エド・ウッド

2016年12月21日 水曜日

ティム・バートン製作・監督、ジョニー・デップ主演の1994年のアメリカ映画「エド・ウッド(Ed Wood)」。
実際にいた映画製作者エド・ウッドの伝記的映画。

1950年代のハリウッドで映画を撮りたいというやる気や情熱だけはあるが、中々成功を掴めないでいたエド・ウッド。
そんなエド・ウッドは偶然ドラキュラを演じた事で有名で自分の憧れである俳優ベラ・ルゴシに会う。
エド・ウッドはベラ・ルゴシと仲良くなるが、ベラ・ルゴシは過去のスターとしてハリウッドからは忘れられて仕事が無い現状を知り、彼の為にもベラ・ルゴシを出演させる映画を撮ろうとする。

この映画は何度か見たけれど、やっぱりおもしろい。
映画に対する情熱に溢れている非常に前向きなエド・ウッドが空回りするコメディでもあるし、登場人物並びに製作者達が映画に対する愛に溢れ、様々な哀しみと喜びに溢れた映画で、これまで見た映画の中でも五本の指に入る最高の映画の一つ。

ティム・バートンと言えば、20世紀に撮った映画は周囲からはみ出した者や多数に馴染めない人物等に対する愛が凄い映画が多く、それが非常におもしろい事になっていたのが、21世紀になってからは結構普通なヘンテコ風味の映画が多くなってしまった様に思うけれど、まだ自分の撮りたい映画を撮っていた初期の強烈な愛を見せるティム・バートン色が出た最高傑作がこの映画だと思う。
存命の時は全く評価されず、死後も史上最低の映画監督と言われて逆再評価されたというエド・ウッドをここまで優しい目で愛情を持って描き切り、ちゃんと映画として楽しく見れるという事が凄い。
若く希望溢れる青年の青春映画でもあるし、色んな人々を魅了する

終盤の出資者から事ある毎に介入されたり、それでストレスに耐えられなくなるエド・ウッドとか、その後に非常に上手い事偶然に出会ったオーソン・ウェルズに言われた事等々、これってティム・バートンの思いの丈をぶつけまくっているよね。ティム・バートンは本当はエド・ウッドになりたかったけれど、商業的成功の為にエド・ウッドにはなり切れなかったという憧れが全面に出ている気がするんだけれど。

非常に素晴らしい映画ではあるのだけれど大きな問題もあって、この映画を見るとこの映画で出て来た「グレンとグレンダ」「怪物の花嫁」「プラン9・フロム・アウタースペース」を実際に見たくてたまらなくなるんだけれど、実際に見てみるとこれがつまらないというよりも本当におもしろくも何とも無い駄作でしかない。
この映画を見ていて背景を知っていたり、この映画内で再現している本物を見る為や、本当の役者がどんな感じなのか等を見るには見る価値はあるものの、この映画無しで見るとただただ何も思わないという内容で、実際の映画を見てしまう事でこの映画でのエド・ウッドの虚像が崩れてしまうというのは良い事なのかどうか…。
確かにこの映画を見てしまうと誰もがエド・ウッドに憧れてしまうけれど、映画では最後の字幕でサラッと描いただけのその後のエド・ウッドの苦境の時代を考えると、初期エド・ウッドのままでは生きて行けないんだよね。そこでもただ楽しいだけではない、モヤモヤを晴らせない人生を考えてしまう映画でもある。

ティム・バートン色も強いけれど、やっぱり役者陣も非常に良い。
ジョニー・デップって、珍奇な格好の登場人物を演じた映画の方が有名だとは思うけれど、ジョニー・デップは普通の格好の役の時の方が断然良い。まあ、この映画でも時々普通の格好でもないし、少々演技が大袈裟ではあるものの、映画に対しては非常に情熱的なのに細かい事には気にせず、山師的なエド・ウッドはぴったり。

ジョニー・デップを喰ってしまっているのがマーティン・ランドー
演技が大味で、ハンガリー訛りのある英語で喋るベラ・ルゴシを演じており、圧倒的な存在感。これでアカデミー助演男優賞を受賞するのも分かる。
またマーティン・ランドーがこのベラ・ルゴシを演じるのも何か因縁めいた感じがするのは、この映画でのベラ・ルゴシはドラキュラで有名になった後の落ちぶれてしまった時で、マーティン・ランドーも1960年代にテレビドラマ「スパイ大作戦」のローラン・ハンド役で有名になり、1970年代にテレビドラマ「スペース1999」でも有名になり、それから大々的に有名になる様な役に巡り合わずに60歳も過ぎてベラ・ルゴシを演じてアカデミー助演男優賞を取るという事。役者はその時は評価されなかったり、歳を取ってから再評価されたりと役の巡り合わせで大きく人生が変わるのが、この映画でベラ・ルゴシを演じるマーティン・ランドーを見て強く思ってしまった。

