ザ・ラストシップ

2016年01月08日 金曜日

2014年からTNTで放送され、2016年の夏からシーズン3が開始される事が決定しているテレビドラマ「ザ・ラストシップThe Last Ship)」
ウィリアム・ブリンクリーの小説「ザ・ラストシップ」が原作。

トム・チャンドラーが艦長を務めるアメリカ海軍駆逐艦ネイサン・ジェームス号は外部との接触を絶ち、北極海での極秘任務を行なっていた。ネイサン・ジェームスにはCDCの細菌学者であるレイチェル・スコット博士も同行していたが、艦長並びに船員達には何をしているのかは明かされないままだった。
レイチェル・スコット達が外部での調査中にロシア軍からの攻撃を受け、艦長はレイチェル・スコットに何をしているのかを問いただすと、世界中で致死率の高い謎のウイルスが蔓延し、それを調査しワクチンを作る為に働いている事を明かす。極秘任務はこのワクチン製作の為の表向きの理由だった事も知る。
艦長達は隔絶した状態から外部の状況を調査すると世界中で多くの死者が出ており、各国政府は壊滅状態。世界は滅亡へと向かっており、唯一の希望はレイチェル・スコットの研究であり、それを守るネイサン・ジェームスだけだった。

このドラマは全く噂も知らず見る気も無かったけれど番組表で偶々見つけ、「製作総指揮マイケル・ベイ」と書かれていた時点で、「ああ、マイケル・ベイなら、大味のアレなドラマなんだろうなぁ…」と更に見る気を失くした一方で、「全米ケーブル局新作ドラマ視聴率No.1を獲得!!」とも書かれていたので、「まあ見てみて、おもしろくなかったら止めにしとうこうか…」位の気持ちで見始めたら、これがどうして滅茶苦茶おもしろく、2015年に新たに見始めたドラマの中では抜群に抜けたドラマだった。

もう初めから、二時間の映画で起こる様な劇的な展開をバンバン見せ、掴みからバッチリ。
閉鎖された一隻の軍艦が良く知らない科学者の研究に付き合っていたかと思ったら、突然のロシア軍の攻撃。そこから実は世界は崩壊しているという事実を知る所まで一気に話が展開してしまう。連続ドラマなのにここまで一話しかないんだから急展開。もっとじっくりとここら辺を描くのかと思ったら、映画並みの速さで展開するんだから、ワクワク感は止まらない。

その後も徐々に世界がどうなっているのかのホラー的なSFを描きながら、ロシア軍との駆け引きや上陸作戦といった心理戦有り、銃撃戦有りのサスペンスフルなアクション。ワクチンの開発が本当に出来るのかの科学・医療話。世界とは隔絶され、戦艦だけが唯一の世界となった中で描かれる登場人物達の心情や行動も有りという密室劇的要素もある様々な要素が詰め込まれたドラマとなっている。
似た様な設定の「スタートレック」、特に周囲に仲間がおらず孤立した状況で僅かな希望を持って航行する「スタートレック:ヴォイジャー」や、見た事無いのでほぼわたしの偏見から来る印象だけだけれど「GALACTICA/ギャラクティカ」の様なドラマでしていた事を現実味のあるほぼ同時代のSFとして描いていて、SF的な部分もくすぐられる感じ。
似ていると言えば、スタートレックシリーズ伝統の「見た事の無い乗組員が急に登場したら、その人物はその回で死ぬ為だけに登場した」という部分もあったし。

基本的には一話でその回の問題は解決する様な話の展開にはなっているけれど、燃料補給はどうするのか?食料・物資調達は?敵や病人との交渉は?そもそも艦に危険が及ぶかもしれない接触は絶つべきだ…等々の問題が雪崩式に毎回訪れ、これを緊迫感を持って見せて行くのだから見事。
ただ、シーズン1は全10回なので、閉鎖された艦内での人々の心理や心情をもっと描いても良いと思える部分も結構あり、世界に残された我々…感がもっとあったら更に登場人物達が立つのになぁ…とも思った。

