ザ・インタープリター

2015年12月10日 木曜日

シドニー・ポラック製作総指揮・監督、ニコール・キッドマンショーン・ペン共演の2005年のアメリカ・イギリス・フランス共作映画「ザ・インタープリター(The Interpreter)」。

国連本部で通訳をしているシルヴィア・ブルームは忘れた荷物を取りに行き、通訳用のイヤホンから聞こえる話し声を偶然聞いてしまう。内容の意味は分からなかったが、翌日のアメリカとアフリカのマトボ共和国の大使の会合の通訳をした事によって昨夜の会話がマトボ共和国大統領ズワーニの暗殺計画だと知る。
この事を直ぐに報告するとシークレット・サービスのトビン・ケラーがやって来、シルヴィア・ブルームは自分を保護してくれるのかと思っていたがトビン・ケラーはシルヴィア・ブルームを怪しみ始めていた。

粗筋を適当に読んだ感じでは、ニコール・キッドマンが偶然巻き込まれた大きな陰謀に追い駆け回され、それを助けるショーン・ペンというよくある種類のサスペンスかと思っていたら、これが違う展開で、登場人物達の立場の設定のおもしろさで集中力を切らさずに見れた。
確かにニコール・キッドマンの巻き込まれ型サスペンスではあるけれど、ニコール・キッドマンは善意の通報者かと思ったら、実は彼女はマトボ共和国出身で反政府関係者と関係があった等の隠してた身の上の情報が分かり始め、彼女は本当に外交や国連を信じて暗殺計画を通報したのか?それとも彼女の嘘なのか?もしくは関わっている、それに近い怪しい人物なのか?という、非常に不安定な立場。この大統領暗殺計画の真偽と犯人を見極めるというサスペンスの謎の軸の部分だけでなく、ニコール・キッドマンの憎しみではなく赦しで生きて行こうとしているのが後半になると一気に変わってしまうという展開で、暴力の世界でどう生きるべきかを大統領暗殺計画と絡めて描き、ショーン・ペンの赦しの方まで関わって来る軸ともなっている。
そのニコール・キッドマンを怪しむショーン・ペンも、失意の中でニコール・キッドマンと関わり合う内に考えが変わり、最後は二人の考えが真反対になるという展開にもなり、全体的な構造と展開は中々おもしろい。
この捜査官としてのショーン・ペンが演じる側も、各アメリカ政府機関と協力し、徐々に情報を集めて何が起こるのかを辿って行くサスペンス部分は緊迫感があっておもしろいし、ショーン・ペンが守らなければならない、暗殺計画を阻止しなくてはならないズワーニ大統領は、対テロリストという名目で対立する勢力を普通の人々まで虐殺していると言われている様な人物というジレンマがあり、それもニコール・キッドマンの生い立ちからズワーニ大統領は憎むべき人物であるにも関わらず、暗殺計画を通報しているというジレンマや、そこからの結末と設定を上手く活かして絡み合い、この構造と展開も良く出来ている。

ただ、終始じっくりと描き、重厚な感じもあるにも関わらず、展開を優先してしまう部分もあり、結構突っ込み所も多い。
事件の切っ掛けとなるニコール・キッドマンが聞いてしまう会話だれど、その犯人が分かった後だと何でわざわざ国連の本部でそんな危ない話をする必要があったのかがさっぱり分からない。それにその時国連は何でか全員の退去命令が出ていて誰も中にはいないはずなのに、何故彼らはいれたのかが分からないし、通訳のイヤホンから聞こえたという事はわざわざマイクに向かって、もしくはマイクに近い場所で暗殺計画を話していたという行動も意味が分からないし、会場には誰もいないようだったのに通訳室にいたニコール・キッドマンが見えたと言う事はどっかから見ていたという事なんだろうけれど、そんな描写が一切無いのでこの場面は変な事ばかり。
それに、ニコール・キッドマンが怪しいとする方向性を出すなら、はっきりとヒソヒソ声を聞いたという描写をしてしまうとニコール・キッドマンが本当の事を言っているとしかならないので、謎や怪しさを潰している様な気がする。その会話を聞いた場面を描かずに、「聞いた!」と主張するだけの方がニコール・キッドマンが怪しいのでは…?と導けるんじゃないのかしらん?
そして、この映画での一番の見せ場である、各人物達がバラバラに行動しているかと思ったら同じバスに乗り合わせる所は確かに緊迫して非常におもしろかったのだけれど、良く考えたら敵対勢力の人物がどちらも死んでしまったら残った方が速攻で怪しまれるんじゃないの?と思うのだけれど、誰も怪しまないのも変。

あと、ショーン・ペンの心の変化もいまいち分かり難い。変に恋愛要素を少し入れたので、ニコール・キッドマンの人生と考え方によってショーン・ペンが変化して行ったのか、女性として気にかけたから最終的にああいう対応を取ったのかが、そのショーン・ペンの変化の描きが少ないので曖昧になって、いまいち付いて行けない部分もある。

何より一番いかんと思ったのはニコール・キッドマンを配役した事。
確かにニコール・キッドマンは綺麗だし、存在感はあるし、演技もきっちりしているけれど、パッと見、身長も高くてモデル体型で、金髪で顔が整った鋭い美人なので逆に綺麗過ぎてマトボ出身の国連の通訳という役柄にはまあ見えない。普通の人っぽさは出してはいるけれど、ずば抜けた美人なので役柄的なこれまでの人生が物凄く作られた感が出て来てしまう。
ニコール・キッドマンとショーン・ペンが並ぶとニコール・キッドマンの方が背が高くて、ショーン・ペンはがっしりした肉体派でもないのでニコール・キッドマンの強そうに思えてしまう。
一番最後の場面も、何故かショーン・ペンは手すりに腰かけたままでニコール・キッドマンと話し続けるのも、ショーン・ペンの方が背が低いので気を使ったのだろうか?
ニコール・キッドマンの美しさや身長の高さを必要とせず、それを活かさない様な役柄って、どうも配役が合っていない様に感じられてしまう。

この映画、事件の切っ掛けや一番の見せ場は後々考えると物凄く粗い気がしてしまうけれど、見ている間はサスペンスとして常に見入り、各人物の置かれた関連性で引っ張る力はあり、結構意外な方向へ転んで行く展開で、サスペンス映画としてはそこそこおもしろい。

☆☆☆★★

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