このマーティン・ランドーの声を聞いていて、「誰かの声に似ている…?」思ったのだけれど、そう感じたのはマイケル・ジャクソンの「スリラー」の最後の語りの部分の声。
調べたらその語りの部分は、これまた1950年代からホラー映画に出ていたヴィンセント・プライスだったのだけれど、実はティム・バートンが製作・監督した2012年の方の映画「フランケンウィニー」の登場人物のジクルスキ先生の元ネタがヴィンセント・プライスらしく、そのジクルスキ先生の吹き替えをしているのがマーティン・ランドー。やっぱり、マーティン・ランドーの声ってヴィンセント・プライスと似ているよね…って、ティム・バートンも思った?!
あと、わたしはこの映画を見て、てっきりマーティン・ランドーってベラ・ルゴシの様にもうかつての人かと思っていたら、この映画から20年以上過ぎた今も存命だったとは知らなかった。それだけこのベラ・ルゴシの印象が強かったという事か。

主役とも言えるジョニー・デップとマーティン・ランドー以外の役者達も今見るとおもしろい。
エド・ウッドの初めの恋人ドロレス・フーラー役だった人はどっかで見た事ある様な気がしないでもないかも…?と思っていたら、この人ってテレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」のキャリー・ブラッドショーでお馴染みのサラ・ジェシカ・パーカーだったのか。
「セックス・アンド・ザ・シティ」は見た事無いけれど、宣伝等で顔長おばさんとして見た事はあって、それでもこの映画での金髪の若い感じだと全然気付かなかった。「セックス・アンド・ザ・シティ」の開始が1998年からなのでそんな昔の映画でもないのに。
実際のドロレス・フーラーもその後作曲家という道で花開いたけれど、サラ・ジェシカ・パーカーも映画からテレビドラマ行って成功したのも奇妙な因縁を感じてしまう。

最後の恋人キャシー・オハラ役の人って、テレビドラマ「CSI:サイバー」の主任エイヴリー・ライアン役のパトリシア・アークエットなのか!
この映画から20年後のドラマなので「CSI:サイバー」でのパトリシア・アークエットは流石におばちゃんだけれども、それにしても20年の歳月って…って思ってしまった。

インチキ霊能者アメージング・クリズウェル役のジェフリー・ジョーンズとか、ヴァンパイラ役のリサ・マリーとか、トー・ジョンソン役の本当にWWEのレスラーだったジョージ・スティールとか、エド・ウッドを信頼している二人のポール・マルココンラッド・ブルックスを演じる二人とか、一々周りの役者が濃いのも見ているだけでおもしろい。
そう言えば、ビル・マーレイバニー・ブレッキンリッジ役で出ていたけれど、このバニー・ブレッキンリッジという役自体は別にいらんかったとも思ったのだけれど…。しかし、ビル・マーレイはコメディアンしてたな。

あと、ティム・バートンはこの当時リサ・マリーと付き合っていたらしいけれど、やっぱりティム・バートンって自分が付き合っている彼女を自分の映画に出したがるよね。

それと、中盤に急に出て来て、何時の間にかいなくなったロレッタ・キング役のジュリエット・ランドーってマーティン・ランドーの娘なのか。しかも、テレビドラマ「バフィー 〜恋する十字架〜」に役者として出演した後に、そのコミックス版のライターもしているみたい。

この映画、ティム・バートンの趣味と方向性が物凄く出ているけれど、それが見事に映画内容とバッチリ合い、映画と映画を愛する人に対する愛の溢れる心地良い映画となり、そこに強烈な印象を残す役者陣の個性が合わさり、まあ見事に全てが上手く出来ている。
今や映画業界では数十年に渡ってヒット映画を出し続けるティム・バートンがエド・ウッドを撮っているのって、「♪ナンバーワンにならなくてもいい…」と同じ位皮肉でしかないような気もするけれど、それを気にしなければ前向きになりたい時に見れば最高に気持ち良くさせてくれるし、エド・ウッドとして生きられたら良いのに…と思える。

☆☆☆☆☆

« | »

Trackback URL

Leave a Reply