それに演出も上手い。
軍艦を運営する為の手順動作をちゃんと見せ、艦長が命令を出すと副官や艦橋の部下が復唱し、測量担当が敵までの距離を計算し、通信使やレーダー担当が情報を確認して伝え、その伝令が砲弾の装填部署へ行き、装填し、砲塔が動いて発射するという細かな手順をきっちり見せ、軍艦の仕組みがどういったモノなのかを教えつつ、この一つ一つの手間を見せる事で徐々に緊迫感を高めて行くという効果にもなっているので、やっとの発射に「おー!」となり、きっちり直撃するのも納得する作りになっている。

また、登場人物はほぼ軍人なので自分達の置かれた状況を早く理解し、自分が何をすべきなのかを把握し行動するのも見ていて気持ち良い所。
この手のパンデミック・サスペンスって、大概一生懸命に対処している人間に対しギャーギャー騒いで邪魔なだけの人物が多く登場するけれど、そこら辺が無く、目的に向かって行動して行くのでドラマの展開が留まる事無く流れて行く。

話は非常に良く出ているし、緊張感が常にあり、どうなるの?の展開で一気に捕まれたのだけれど、初めて見た時気になったのは演じ得ている役者陣。これが皆地味で、「この顔ぶれ地味過ぎて、ドラマ引っ張って行けるの?」と不安になったけれど、これもドラマが進むに連れ各人の見せ場がちゃんと出て来るし、所々で脇役の人にもちゃんと焦点を当てて、この人はどういった人物なのかを描いているので、徐々に役が立ち始め、地味さが役に対する真実味を上げて行くという好循環ともなっている。
初め見た時、主人公となるであろう艦長のトム・チャンドラー中佐役のエリック・デインと、副長のマイク・スラッタリー中佐役のアダム・ボールドウィンが余りに地味で目立たないのに、話が進むに連れちゃんと男前に見えて行くのは脚本の上手さ。

役柄上で興味が行ったのは、この二人の関係。
船モノの映画やドラマでは、大概年齢や考え方に開きのある艦長と副長という組み合わせが多い様に思う。例えば、若くて向こう見ずな艦長と、それを制止しながらも導いて行く年上の副長という様なカーク船長スポック的な組み合わせや、逆に年配で冷静な艦長と若く艦長に意見したい副長という様なピカード艦長ライカー副長的な組み合わせとか、ガッチガチの保守派でやたらと交戦的な歳の行った艦長とリベラルでエリート士官で慎重には慎重を期す若い副長という「クリムゾン・タイド」のラムジー大佐とハンター少佐の様に、対称性をはっきりさせる事で対立と理解を際立たせる事が多いのに、このドラマの艦長と副長はそうでもない。
ちゃんと艦長と副長の対立は序盤はそれなりにあったけれど、ほぼ協調して艦を守る、ワクチンを開発するという目的を目指して対立は少なくなるし、何より二人の関係性が対称的でもない。
元々二人共中佐で艦長と副長なのに階級が同じなのが何で?という部分ではあるけれど、話している感じでも絶対的な階級差が無く、昔ながらの友人同士で話している感じもある。
対立構造が欲しい所でこの並列的な艦長と副長にしたというのは、テレビドラマで続けて関係性を描けるという自信からなんだろうか?結構目新しい設定で、ここの関係性がどうなのかでも興味が湧いた。

このドラマは設定や展開は非常におもしろいのだけれど、気になるのはそれぞれの人種や職種の描き方。
アメリカ海軍の兵士は常に思いやりと勇気があって、国や人々の為に自分の身を犠牲にしても行動するけれど、ロシア人は世界が崩壊しても自分の権力を見せつけ、仲間や部下であっても何とも思わずに殺してしまうサイコパスで、世界を支配しようとしている悪人って、昔の安っぽいアクション映画でもないんだから、この描き方は流石に安っぽ過ぎる。
まあ、現実的に「世界が崩壊した後で違う国の軍隊と出会ったので協力して問題を解決しました…」じゃあ、折角の軍艦が舞台なのに派手なドンパチが無くなってしまい映像的な見せ場が無くなってしまうから悪い敵は必要と言うのは分かるけれど、それにしても安っぽい。これがロシア軍の戦艦ではなく同じアメリカ軍の別の戦艦と戦う事になるのだったらおもしろそうだけれど、同士討ちなんて…って事で制作側で色々問題ありそう。ただ、この同族での対立はシーズン1の終盤で現れて来たのでシーズン2で本格的に描かれるんだろう。
他にも、中南米では麻薬王が自分を頂点とした社会を築き、普通の人々は支配されるだけで、そこに正義のアメリカ軍が現れて解放。その人々の後の事は知りません…って、映画でも現実でもある分かり易い構図と言えばそうなんだろうし、展開上その方がやりやすいのは分かるけれど、こんな描き方だと話も非常に薄っぺらになってしまっていたしなぁ。
また、アメリカ大統領は良い人。政治家は自分の権力を誇示し、多くの人が犠牲になっても自分の思う世界を作ろうとする。普通の市民は暴徒化するか、銃を持って殺人も平気でしてしまう頭のおかしい人間になるとか、どの人物も典型的でしかない人物像ばかりで、折角話や展開がおもしろいだけに、この人物達の描き方で結構損している。戦艦内の人々が多様で活き活きと描かれている分、その周辺の人々ももっと練って欲しかった。

