コード・ブラック 生と死の間で

2017年07月02日 日曜日

Dlifeで始まった、アメリカでは2015年からCBSで開始されたテレビドラマ「コード・ブラック 生と死の間で」。

救急処置室の許容量を超えた状態になった時に出されるのがコード・ブラック。
アメリカの病院ではコード・ブラックが出されるのは平均年に五回だが、 ロサンゼルスのエンジェルス記念病院は年三百回も出る全米で最も忙しい病院だった。
エンジェルス記念病院のERを取り仕切るリアン・ロリッシュの元に新たな研修医達がやって来る。

忙しいERが舞台の医療ドラマとなれば、どうしても「ER緊急救命室」と比べてしまうのは仕方が無い事。
特にDlifeでは以前から「ER」をシーズン1から放送し、この「コード・ブラック」の放送が始まった時も「ER」の再放送をしているのだからどうしても比べてしまう。
「ER」は爆発的に当たり、シーズン15まで作られた名作ドラマで、わたしもはまって見続けていたので比べない方が無理とは言え、「ER」と比べなくてもこの「コード・ブラック」は目新しさも無いし、非常に地味だし、ドラマとしてもいまいち。

救急処置室が舞台で次から次に患者が来ててんてこ舞いになるのは「ER」で良く見かけた風景だし、その「ER」よりも新たな進展を見せる為にコード・ブラックという更なる緊急事態を導入したのは分かるんだけれど、コード・ブラックになっても結構あっさりコード・ブラックを乗り切ってしまうので設定の見かけ倒し感がある。
このコード・ブラックが出たからと言って誰もが手に負えない野戦病院の様な無秩序さがあるかと言えばそうでもなく、結構手際良く次々と患者の処置を行うし、コード・ブラックが出てから36時間とか経っていたりもして、コード・ブラックが普段よりも忙しい程度の状態でしかない。
だったら何で必要以上のコード・ブラックを出している設定にしたのか分からず、要するに救急処置室の医療ドラマを企画した時に何か新たな特色を付けないといけず、それがコード・ブラックだったけれど、いざドラマを作り始めたらそのコード・ブラックがあんまり活かされていないって、結構致命的なんじゃないの?と思ってしまうのだけれど。

そもそも他の病院がコード・ブラックが出るのが平均年五回なのにこの病院は年300回って、それだけ忙しい病院と言いたいのは分かるけれど、やり過ぎな設定。
それだけのコード・ブラックが出れば患者を受け入れる事が出来なくて近隣の病院に患者がたらい回しにされる事態が起こるだろうし、エンジェルス記念病院で処理しようとして無理が彼方此方で起こり、相当な社会問題になってマスコミや行政が動いて状況を改善させようともするはずなのにほったらかしって何?という疑問が起きて来るし。
しかし、エンジェルス記念病院ではそれに完全対応している訳で、そうなるとコード・ブラックを出している意味が分かんなくなってしまうし。

しかも、ドラマ内では何故こんなにコード・ブラックが頻発しているのかの原因には特に触れられる事もないし、その大問題を解消する素振りも無いまま。
このコード・ブラックになってしまっている原因って、見ているとコード・ブラックでも看護士達が仕切りの上から覗いているだけで何も仕事していない人が多かったりして、「いや、まずこの人余り状態を解決する為に配置考えろよ!」だし、「だったら、看護師を何人か首にして医師を雇えよ!」と思ってしまう。
ERを管理しているはずのER部長のマーク・テイラーはちょこちょこ口を出しては来るけれど、この問題ある状態を解決する為に奔走している訳でもないし、そもそもこれだけ忙しいというのに一切治療を手伝っておらず、「この役に立っていない高給取りであろう部長の首切って、若手の医師を数人雇えばコード・ブラックも相当減るだろ?」と思ってしまう。
この病院でコード・ブラックが頻発するのって、地域や社会の問題ではなく単にこのER部長が無能なだけにしか思えないし、そもそも病院の経営が拙過ぎるだけにしか思えない。
「ER」では近くの病院のER部門が閉鎖されて回って来る患者に対応出来ないので他の病院に回したりとか、市からの予算が削られて職員を辞めさせないといけないとかの話もあったのに、エンジェルス記念病院ではそんな話も無くコード・ブラックが頻発しているのだから経営者がアホにしか思えない。だけれど病院経営の話は一切出て来ないし、都合良く作られたコード・ブラックが頻発する救急処置室だけが世界の全てなので現実味が無い。

ドラマを見ていると少数で対応しているからこれだけコード・ブラックが頻発している様に見えるので、よっぽど医師が足りていないのだと思っていたら、リアン・ロリッシュは「75名のスタッフがいる」と話しており、確かに看護師やよく分からない医師を沢山見かけるのだけれどその人達が一切ドラマの話に絡んで来ず、やたらと人がいるけれどその人達は何をしているのかよく分からないという状態で、描き方として結構問題あり。
ドラマとしてもこれだけの人がいるのだから群像劇として様々な人間関係が欲しいのに台詞があるのが数人だけで物凄く狭い人間関係しか見せずおもしろくなく、折角沢山の人がいるのに人間ドラマとしての設定としても上手く機能しているとは到底思えない。台詞のあるレギュラー陣の医者って指導側は三人だけだし、研修医は四人。あとは看護士長位しか喋る看護士がおらず、脇役も全然目立たず、物凄く人がいるのに人がいないので人間ドラマ、群像劇としておもしろくない。

