ハンコック

2016年08月06日 土曜日

ピーター・バーグ監督、ウィル・スミス製作・主演の2008年のアメリカ映画「ハンコック(Hancock)」。

怪力、飛行、無敵の傷付かない体等のスーパーパワーを持ったハンコックは、その力を活かし犯罪や事故を防いでいたが、アルコール中毒で町を破壊しまくり、その傍若無人な態度からも人々から忌み嫌われていた。
ある日、踏切で立ち往生してしまった自動車に乗ったレイ・エンブリーを助けたハンコックはレイ・エンブリーに感謝され、家に食事に招待される。レイ・エンブリーは宣伝マンで、自分に任せてもらえればハンコックの現状を改善し、人々から称賛されるヒーローにする事が出来ると言われ、ハンコックはレイ・エンブリーに従い更生の道を歩み始めたが…。

この映画は前半のハンコックがどうしようもない孤独さと、良い事したいのに結局は人から文句言われてやる気が出て来ないというヒーローとヴィランの狭間を行く存在から変化して行く話までは抜群におもしろかったのに、中盤以降の奥さんの話が主軸になると前半との雰囲気の変化と何のこっちゃ?な話になってしまい、物凄くつまらなくなってしまった。

人助けをしているのに人々からは嫌われる存在のスーパーヒーローって、これまで散々アメコミで描かれ、それこそ1980年代の「バットマン: ダークナイト・リターンズ」とか、X-MENなんか正に被差別者としてのスーパーヒーローだし、マーベル・コミックスのスーパーヒーローって、人助けしても皆から石を投げられる様な偏見があるので、この題材自体は別に目新しいモノではないのだけれど、おもしろいのはハンコックの態度。
人々に批判されてもはっきりと強い意志を持って自分が信じる正義を貫こうとする様なバットマン的精神の強さがある訳でもなく、酒に溺れ、町を破壊しても何とも思っていないという、ヒーローでもあり、ヴィランでもある中間の存在として描かれており、ずっと一人で生きて来た所に親切にしてもらい、自分を変えてくれるかもしれないという希望を持たせてくれたレイを信じてヒーローとして変わって行く展開は、ヒーローモノとしても、社会からはじき出され腐ってしまった人間の自己啓発モノとしてもおもしろかった。

ただ、それ以降のレイの奥さんとハンコックの話になって行くと、それまでのヒーローとしての変身振りとは関係の無いハンコックの中途半端な出自の話になり、前半の展開からは別に必要の無い話になってしまう。
わたしは勝手に思っていたのは、ヒーローらしくなったハンコックが調子に乗り始め、レイと揉め出し、喧嘩して別れる事になり、しかしレイ一家が窮地に陥り、そこにハンコックが現れ、遂に本当のヒーローとして成長出来る…という様な熱いヒーローとしての成長譚の王道展開になるんじゃないか…?という予想よりも、そこに言って欲しいという希望。だって、レイが進めていた世界を変えようとしている企画や、レイの奥さんが死んで一人で息子を育てていたとか、孤独なハンコックと温かいレイの家庭との対比とかの様々な事が描かれて、それが振りになっていると思ったから、最終的にはレイ一家とハンコックが壁の穴を塞いだ家でミートボール・スパゲッティ食べている所で終りかと思うじゃない。
しかし、それは後半の展開の振りは振りだったけれど、全然違う、しかもそれらが関わっているのか?関わっていないのか?の微妙な感じでしか活かしていないので、やっぱり後半の展開が微妙…。

レイの奥さんとハンコックの話にしたって、奥さんが出て行ってからのレイの気持ちの描写が無く、ハンコックに対してどう思っているのか?とか、ハンコックはレイに対してどう思っているのか?とか、行き成り最終的にレイと奥さんは仲睦まじくなってはいるけれど、そこに至るお互いの気持ちは一切描かれず、ハンコックの気持ちさえも描かれないままという酷い投げっ放し、省きっ放しで、ハンコックのヒーロー成長譚に無理矢理奥さんの話をねじ込んだ様な展開にしか思えなかったんだよなぁ。
このハンコックの出自話って、完全に二作目でやればいい事で、一作目と二作目を無理矢理繋ぎ合せた様な展開にしか思えなかったんだけれど。

この映画で一番おもしろかったのは、どんなに凄い力を持っていても大勢の人間が暮らす社会で生きて行くには、ちゃんとした指導者がいないと駄目だという所なんだけれど、そのハンコックを導くのがPRマンという所。
商品の売買だけでなく、芸能人や政治家等の表に出る人には「~コンサルタント」的な、要は如何に良く見えるかを指導する専門家が付いている事が浸透しているアメリカ的な設定に興味が行った。
師匠と弟子や先生と生徒ではない関係性がおもしろかっただけに、ここをもっと掘り下げて、ハンコックが調子乗って大手コンサルティング企業と契約して、レイを切った為に変な方向に行き出して…とか、あれだけスーパーヒーローによる被害を描いていたのだから、今度はそれを保障する為にハンコックというキャラクターを売り出してとか、レイが宣伝屋だったのだから、その設定をもっと活かしてスーパーヒーローと経済を描けば良かったのにと思う。
レイの世界平和の企画も結局何だったの?この映画で必要だったの?な、放り込んでおくだけ放り込んでおいた感しかないし。

この映画、前半は何処にも居場所の無い、体はスーパーヒーローだけれど心は普通の人間という、何十年もアメコミのヒーローモノでやって来た事を深化させつつコメディでまとめて非常に快活で楽しく見ていたのに、中盤以降の三角関係で揉めそうなのに揉めているのかも分からない微妙過ぎる人間関係と何のこっちゃで盛り上がりもしないスーパーヒーロー話に変わってしまい、前半のままで最後まで突っ走る事が出来れば相当良い映画だったのになぁ…と、ただただ勿体無い感ばかり。

☆☆☆★★

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