パニック・イン・ロンドン 人類SOS!襲いかかる肉食植物

2014年09月17日 水曜日

2009年にBBCが制作したTVドラマ「パニック・イン・ロンドン 人類SOS!襲いかかる肉食植物(The Day of the Triffids)」。90分の前後編という特別編のドラマ。
ジョン・ウィンダムのSF小説「トリフィドの日(もしくは『トリフィド時代』)(he Day of the Triffids)」を原作としている。
2012年に「ラストデイズ・オブ・ザ・ワールド」としてDVD化されている。

石油の代替の油として採取出来る、自立し、歩行する植物トリフィドを世界中で栽培してしていた。しかし、トリフィドは毒のある枝で人を襲い、トリフィド研究者のビル・メイスンも目に怪我を負った。ビル・メイスンが入院していた日、世界中で大規模な太陽の放射現象が起こり、それを見た人は全員が失明してしまった。一瞬にして崩壊した世界の中で、大量のトリフィド達が町を闊歩し始め人襲い、目が見える人々は何とか生き残ろうと模索し始めたり、目の見えない人々をどうにかして助けようとしたり、欲望に従って生き様とする人等様々な想いが駆け巡り行動する。

SF小説が原作としてある映画は、まずSF小説の方を読んでから見ようと思っていて、これもまず「トリフィドの日」を読んでから見た。「トリフィドの日」の方は別記事で。

基本的な流れや登場人物は小説を下書きにして、現代的に、現実的に更新している。しかも、普通は小説の方が人物の感情をよく表現していたり、映像以上に世界を描いている事が多いのに、ジョン・ウィンダムの「トリフィドの日」は人物の表現や見える物の描写が不味過ぎて違和感や物足りなさばかりだけれど、このドラマはちゃんと人物の心情の移り変わりや、映像的に世界の崩壊を描いていて、小説よりも全然こっちのドラマの方が良く出来ている。
小説ではビル・メイスンを主役にして、彼の行動と考えを中心に描いているけれど、小説のビル・メイスンは失明した人々に対してやたらと共感性や情が無い、物凄く割り切った冷たい人間なので読んでいても行動に違和感しかないが、ドラマでは現状を憂い、どうにかしようとする主人公らしい主人公だし、複数の人物を中心に展開させるので、それぞれの考え方や思っている事の違いが出て来て、分かり易くもキッチリと見せる構成になっている。

トリフィドの扱いも、小説では登場も少なく全然効果的に使われていなかったけれど、ドラマでは早い段階から脅威として大量に登場し、トリフィドの日の認識も早い。小説ではトリフィドが町には全然入って来ず、人々の方は結構呑気に街で生活している様子が描かれているし。
しかし、元々トリフィドの存在が微妙だという事もあるけれど、やっぱりトリフィドを映像化すると安っぽい感じはする。小説では三本足で歩く巨大なウツボカズラなので、もう想像すると笑ってしまうけれど、このドラマのトリフィドもやたらと移動速度が速く、ほぼ動物的な行動なのは覚めてしまう。トリフィドの存在意義や比喩は分かるけれど、映像化するとやっぱり滑稽。そう思うと、世界の崩壊と問答無用の迫り来る恐怖だとゾンビは上手い事出来ている。ジョージ・A・ロメロの発明は凄い。

登場人物は大体小説と同じだけれど、トレンスが大きく違う。小説ではちょっと出て来る悪役だったけれど、このドラマでは自己的で何事にも動じない人物として、ドラマの登場人物の中でも非常に独特な雰囲気と濃さを持っているので、彼がいるといないでは全然違う程存在感がある。
小説では主人公は30歳前後、ヒロインであるジョーは20代半ばの良い所のお嬢さんという、如何にもなパルプ雑誌的な設定だったけれど、このドラマでは皆中年という所が良い。下手に若者を主人公にしてギャーギャー騒いだりせず、落ち着いて現状を判断して行動する様な人物にしているのは、やっぱりBBCだからなのかしら?

小説とドラマの違いでおもしろかったのは、小説の方は1951年の作品なので、世界に対するロシアの影響は強く、トリフィドも失明の原因もロシアが関係している臭いを漂わせているけれど、このドラマでは人間の生活環境の破壊や遺伝子操作等現代的な問題提議をしている事。

主人公ビル・メイスン役はダグレイ・スコット。わたしの中ではウルヴァリンになれなかった俳優。おもしろいのが、ビル・メイスンの父親役には映画「X-MEN2」でウルヴァリンを作り上げたウィリアム・ストライカー役だったブライアン・コックス。これって狙ってるのか?
当然だけれど他のジョエリー・リチャードソンエディ・イザード等も皆イングランドの俳優。他の国の人はジェイソン・プリーストリー位か。

多分、DVD版の「ラストデイズ・オブ・ザ・ワールド」を出しているのがあのアルバトロスなので、この「パニック・イン・ロンドン 人類SOS!襲いかかる肉食植物」もアルバトロスが付けたんじゃないかと思うのだけれど、「ラストデイズ・オブ・ザ・ワールド」という当たり障りの無い無味乾燥な題名にしろ、「パニック・イン・ロンドン 人類SOS!襲いかかる肉食植物」という安っぽいバラエティ番組かのような題名にしろ、何でこんなしょうも無い題名を付けるのだろうか?普通に「ザ・デイ・オブ・ザ・トリフィド」でいいじゃん。「ジョン・ウィンダムの古典SF小説をBBCが映像化!」でいいじゃん。「ラストデイズ・オブ・ザ・ワールド」の方が売れるだろ!という判断は凄いな…。

「トリフィドの日」の映像化としても、ドラマの一作品としても非常に良い。上手く流れる様に一気に見せる構成で、盛り上がりや人物の心情の変化もちゃんと描いているしで、「トリフィドの日」のどうしようもない駄目な感じをここまで作り上げ、三時間でこれだけちゃんとまとめ上げているBBCは流石。

☆☆☆☆★
 
 
関連:トリフィドの日

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