際関係から政府に断られてしまう。
ロナルド・フルーリーは様々な手を使い、政府の許可の無いまま総勢四人の捜査官でリヤドへと赴いた。
サウジアラビア側は歓迎の意を示すがロナルド・フルーリー達は捜査は直接行えず、見るだけの状態が続いていたが、サウジアラビアの警察官や王子との交渉を通じて捜査が出来る様になり、テログループの正体を調べ始めた。
Amazon プライムビデオでの配信が終わりそうだったので、ジェイミー・フォックスが出演していたという理由で見てみた。
始まりからアメリカとサウジアラビアの利害関係で繋がっている歪な歴史をサッと説明し、サウジアラビアに捜査に行きたくても許可が出ない中でどうやって行くかの政治的な駆け引きを見せ、サウジアラビアでは招かれざれるFBIの捜査が何も出来ない状況から一気に捜査が始まって犯人が分かって行き、最終的には激しいドンパチと、内容的には重いけれど集中力を切らさずに一気に見せる娯楽映画として良く出来ている。
構成は特に章は無いけれど、話が進むと違う題材を見せていて、その話の変わり様で各章毎に分かれているかの様。
始めは、個人の思いと複雑な国家関係の間で交わされる政治的な交渉と、正規以外の脅しや汚いやり方を使ってアメリカを出ようとする交渉は政治ドラマになっていて、静かなやり合いがおもしろい。
これが序章的な第一章で、第二章ではサウジアラビアに行ったFBI捜査官達が何も出来なく、ファーリス大佐を中心としたサウジアラビア側の状況も見せつつの、正にアメリカとサウジアラビアの国家関係の様な現場での政治的関係。
それが王子に対するロナルド・フルーリーの交渉で一気に変わり、捜査官達の本来の技能を活かした捜査になって、この細かな証拠集めと分析から犯人を追って行く爽快感が気持ち良い第三章。
そして捜査官達と犯人達との銃撃戦になる完全アクション映画の第四章と、章毎でやっている事も描いている事も違い、飽きさせないし、次はどうなる?の期待感が非常に上手かった。
ただその分、今までのあれはどうした?という部分もあり、初めのFBI長官と司法長官のやり合いは初めだけで後は全く描かれず、序盤の掴みの為のだけで、後々考えると必要だった?になる。
ファーリス大佐の置かれている状況や上司との関係や疑いのかかった部下の話も結末的なモノは描かれずで、やっぱり後々考えると必要だった?になる。
駐サウジアラビア大使も非常に人物が立っていて、アメリカ本国とサウジアラビアの間の問題解決に忙しく走り回っている様子だけれど捜査官達に帰れだけれで終わってしまって、何か勿体なさが沢山。
捜査が一気に進んで興奮する場面も手下に繋がっただけで、敵の本隊や黒幕には捜査官達を狙って来た敵を追いかけて辿り着き、捜査の結果が無くても敵が自らやって来たので捜査が少し霞んだし、偶然にも敵が自らやって来て見つけるという展開にしたのかは疑問。
銃撃戦も、FBIの捜査官達って爆発物の専門家や法医学者で分析官じゃないの?
拾った銃をあれだけ自由に扱えて、敵の銃弾を上手い事避けて、狭い部屋で人質に弾を当てずに敵だけ撃てるって、どんな訓練受けてんだ?だったし。
それに一番のモヤモヤは、中間管理職であり、不慣れな外交官であり、捜査官でもあるファーリス大佐は物凄く人物が立ち、そして完全に死亡フラグな台詞を言わせて死んでしまった事。
これだけ良い人物なのに、最終的にはハリウッド映画的脇役の死亡にはめ込んだ感じだし、アメリカ人の四人のFBI捜査官は誰も死んでおらず、結局死んだのはサウジアラビア人だけというのが無意識的なハリウッド映画的クリシェなのか、それともそれを皮肉った描きなのかが全く判断出来なかった。
最後の「復讐」はどちら側も同じで、結局は何も解決せずに混乱と憎しみが残って広がって行くというのは重く響くけれど、じゃあファーリス大佐の息子はどう思ったのだろう?とも思った。
父に憧れて警官になるのか、父の復讐の為にテロリストと戦うのかでは少し違うし、サウジアラビアはサウジアラビアで混乱や崩壊の種が渦巻いているという部分もあっても良かったのではとも思った。
この映画、重くて複雑な題材を扱いながら、次々と違う展開を見せて行くので飽きさせずに一気に見せて娯楽映画としてもおもしろい反面、最後はハリウッド的アクション映画にはめ込んでお終いというのも勿体無い感じはあった。
☆☆☆★★