96時間

2015年07月26日 日曜日

ピエール・モレル監督、リュック・ベッソン製作・脚本、リーアム・ニーソン主演の2008年のフランス映画「96時間(Taken)」。

元CIA工作員のブライアン・ミルズは隠退生活を送っていたが、それは離婚したので新たな父親の下で暮らしている娘キムに会いたいが為だった。娘のキムは父親を慕っていたが、友達とのヨーロッパ旅行を計画しており、それには父親の許可が必要で、ブライアンは娘の身が心配ながらも渋々許可を出した。
キムがフランスに着いたはずだが電話が無く心配でたまらないブライアンは電話をかけると、突然男達が押し入って来て娘達を拉致した事を知る。ブライアンは娘を取り戻す為にフランスへと乗り込んで行った。

確か、予告であの電話をしながらの誘拐場面を見て「おもしろそう!」と思い、リーアム・ニーソンのアクション映画という一風変わった映画で期待していた中、これがフランス映画と知り「まさか、彼が関わるとろくな事にならないでお馴染みリュック・ベッソン関わっていないよね…。」と心配になった所へ、オープニング・クレジットに「Written by Luc Besson」と表示されて、「うわ~…。外れか…。」と項垂れてしまった分、期待を上げずに見れた事もあってか、非常におもしろい映画だった。

スティーブン・セガール並みに無敵のリーアム・ニーソンのアクション映画ではあるけれど、序盤の娘が好きだけれど中々会えないもどかしさと哀愁のある離婚した中年の父親の悲哀を描いたコメディ的な導入から、娘が誘拐されると分かった時の適格過ぎる対応や、高い情報分析と収集能力を発揮して娘を探し周るサスペンスへ止めどなく突っ走る流れや演出に捕まれっぱなし。中盤までの疾走感には目を離してはいられない。
特に、娘が誘拐される時に全てを録音しながら娘に「お前は捕まる。」とはっきりと言い放ち、だからどう行動すべきかの指示を出す場面の演出や編集が抜群に上手い。携帯電話からの音だけで遠方で何も出来ない父親の恐怖の嫌ーな感じと言い、物語が一気に変化する導入としても素晴らしい出来。
その後の、全く宛ての無い相手を追い駆ける情報収集術と無敵の強さのアクションもキビキビしていて小気味良く次々と見せつけるし、96時間しかないと焦る気持ちもあるしで、まるでドラマの「24」的な展開。奥さんの再婚相手が「24」のジョージ・メイソン支部長役だったザンダー・バークレーだし、娘に繋がる手掛かりを見つけたと思ったら、その相手が偶然死んでしまい手掛かりが一切無くなってしまうという「24」お馴染みの展開とも何だか似ているし。

始めの上手く行かない父親から一気呵成のアクション映画へという流れは非常に良く、爽快感はあるものの、やっぱりリュック・ベッソンが脚本書いているからか、時々「ん?」と思う事も結構ある。
序盤の娘を思う父親を見せ、その後の恐るべき執念を持って敵を追い駆ける姿は納得の展開ではあるのだけれど、後半になるとリーアム・ニーソンが娘がさらわれたという自分の境遇があるにしろ、無実の女性を撃って相手に自分の言う事を聞かせようとしたり、「自分にも子供がいる」という相手に共感を一切見せず殺してしまったり、拷問やとにかく殺しまくってしまうというヤバい人になってしまい、「自分の娘が助かれば他人なんかどうでも良い!」という自分勝手過ぎで、非情さや残酷さをやたらと見せる様になるので、見ていても徐々に引き始める。これが最後に娘からも怖がられてしまい、結局ヤバいリーアム・ニーソンは独りぼっちに…という伏線になっているならまだ分かるにしても、最後まで父親と娘は仲良しのままで、この主人公の残虐性を見せた意味って何なのだろう?
それに、リーアム・ニーソンが誘拐現場にやって来て犯人の物と思しき頭髪を発見して採取するけれど、この毛をどうしたのか?とかはその後一切出て来ず、何にも発展しないという不思議な場面がある。本来はその後この毛を使って犯人に近付く場面があったのに単に編集で落としただけなかもしれないけれど、だったら何でこの場面は切らなかったのかと疑問だし、脚本の時点から何にも発展しないのだったら何で入れたのかも分からない場面だし。
あと、何故か邦題にもなっている96時間の期限だけれど、これって元々「助けないと娘が危ない期限は96時間以内だと思う」というあくまで勝手な予想の上、終盤になるとこの96時間の期限だった事すら関係無く展開して行くので、この時間設定もあんまり上手く行っていない。
空港で娘達を送った手下を見つけて追い駆けるけれど、もう一人襲って来た敵は何故か一切追わず仕舞いとか、終盤に娘を乗せた自動車が何処に行くか分からないのに、50代のリーアム・ニーソンが走って自動車を追い駆けるとか、所々爪が甘い部分も結構ある。
それまでアクション映画のお約束に余り乗っ取らない様な展開だったのが、終盤では敵の巣窟に一人で乗り込み、今までどんなに攻撃受けても傷一つ負わなかった主人公が急に傷付き、「相手は今までの敵よりも強いんです!危機なんです!ここが最後の戦いなんです!」という昔からのハリウッドのアクション映画的な最終盤の盛り上げにしたりするので、最終盤の方がいまいち感が強くなっているし。

そんな結構緩い部分も多いこの映画をそれ程気にさせず集中力を持って見させているのは、やっぱりリーアム・ニーソンの力。序盤の父親の娘に対する想いと切なさを十分見せるリーアム・ニーソンのしょぼくれた感じが際立つ分、それ以降の狂気に満ちていはいるけれど常に冷静に行動する熟練元工作員もすんなりと入って来るし、父親の想いも切実に出ている。ただ、切なさを帯びた父親という部分はいいんだけれど、リーアム・ニーソンが凄腕の工作員で拷問も殺しも一切気にしないというのはいまいち合っていない様な気もする。情報工作員や外交官等だと納得もするのに、現場で戦う無敵の男ってリーアム・ニーソンだといまいち説得力がないし、何で50代後半のおっさんと10歳以上年の離れていそうなファムケ・ヤンセンが結婚したのか?とか、何でファムケ・ヤンセンは大金持ちのおっさんと再婚出来たのか?とかも考えてしまうし。
そもそもリーアム・ニーソンって、地味目の映画で渋く演じる様な役者の印象があったのに、50歳前後から「スター・ウォーズ」のクワイ=ガン・ジンとか、「バットマン ビギンズ」のラーズ・アル・グールとか娯楽作やアクション映画をやたらやる様になった印象があって、ちょっと変わっている。アクション俳優がそこから抜け出そうとして、アクションの無い映画をやりたがるのと反対の方向だし。でも、この映画ではアクションもちゃんとこなしているし、物凄く器用な俳優でそこの役の選び方でもおもしろい俳優。

この映画、流石にリュック・ベッソンが製作と脚本に関わっているだけあって、後から思い起こすと「ん?」と思う事はあるけれど、それを上回る監督の一気に見せるだけの構成と演出で、アクションサスペンスとして中々おもしろかった。流石に続編が作られるのも納得の出来だけれど、「96時間/リベンジ」「96時間/レクイエム」と三作目まであり、同じ様に娘が誘拐される展開だと二回目でもコメディになる危険があるし、全然違う展開だと続編の意味があるのか?と疑問があるけれど、ただ、この一作目のおもしろさなら続編も見てはみたい。

☆☆☆☆★
 
 
関連:96時間/リベンジ

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