椿三十郎

2017年08月14日 月曜日

黒澤明監督・脚本・編集、三船敏郎主演の1962年の映画「椿三十郎」。

とある藩の若侍達九人が古い神社の中で密談をしていた。
家老の汚職を知ったので城代家老に訴え出たが相手にされず、大目付に話してみると対処してくれるとの返答を得たと言う。
神社の奥で寝ていた一人の浪人がその話を聞き、その大目付こそが危ないと言って来た。
若侍達は反発するが、何時の間にか周囲をその大目付の部下達が囲んでいた。
浪人が若侍達を逃し、浪人が若侍達を率いて彼らの窮地と藩の危機を何とかしようとし始めた。

映画「用心棒」で三船敏郎演じる浪人が自分の名前を尋ねられ、外の桑畑を見て「桑畑三十郎」と答えたけれど、この「椿三十郎」では同じく名前を尋ねられた時に隣の屋敷の椿の花を見て「椿三十郎」と答え、「用心棒」と「椿三十郎」の三船敏郎は同一人物で「椿三十郎」が続編ではないのか?と思わせる続編的映画。
この、はっきりはしないけれど「同一人物じゃあないの…?」と思わせる位のほんの少しの関連性だけという設定からして、ニヤニヤしながら見れてしまう楽しい映画。
映画本編も実に楽しい。

「用心棒」と同じく三船敏郎の先見越しと、どんな窮地でも機知で乗り切ってしまう楽しさが一杯。
たった十人で大勢の藩の侍を相手にしなくてはならず、どうやって敵の意識を逸らすかや、起こってしまった問題をその場の機知でどう乗り切るかのおもしろさったらない。
この裏をかく、やり込めるの作戦が「用心棒」よりも次々と展開し、より痛快さを増している。
話も「用心棒」では小さな宿場町の対立するヤクザ相手だったのが、この「椿三十郎」では藩の権力者と大勢の侍と規模が大きくなり、娯楽作として更に増している。
また上手いのは、「用心棒」は小さな範囲だけの話で、これはこれで非常におもしろいけれど、続編となると似た様な設定では駄目だと全く違うお家騒動という大きな話にしている事。
同じだと思われる主人公の続編で、これだけ雰囲気をガラッと違う映画にしたのは見事。

剣劇場面も三船敏郎の一瞬で数人を切り殺すという「用心棒」からの殺陣は引き続きあり、更には数十人を一人で叩き切る場面もありと、チャンバラ映画としても非常におもしろい。

それにやっぱり各役が濃い。
三船敏郎は当然濃い、濃過ぎる主人公でカッコ良過ぎ。
ただ、「用心棒」程の可愛らしさは無かったかな?
「用心棒」を見た後なら金欲しさや騒ぎを起こして血沸き肉躍るワクワク感を楽しんでいる部分がありつつもこの浪人が良い人と分かっているので行動や動機も分かるけれど、この映画だけだと単に物凄い良い人というだけで、何の為にここまでしているのかがいまいち見えて来ない。

仲代達矢は「用心棒」とは違う落ち着きと悪さを前面に出した侍で、更に目力が凄い事になっている。
見た目は違うけれど「用心棒」と同じく役柄的に三船敏郎に興味を持っていたり、三船敏郎を自分と似た者と感じていながらも自分の方が上という野心家という役で、物凄い既視感を感じる役でもある。

その他にも所々で顔を出す捕まった侍の小林桂樹とか、物凄くほのぼのして非常にコメディリリーフとして一気に雰囲気を変えてしまうけれど家老の妻として冷静に現状を把握していたりする城代家老の奥さんの入江たか子とか、まあ脇が濃い。

ただ、本来ならもっと役が立って前に出て来るはずの九人の若侍が弱い。
若侍達がまだ若手の役者という事もあってか演技は上手くないし、序盤はそこそこ前にも出て来るけれど、常にする事成す事アホ丸出しで余計な事しかせず、終盤になると完全に仲代達矢に喰われてしまい「そう言えばいたっけ」状態な程。
加山雄三と田中邦衛の言い合いなんて完全に「若大将シリーズ」だし、同じく「若大将シリーズ」で若大将の友人であり、後に若大将の妹と結婚する江口役でお馴染み江原達怡も出ていて完全に「若大将シリーズ」なのでそこで楽しんでしまったけれど、本来主人公である加山雄三の存在がドンドン薄くなり、目立つのは加山雄三と田中邦衛と映画「ゴジラ」の芹沢博士役でお馴染み平田昭彦位だけで、他の若侍の存在感の薄さは何だかなぁ。

他にも、展開も「用心棒」では三船敏郎の考えは完璧じゃあないし、強くはあるものの無敵でもなかったけれど、「椿三十郎」では常に三船敏郎の考えは上手く行き、若侍達がそれを台無しにするという展開だし、この映画での三船敏郎はほぼ無敵なのも娯楽色が強くなっていると言えばそうだけれど、上手い事行き過ぎな感もある。
特に三船敏郎が無傷で数十人を切って行くのは興奮する場面ではあるけれどちょっとやり過ぎ。
それに最後の仲代達矢との決闘は物凄い間を取って緊張感と一瞬の爆発力は凄いけれど、妙に二人の間合いが近くて映像の構図の為の距離感に思えたし、あの噴水の様な血飛沫はやり過ぎでコント染みてしまっているし。
この最後の場面も本編中で三船敏郎と仲代達矢との一対一の決闘場面が無かったのでの付け足した感もあるし。

この映画、あの傑作「用心棒」の三船敏郎がもう一度見れるという部分や、その「用心棒」とは雰囲気も方向性も全然違う続編という部分や、痛快娯楽時代劇としては抜群におもしろい。
ただ、若侍達の存在の弱さや上手い事行き過ぎな感じとか、「用心棒」の妙な殺伐さやハードボイルド感が無くて、展開に力を取られ過ぎな感じもある。
だけれどおもしろい映画には変わりない。

☆☆☆☆☆
 
 
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