日本侠客伝

2016年07月11日 月曜日

マキノ雅弘監督、高倉健主演の1964年の映画「日本侠客伝」。

材木の運送会社の木場政組は沖山商会から攻勢をかけられて窮地の中、親分が死去。更に窮地に陥った所へ、小頭の辰巳の長吉が軍隊から戻って来て再び小頭を勤める事になった。

わたしは日本の映画で昔から良くある、お涙頂戴や義理人情をガンガンに押し出すのが嫌い。まだ、サラッと描いて行く中で、肝となる部分で義理人情で動く登場人物なら物凄くグッと来るのに、この映画は初めから脅しをかけながら義理人情で全部の話を押し通そうとするので全く共感も感動も無く、ずっとつまらないチンピラのわがままな小競り合いを見せられてもしょうもない。

話は要は運送会社の企業戦争なんだけれど、これが全然ピンと来ない。
敵方が引き抜きや運賃の値下げ等の攻勢をかけて来た事に対して、「法律じゃない。昔から俺の縄張りだ。筋道を通せ!」と完全に自分達が如何に気持ち良いだけの、自分達だけに都合の良い理論を振りかざして正義面のドヤ顔するヤクザが主役なので、序盤から「はいはい。ご勝手に…」と興味が無い。
沖山側の会社経営は物凄く普通な事言っているのに対し、完全に沖山側が悪として扱われている理論がいまいちピンと来ず、木場政組は敵の攻勢に対して企業努力もせずにマゴマゴしているだけで何か対抗手段を打ち出す訳でもなく、話としての主役側の面白味は無いので全然話に入って行けず。
中盤になってやっと沖山側が無理な要求を出し始め、人殺しまでする無法集団という描写が出て来るけれど、悪者としての描写がやっとの遅さで構成としては下手だろ。
それに主人公側は材木の運送会社なのに、前半その描写が全然無く、ずっと文句言っているだけで「この人達何してるの?」とはてな。
中盤と言うか終盤になってやっと物語が動き出すけれど、それも結構唐突に殺し殺されの展開で、劇的ではあるんだろうけれど話としては乗り込めないし、連続ドラマの総集編感を感じてしまう。
それにどっちもどっちも頭は悪くて、敵にやられたから一人で乗り込んで行って銃を乱射して殺しまくって殺されるとか、木材運びの場面で沖山側が集団で挑発する場面なんて、今でもチンピラモノでよく見る頭の悪い抗争場面なんて反吐付きそう。
最終盤になり、突如皆で殺し合いになり、刺されると「♪ジャ~ン!!」と音楽で盛り上げなんて最早コメディ。

それに構成として不思議なのは、まだ木場政組のそれぞれを描くのは分かるけれど、主演で主人公であるはずの高倉健の話の分量がやたらと少ない事。結局高倉健は何でそこまでするのか?周りの人間はどうしてそこまで高倉健を信奉しているのか?とかが描かれず、周りの人間の話の方が多く描かれるので何だかよく分からない主人公のままで、高倉健の存在感はあるのに役としての存在感や主人公感は無いままで終わってしまう。
やっぱり、脚本の構成の問題なんだろうなぁ…。

俳優陣は今見ると豪華だけれど、今見ると演技が下手。
松方弘樹はこの当時まだ22歳で、如何にも若者らしいわざとらしい演技。だけれど、22歳にしては老けてる。
津川雅彦もまだ24歳で若。
長門裕之はコメディリリーフで役得もあるけれど、この適当な軽さが非常に良い。

この映画、敵方はあくどいけれど言っている事は結構正論で、主人公側がわがままな俺様理論が多くて、序盤から全然主人公側に付いて行けないままで、特に終盤の馬鹿同士の殺し合いなんて、そこにカタルシスも無いままで、本当に「はいはい…」で終わってしまった。
まだ、無垢の普通の人が酷い目に遭って酷い目に遭っての爆発なら分かるけれど、始めから義理人情だけに頼るばかりで自分達で何とか企業努力もせず、問題解決なら暴力当たり前でどうしようもなくなったらカチコミかけて殺しも有りと思っているヤクザが問題を皆殺しで解決しました…で、どうしろと言うんだろうか?

☆★★★★

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