弁天小僧
2014年12月19日 金曜日伊藤大輔監督、市川雷蔵主演の1958年の時代劇「弁天小僧」。
お輿入れが決まったお半だったが、とある隠居に目を付けられ監禁されてしまった。その彼女を助けたのが、揺すりや脅しを行なうヤクザ者の弁天小僧菊之助だった。菊之助一味は次なる揺すりの為に呉服屋の浜松屋を騙そうとするが、浜松屋が菊之助一味と因縁のある老中筆頭の甥一味に脅されて娘を嫁に取られ、浜松屋の身代を取られそうになっていた事を知る。
「弁天小僧」という題名だし、始まりのスパイ大作戦的な騙してかっさらう一幕を見て、鼠小僧的な怪盗モノかと思ったら、お涙頂戴のメロドラマ。「弁天小僧」は歌舞伎の白浪五人男こと青砥稿花紅彩画に登場する弁天小僧菊之助を題材としたからなのか。だから、途中に急に歌舞伎の舞台芝居になる演出もあるのかと納得。
構成としては、脅しや揺すりを働くヤクザ者の弁天小僧菊之助の活躍を描くのだけど、前半と後半で趣が違う。前半は助けたお半との恋愛話が中心で、非常にベタベタなメロドラマ。「菊様~!」「俺に惚れちゃあ、いけねえぜ。」という、ちょっと笑ってしまう位の恋愛話。
そこも引き継ぎつつ後半からは、菊之助の出生とお涙頂戴の物語に変わって行く。雰囲気が全然違うけれど、浜松屋の脅しの算段の場面になると急に歌舞伎の舞台になり、その突然の転換と、その後の算段とは違う方向へ展開して行く話に没入して行き、第二部的な感じで余り気にせず見て行ける。その算段を長く見せた分、意外な方向へ持って行く話に引き込まれ「どうなるの?」でおもしろいのだけれど、ハッキリとした勧善懲悪に行かずにモヤッとしたまま武士達が退場して行く事や、偶然出会った遠山の金さんが何故か祝言の場に居合わせ上手い事問題が解決したり、お半が浜松屋にいたり、浜松屋と菊之助との関係性等、上手く収束させたと言えば聞こえは良いけれど、まとめる為の都合の良い関係性と展開はちょっと萎えた。
今回市川雷蔵演じる弁天小僧菊之助は、一風変わった役で良い。完全なヤクザ者なんだけれど人の良い部分もあり、義賊でもあるんだけれど、初っ端で強姦を狙って女性を殴ったりして未遂に終わる所から始まり、単なる良い人ではない所を見せている。悪人なんだけれど悪人に見えないのは、やっぱり市川雷蔵の演技。菊之助の最後もこの設定なら楽しい終わりに出来るけれど、哀しさしかないのはやっぱり歌舞伎や浪曲の世界。
それとセットは見事。今だと豪華な街並みやセットになるんだろうけれど、この時代なら普通なんだろうなぁ。町並みや、画面の端々に現れる人々の生活を見ているだけで非常に楽しい。
この映画、気の良い江戸っ子ではあるけれど、哀しい人物もある菊之助を市川雷蔵の存在と演技で見せていて良い映画。出来過ぎな収束はあるけれど、「成程、そう行くのか…。」と思える展開も良いし、今見ると誇張して非常に芝居染みた恋愛とお涙頂戴もおもしろい。
☆☆☆★★