死亡遊戯

2015年11月17日 火曜日

ロバート・クローズ監督、ブルース・リー主演ではあるけれどほとんどの場面でスタントマンがブルース・リーを演じている1978年の映画「死亡遊戯(Game of Death)」。

映画スターのビリー・ローは映画や音楽等の様々な興行を仕切るドクター・ランドの組織から自分達の配下に入る事を強要されたが断り、命を狙われる事となる。撮影中に組織の部下によって暗殺されかけ、表向きは死亡した事にして秘密裏にドクター・ランドを追い始めた。

この映画、撮影途中でブルース・リーが急逝した為に撮影済みの場面を何とか活かして強引に作ってしまった…とは知らずに見たので始めから混乱しっ放しだった。
オープニング・クレジットでチャック・ノリスが現れ、しかもブルース・リーと戦っている背景を見たら何だか見た事ある様な気がしてき、「あっ、これ、映画『ドラゴンへの道』の最後のコロッセオでの格闘場面じゃん!?えっ?これ『ドラゴンへの道』なの?」と早くも首を傾げてしまった。
映画はそのままブルース・リーとチャック・ノリスの対決を見せるのだけれど、それが実は映画の撮影現場だったというメタ・フィクションな始まりで更に混乱。「えっ?ブルース・リーがブルース・リーとして演じる、『その男ヴァン・ダム』的なセルフパロディ的映画なの?」と思っていたら、ブルース・リーではないスタントマンとおぼしき男性が「ビリー!」と呼ばれたので、「ああ、ブルース・リーの代役を演じる役者から話が始まるのか…」と分かったつもりだったのに、何故かビリーの場面なのに急にブルース・リー本人の全然別場面の別カットが挟み込まれたり、鏡に映ったビリーの顔にあからさま安っぽい合成で写真のブルース・リーの顔を張り付けていたりして、もう意味不明の連続で「??」。
その混乱で、「あ、これ、ブルース・リーの急死を受けて別人がブルース・リーを演じて作られた映画なのか…」と理解したけれど、何も知らないままで見ると、その序盤の強引さでぶっ飛んだ、無茶苦茶な作りに頭をグチャグチャにされてしまう。

それを分かった上でも、この映画は余りに酷い出来。
まず、ブルース・リーの代役が全然似てもいない。始まりで全然ブルース・リーに似ていない人が「ビリー!」と呼ばれるのだから、そりゃあスタントマンの話だと思うて。
そのブルース・リーではないビリー・ローは終始サングラスを付けていて不自然極まりないし、サングラスを付けていても全然ブルース・リーには見えない。ブルース・リーには見えないので、なるべく正面からの顔を映さない様にしていたり、アクション場面でも決めのカットが後ろ向きとか不自然さしかないし、代役のアクションの切れの無さも目に余る。流石にブルース・リー並みの切れがある人はいないかもしれないけれど、もう少し似ている人を探し出せよ。中盤の空手家らしきカール・ミラーと戦った代役の人の横顔は結構似ていたのに。
そして、終盤の30分程で本物のブルース・リーが登場して塔を登って行って戦うけれど、それまでが別人がブルース・リーを演じているので、もう本物のブルース・リーが出て来ても本当に取って付けだけの接合の悪さしかない。

話も、この最後の本物のブルース・リーが戦う場面の撮影されてフィルムがある部分を使う為に、何とか話を作り出しているので前後の構成や編集がバラバラでチグハグしてしまっている。
脅迫から死を偽装してまで逃れ、逃れきれないので敵を皆殺しにしようとする展開は、それだけならそれなりに見れる話なのに、敵の親分がいる香港の街中の飲食店のビルは一階は普通の食事処で上階の親分の部屋はオフィスっぽいのに、二階へ上ったら突然木組みの寺や楼閣みたいな部屋になっていて繋がりもへったくれもなく、やっぱり違和感しかない。撮影した場面と繋げる為に何とか新たに話を作り、それも後から幾らでもどうでも出来るはずなのに、そのブルース・リー本人の場面と前までの場面が全く繋がりもしていないなんて、手抜きなのか、余りに酷い脚本と構成で物凄い脱力感が襲った。

それでも凄いと感じたのは、実際にブルース・リーが死んでしまったという事実があり、この映画がその後に何とか作られた映画なのに、映画内で有名人気アクションスターのビリー・ローも死んでしまい、死を偽装するなんて事をやってしまった事。現実のブルース・リーの死を虚構の展開の一盛り上がりの為に使ってしまう感覚って悪趣味な感じがするのに、そこは誰も別に何も言わなかったのだろうか?

ブルース・リー本人の残された場面ではブルース・リーと言えばの印象が強い黄色い繋ぎの衣装で登場するのだけれど、そこまでに敵のバイク軍団の中にこの衣装を着た敵がいて、結構登場するので変な感じ。
当然代役の人がこの黄色い繋ぎに着替えるのだけれど、敵がその服着ているのだから敵に紛れる為に着替えるのかと思いきや、着替えた後に速攻で敵を攻撃してしまうので着替えた意味が全く無い。見ていると、雨に打たれて服が濡れたから着替えた様にしか思えない。

どうにも仕様が無い前段階が終わって、いよいよ残されたブルース・リー本人の場面も、多分この元のままの映画になっていたらおもしろかったに違いないとは思うけれど、それまで特に登場も因縁も無い格闘家達と戦った所で盛り上がりには欠けるし、唐突な格闘場面の連続で雰囲気が全然別物で戸惑いしかないし、まだ撮影が完全ではなかったのかもしれないけれど編集が荒い部分があって繋がりが悪かったり、途中が抜けている感じもするし、未完成としか言い様がない。
それでもブルース・リーの動きは非常にキレッキレ。
中盤で空手家らしきカール・ミラーとその試合相手を演じるサモ・ハン・キンポーが出て来るけれど、サモ・ハン・キンポーも動きが良い。ただ、この場面、空手のチャンピオンのカール・ミラーの動きはボクシングっぽいし、サモ・ハン・キンポーは中国拳法っぽいしで変な感じ。しかもこの場面、五分位あって、何故か長い。

この映画、残された撮影済み部分へ如何に繋げて行くかというはっきりとした目的があるのに、その場面への繋がりは悪く唐突。終始ブルース・リーにそっくりではない代役が演じ、代役としか見えない完全にブルース・リーとは違う人物という時点でヘンテコではあるけれど、その似ていない代役を更にはっきりとは見せない様な変な構図の連続にしてしまっており、何を見せたいのか分からない変な映画にしかなっておらず、全く持って出来の悪いブルース・リー偽物映画にしかなっていない。ブルース・リー好きが作ったファン・フィルム見ているみたいだった。
ブルース・リー本人の場面を見ている限りは、本来の五重塔を登って行きながら全く違う術を使う格闘家達と戦うなんて非常におもしろそうな映画になるはずだったのがこんな珍作になってしまうのは非常に勿体無いとしか思わなかった。

☆★★★★

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