マーベル75年の軌跡 コミックからカルチャーへ!
2017年06月25日 日曜日アメリカでは「Marvel 75 Years: From Pulp to Pop!」というタイトルで2014年11月にABCで放送され、日本では「マーベル75年の軌跡 コミックからカルチャーへ!」という題名で2015年7月にDlifeで放送されたドキュメンタリー。
テレビの録画一覧を見ていたら見るのをてっきり忘れていたので今更見てみたけれど、物凄くおもしろかった。
もちろん「マーベル万歳!」な内容ではあるけれど、スタン・リーを始めとするマーベル・コミックス関係者だけでなく、マーベルの映像関係者、その他作家や役者等の証言からマーベル・コミックスの前身であるタイムリー・コミックス設立から現在の映画の大ヒットまでの歴史を40分程で非常に上手くまとめている。
マーベルの歴史を当時の関係者の写真や社会状勢の映像を交え、マーベルの置かれた状況を有名なコミックスのカバーアートで比喩しながら見せ、それに関して実際のライターやアーティスト達が語って行くという構成で映像的にも魅せるし、マーベルのコミックス好きなら一々しびれてしまう。
スタン・リーはあちこちで見かけるので知った顔ではあるけれど、スタン・リーが語る1940年代のタイムリー・コミックスから1960年代のマーベル・コミックスへという流れの解説は、やっぱりワクワクする。
タイムリー・コミックスの設立者・発行人のマーティン・グッドマンがスタン・リーの義理の従兄弟で(義理の従兄弟の意味が分からなかったので調べてみたら、スタン・リーの従姉妹の結婚相手がマーティン・グッドマンらしい)、その縁でタイムリー・コミックス入ったら、当時はジョー・サイモンとジャック・カービーだけでスタン・リーが雑用したり、忙しい時はレタラーもしていたとか、1960年代になってマーティン・グッドマンが言うので書いてはいたけれど、当時のコミックスをスタン・リーはつまんないと思っていて、コミックス作家だと知られるのが嫌で本名のスタンリー・リーバーからペンネームのスタン・リーに変えたとか、つまんなさにウンザリして辞めようと思っていた所から自分の思う様にヒーローを描きだしての興隆とか、おもしろい話一杯。
その後の1970年代に作家陣の前の世代が退職して若手世代に交代し、マーベルの人気が出て来た事もあって人が足らず、ライターのゲリー・コンウェイは16~17歳で書きはじめたとか、1980年代のコミックスを読んでいた世代が作り手側になっての作風の変化や、1990年代のマーベル倒産話から2000年代の復活と現在の映画の成功と、ざっとした概要ではあるけれど、まあ興味深い話の連続。
一時間も無いのでざっとしており、各10年毎に2時間位のドキュメンタリーを作って欲しい内容。
「現在のマーベルが素晴らしい!」という結論があるので、1970年代の実写映画は結構ぼろくそに言っていたり、1980~1990年代のバブル的人気と、それを作り出した作家達の反旗とイメージ・コミックスとか、バブルの終焉と経営悪化の詳しい話や、そこからの再興があんまり描かれていないのは残念。
ここら辺をやり始めると、それこそ一つ一つの題材で2時間のドキュメンタリー出来てしまうか。
興味が行ったのは1950年代のコミックス市場自体の落ち込みの話。
もちろんコミックス・コードの話が出て来るのだけれど、1960年代のマーベルの人気へと繋がるのは第二次世界大戦が終わりヒーローが必要無くなった事や、テレビの登場で読書自体が人気が無くなったという戦後の安定が原因の一つとなっている話が出て来る。
実際、1940年代末辺りから1950年代にはタイムリー・コミックスでも、DCコミックスでもヒーローモノが打ち切られ、その代わりホラーが人気となり、そこがコミックス・コードの影響を受けていたり、コミック・ストリップの真似をしたコミックスに走ったりしてコミックスの質が落ちたと言っており、上記のスタン・リーがつまらないと思っていた直ぐに忘れ去られる内容や特徴の無い登場人物とかの反動で1960年代のマーベルのスーパーヒーローモノに繋がって行くのは成程と思う所。
この時代の流れを見ると、シルバーエイジとしての興隆も必然だったのかと思う。
歴史の部分も非常におもしろのだけれど、それ加えておもしろいのは登場して喋っている人達。
ジョー・カザーダ、ブライアン・マイケル・ベンディス、カート・ビシューク、トッド・マクファーレン、ジム・スターリン、ファビアン・ニシーザ、デニス・オニールとか良く名前を見る、時代を作った・作っている人達が喋っていて、「この人、こんな顔してるのか」が楽しい。
特にトッド・マクファーレンは確かマーベル出てからはマーベルで描いていなかったと思うし、特に「スポーン」の重要キャラクターだったアンジェラでニール・ゲイマンと揉めて、裁判でアンジェラの権利がニール・ゲイマンに行ってアンジェラをマーベルに売っちゃって、今アンジェラはマーベルの一員となっているけれど、そのアンジェラがマーベルに行ったのが2013年頃でそれよりも後のこの番組だし、そのニール・ゲイマンとの確執は「ミラクルマン」の権利での争いがあっての事で、「ミラクルマン」は結局マーベルに行った事を考えるとトッド・マクファーレンとマーベルは確執がありそうだけれどトッド・マクファーレンは楽しそうに喋っていたので良い関係なのかしらん?
こういう、関係者本人の証言と実際の写真や映像を使ったドキュメンタリーって、やっぱりおもしろい。
もう少しで80周年だし、十年二十年刻みのマーベル・コミックスの歴史のドキュメンタリー見たいなぁ…と思わせた番組でした。
関連:アメコミ・ヒーローの世界~ローラ&渡辺直美 マーベル・キャラクターへの道