あと、気に入らないのは日本版の製作。
毎回、頭に「私はアメリカ合衆国海軍駆逐艦ネイサン・ジェームス艦長トム・チャンドラー。~…」と粗筋の説明があった後に続けて前の回の粗筋紹介が入り、更に前回の終わりの部分を少し流してから今回の放送に入るという構成が非常にうっとおしい。二度手間な粗筋見せって、視聴者に優しい構成ではなく、馬鹿が途中から見ても分かる様に…でしかないじゃん。
更に、本編が終わった後に日本独自のエンド・クレジットが入り、これで流れているUNISON SQUARE GARDENの曲がドラマの雰囲気と全然違ってドラマを台無しにしている。しかも、2分近くもあり長い。これはUNISON SQUARE GARDENの曲が悪いとかではなく、ドラマの雰囲気と全然違う歌を無理矢理入れ込んでいる製作が悪いだけ。

そして、一番の違和感は、吹き替えの「艦長」の発音。これが物凄く気持ち悪い。
一般的な「艦長」の発音って、「か」にアクセントが来る「んちょう」だと思うのだけれど、このドラマでは何故か発音が平板な「かんちょう」。「艦橋」と同じ発音。
何でこんなヘンテコな発音にしたのかと思って調べてみたら、どうやら日本の旧海軍や海上自衛隊での独自の発音がこの平板の「かんちょう」らしいかららしい。
これ、まだ実際に演じている役者達が「Captain!」と言う時に、一般的な「kˈæptən」という発音ではなく「kæptən」と言うヘンテコな訛りのある発音しているなら日本語吹き替えもそうなるのは分かるけれど、何で無理矢理原語とも違う余計な演出を入れるのだろうか?毎回「アメリカ合衆国海軍駆逐艦ネイサン・ジェームス」と言っているのに、何でアメリカ海軍の軍人が海上自衛隊だけの平板の「かんちょう」という発音にするんだろうか?これこそ、見事な蛇足のお手本。
この発音は吹き替えている声優自身もネタにしているし(『THE LAST SHIP』10月12日(月)より日本初放送! 迫力のスケール感と「艦長」の呼びかけに注目!?)、本当にさっさと止めて欲しい。

このドラマ、緊張感と言い、「どうなるの?」の展開の楽しさも有り、久々に毎週楽しみに待つドラマだった。
しかし、シーズン1でワクチン開発してしまっていいの?とは思う終盤。「ザ・ラストシップ」なので、唯一残された船感があったシーズン1から、シーズン1の最終話を見ていると、どうやら地上の勢力争いに絡んで来る様なシーズン2になる様で、それでもちゃんと「ザ・ラストシップ」感はあるんだろうか?これだけやったシーズン1以上におもしろいんだろうか?と結構不安。
アメリカでの視聴者数を見ると、シーズン1は各話400万人を超えていたのに、シーズン2では400万人を超える事無く、最高で328万人で、ほとんど300万人以下と結構急激に視聴者数落ちているし。
シーズン1からの期待で楽しみではあるけれど、非常に不安。わたしが見ているドラマで最近多い「シーズン1でブチ上げておいて、その後グダグダになって打ち切り」という事だけは止めて欲しい…。
 
 
関連:前期のドラマは「ザ・ラストシップ」と「CSI 5」

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