毎回の患者のドラマも、「ER」が331話もあったので「ER」で散々やった、見て来た様な話ばかりなのでそれ程喰い付きも無いし。
「ER」だともっとさらっと描く場面を感動の方に寄せている感じが強く、ちょっと狙い過ぎの感じがするのもどうにもすんなり入って来ない。医療モノで感動を押し出すと押し付けがましいんだけど。
特に5話の「父の想い」では、謎の病状の母親を導入とした父親と息子の確執と和解。同年代の同僚の確執と共に危機を乗り越えた事による和解。娘に酷い事言った父親の患者の娘に対する想いとか、余りにベタな展開、分かり易い感動、お涙頂戴満載で辟易した。
しかも、謎の感染症かもしれない病状を見せて隔離が起こり大変な状態ではあるのに、他の医師達が医学書を引っ張り出して原因を何とかつかもうとするとかの描写は一切無く、相も変わらずER部長が憎まれ口を叩くだけと、まあ脚本がつまらない。
この5話目でわたしは限界だった。これ以降もこの押し付けがましいお涙頂戴の感動傾向や、一々説教臭く全部台詞で良い事をのたまうやり方が続くのかと思ったら見る気が失せた。

それに各登場人物達の設定も狙い過ぎかなと思った。
やたらと過去にトラウマを抱えたので医者をやっている女性陣や、自信過剰で先走るマリオ・サヴェッティ。逆に自信の無いアンガス・レイトンとか、指導医のニール・ハドソンローリー・グスリーはやたらと沈着冷静で説教を垂れるとか皆が典型的な役割ばかりで、如何にもな人ばかり。

それに出演者が地味。
出ている役者は見た事が無い人が多いので変な先入観が無くドラマを見れるのは良いのだけれど、見ていても役柄以上の強い個性を感じるのって、看護士のジェシー・サランダー役のルイス・ガスマンと医師のロリー・グスリー役のウィリアム・アレン・ヤング位なんだよなぁ。

あと、編集や構図が非常に見難かった。
近年の映画等で多用される「緊迫感を出す為に様々な方向のカメラからの映像をカットを短くして次々と繋ぐ」という手法をこのドラマでも使っており、これって一人の人物のアクションでも結構見辛いのに、まだ慣れていない病院の中で同じ担架やベットが並び何人もの看護士達が取り囲んだ中にいる人物を短い編集で次々と色々な方向から見せると誰が何処で何をしているかが物凄く分かり辛く、画面の動きに頭が対応して行かずに見ているのが面倒臭くなってしまった。
このドラマだと人物の顔の寄りが多く、医療を見せているのに処置中の手元まで見える引きのカットが少なく、顔の次に手元のカットが来るので誰が何してるのかやどういった処置をしているのかを見せるカットが少なくて分かり難い。
そう思うと「ER」でのステディカムでの長回しや、手術場面もグルグルと手術台の周りを回るという撮影方法は空間把握においても、人物描写にしても、緊迫感を出す見せ方としても上手かったのかと改めて思わせた。

このドラマは「ER」と比べてしまうけれど、わたしが感じたのは「これは『スタートレック:ヴォイジャー』だ!」。
てんやわんやで問題ばかりのERを何とか取り仕切り、強引だったり、優しさも見せるけれど明け透けに物を言う鬼教官のリアン・ロリッシュはジェインウェイ艦長。
リアン・ロリッシュと対立しながらも何とか上手くやって行こうとしている大人な態度のニール・ハドソンはチャコティ。
てんやわんやな所に新人が来たりでも上手く仕切るリアン・ロリッシュの補佐官的ジェシー・サランダーはトゥヴォック(ジェシー・サランダーはお喋りが絶えない冗談言いでトゥヴォックは冗談さえ言わない堅物だけれど)
新人研修医達はヴォイジャーの若手クルー達と、何か「スタートレック:ヴォイジャー」的な感じを物凄く感じてしまった。
人が沢山いるはずなのにブリッジの少数だけで話が進んで行くという部分でも「ヴォイジャー」と言うか、「スタートレック」的かもしれない。
なので、「ER」的な部分よりは一話目のリアン・ロリッシュの暴走気味な指導者部分に目が行ったのに、次第に普通の指導者になるのでそこのおもしろさも少なくなってしまった。

この「コード・ブラック」は「ER緊急救命室」がERだけでなく社会問題や病院経営を描いたり、ドンドンと脇役を育てて行ったり、その回のゲストが一回だけの登場かと思ったら複数回登場し主要人物達に影響したりとより多くの事物を描いたと比べると、エンジェルス記念病院の救急処置室での特定の少数の人物達の処置だけに絞った医療ドラマで非常にこじんまりしていて、人間関係で見せる人間ドラマの奥行きとしても、病院を中心とした社会等を見せる奥行きとしても物足りなさ過ぎ。
しかも、わたしが大嫌いな押し付けがましい分かり易い感動や台詞で説教臭い事をベラベラ言う事が多く、シーズン・プレミアからいまいち過ぎたし、5話までで全然おもしろいとは思わなかったので、終了。
 
 
関連:前期見たドラマはCSI 8とCSI:NY 4

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